第10話 王都がゴブリンで滅びかけている頃、俺たちは伝説級(レジェンド)のスタンピードを収穫祭に変えていた

 建国(という名の拠点生活)二日目の朝。


 優雅に朝食の『深層野菜のサラダ』と『コカトリスの卵のオムレツ』を食べていると、要塞の警報が鳴り響いた。


 ウウウウウウウッ!!


【警告:大規模な魔物の進行を確認。スタンピード(大氾濫)発生】 【推定数:3000体以上】


「なっ……!?」


 フォークを落としたのは、剣聖レオンだ。


   彼は顔色を変えて立ち上がった。


「ス、スタンピードだと!? しかも深層で三千!? おいディラン、逃げるぞ! いくら俺たちでも、そんな数は捌ききれない!」


 ソフィアも杖を握りしめ、悲壮な顔をしている。


「……王都の全戦力を投入しても勝てるかどうか……。ここで私たちが食い止めて時間を稼ぐしかないわね……」


 Sランク冒険者らしい、素晴らしい危機管理能力だ。  だが、この拠点の住人たちは違った。


「あーあ。朝から騒がしいですねぇ」


 アリシアはパンを齧りながら暢気なものだ。


「おい大将。迎撃システム、起動していいか?」


 ザインはニヤニヤしながら制御盤に向かっている。


「おにく! いっぱい来る! 食べ放題!」


 ルナに至っては、涎を垂らしてナイフとフォークを構えていた。


「……お、お前ら、正気か?」


 呆然とするレオンに、俺は肩をすくめた。


「レオン、ソフィア。お前らも『バフ(強化)』がかかれば分かるさ。……全員、配置につけ!」


 俺は管理者権限を発動させる。


【パーティ全員に付与(エンチャント):全ステータス5倍、自動回復(リジェネ)、スキルクールタイム・ゼロ】


 カッ!!  全員の体が虹色の光に包まれた。


「な、なんだこの力は……!? 体が……燃えるように熱い……!」


「魔力が……溢れて止まらないわ!」


「行け! ただの『害虫駆除』だ!」


 俺の号令と共に、要塞の門が開かれた。


 ◇


 外は地獄絵図だった。

 ドラゴン、キマイラ、ヒュドラ。伝説級の魔物が軍勢となって押し寄せている。  本来なら、世界が滅ぶレベルの災害だ。


 だが。


「ははっ! 軽い! 剣が綿毛のようだ!」


 レオンが笑いながら剣を一閃させる。


 それだけで衝撃波(ソニックブーム)が発生し、先頭のドラゴン十頭が首を落として絶命した。


「……嘘。私の初級魔法が、戦略級魔法になってる?」


 ソフィアが放った『火球(ファイアボール)』は、着弾と同時に核爆発のようなきのこ雲を作り出し、魔物の群れを数百体まとめて蒸発させた。


「あはははは! 私の盾は抜けませんよぉ!」


 アリシアが巨大な盾で突進(シールドバッシュ)するだけで、ヒュドラがボウリングのピンのように吹き飛んでいく。


「お肉ぅぅぅぅ!!」


 ルナが九本の尻尾を展開し、狐火で魔物を焼き尽くしていく。


 スタンピード?  違う。これは一方的な『虐殺』であり、効率的な『素材回収作業』だった。


 ◇


 一方その頃。王都。


 街はパニックに陥っていた。


「ひ、ひいいっ! ゴブリンだ! ゴブリンが壁を越えてきたぞ!」


「騎士団は!? 勇者様は何をしているの!?」


 ディランの結界メンテナンスが途切れたことで、外壁の防御機能が低下。


 そこから侵入したわずか数十匹のゴブリンに、王都は大混乱に陥っていた。


 そして、頼みの綱である『新勇者』のパーティは。


「くそっ、なんだこの数は! 聞いてないぞ!」


 金色の鎧を着た新勇者(キザな男)は、たかだか三匹のゴブリンに囲まれ、剣を震わせていた。


「おい魔導師! 援護しろ!」 「む、無理よ! 魔力ポーションが切れたわ!」 「僧侶! 回復だ!」 「さっき使いました! もうMPがありません!」


 連携もボロボロ。装備の手入れも行き届いていない。  彼らは知らなかったのだ。  今までディランが裏でどれほど細かくサポートし、ポーションを補充し、装備をメンテし、敵のヘイト(敵意)を管理していたかを。


「うわあああ! くるな! 俺は勇者だぞぉぉぉ!!」


 勇者は無様に尻餅をつき、逃げ出した。


 ◇


 深層、俺たちの拠点。


 三十分後。  三千体の魔物は、きれいさっぱり『素材の山』に変わっていた。


「……終わったな」


 俺は山積みになったドロップ品を見上げた。


 ドラゴンの牙、キマイラの毛皮、そして大量の極上肉。


「ふぅ……いい運動だったな」


 レオンが爽やかな笑顔で汗を拭う。そのレベルは、この一戦だけで【35→82】まで跳ね上がっていた。


「信じられない……これだけの素材があれば、国の一つや二つ、本当に買えてしまうわね」


 ソフィアが呆れたように笑う。


「よし。今夜は『ドラゴンステーキ』と『ヒュドラのしゃぶしゃぶ』だ! 宴会の続きだぞ!」


「「「おーー!!」」」


 俺たちは勝利の美酒に酔いしれる。  


 地上で勇者がゴブリンに追い回されている頃、俺たちは神話級の魔物をツマミに、最高に贅沢な時間を過ごしていた。


(第10話 終わり)

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