第9話 王都がパニックになっている頃、俺たちは深層でSランク宴会を開いていた

 俺の拠点(ログハウス改め要塞)のリビングに、重苦しい沈黙が流れていた。


 ソファには、疲労困憊の剣聖レオンと、大賢者ソフィア。  対面には、俺とアリシア、そしてザインとルナ。


 レオンが震える手で、俺が出した「ウェルカムドリンク(搾りたてフルーツジュース)」を一口飲み、呻くように言った。


「……なぁ、ディラン。確認だが、ここは深層70階層だよな?」


「ああ。地図上ではな」


「俺たちが必死の思いで……泥水を啜りながら降りてきた『死のダンジョン』だよな?」


「まあ、一般的にはそう呼ばれてるな」


 バンッ!!


 レオンがテーブルを叩いた。


「ふざけんな! なんだこの快適空間は! 王都の高級ホテルより空調が効いてるぞ! それに風呂! ジャグジー付きってどういうことだ!?」


「まあまあ、落ち着けよ。血圧上がるぞ」


 俺は苦笑しながら、追加の料理をテーブルに並べた。  今日のメインディッシュは『クラーケンの足のガーリックバター焼き』と『深層野菜のポトフ』だ。


「……いい匂いね」


 それまで黙って周囲を観察していたソフィアが、眼鏡の奥の瞳を光らせた。


「説明は後。まずは食事よ。……私たち、ここまで来るのに携帯食料(カロリーバー)しか食べてないの」


「おっと、そりゃ悪かった。遠慮なく食ってくれ」


 二人は猛然と料理に手を付けた。  そして一口食べた瞬間、動きが止まった。


「「……!!」」


 二人の目から涙が溢れ出した。


「うっ、うまい……! なんだこれ、魔力が細胞に染み渡る……!」


「嘘でしょ……このポトフ、Sランクポーションより回復効率が高いわ……」


 Sランク冒険者にあるまじき勢いでガツガツと食べる二人。  それを見て、ザインとルナが「うんうん、わかるよその気持ち」と先輩風を吹かしている。


 一通り腹を満たし、落ち着いたところで、ソフィアが鋭い視線を向けてきた。


「……さて。ディラン、説明してくれるわよね? そのふざけた家のことも、隣にいる美女と亜人たちのことも」


「ああ。こっちは聖騎士のアリシア。こっちはザインとルナだ」


 俺は簡単に紹介し、自分の能力についても(バグ云々は伏せて)『遊び人』の隠しスキルだと説明した。


「……なるほど。『遊び人』がそんなデタラメなジョブだったとはね」


 ソフィアは呆れたように息を吐き、そして真顔になった。


「でも、あなたの無事が確認できてよかったわ。……今、王都は大変なことになっているのよ」


「大変?」


「ええ。あなたが追放されてから、王都の機能が麻痺し始めているわ」


 レオンが引き取って語りだした。


 話を聞くと、予想以上に酷い状況だった。


 まず、俺がメンテナンスしていた都市結界が弱まり、低級の魔物が街中に侵入。  貴族街の魔道具インフラ(水道・ガス代わりの魔力供給)は全停止。  さらに、俺の代わりに『選定の儀』で『勇者』に選ばれた男が率いる新パーティが、初陣でゴブリン相手に大怪我を負って逃げ帰ってきたらしい。


「ざまぁ見ろって感じだな。親父や兄貴たちはどうしてる?」


「顔面蒼白でお前を探し回ってるよ。『ディランを連れ戻せ! あれは我が家の恥だ(本当は直せないと困るから)』と喚き散らしてな」


 レオンは嘲るように笑った。


「俺たちはそんな連中に愛想が尽きて、ギルドカードを叩き返して出てきたってわけだ」


「……そうか。悪かったな、俺のために」


「水臭いこと言うな。俺たちはパーティだろ?」


 レオンがニカッと笑い、拳を突き出してくる。  俺はその拳に自分の拳を合わせた。


「で、どうするの? ディラン」


 ソフィアが問いかける。


「王都に戻って、土下座する家族や教会を助けてあげる? 今なら英雄扱い間違いなしよ」


 俺は即答した。


「まさか。あんな泥舟に戻る気はない」


 俺は窓の外、広大なダンジョンの闇を見渡した。


「俺はここに『国』を作る。  教会も、王家も干渉できない、俺たちだけの楽園だ。  うまい飯を食って、好きなように生きて、たまに襲ってくる魔物を返り討ちにして経験値にする。……最高だろ?」


 俺の言葉に、全員の目が輝いた。


「いいですね! 私も、あんな騎士団に戻る気はありません!」(アリシア) 「アタイたちも、ここが一番安全だしな」(ザイン) 「お肉がいっぱいなら、ルナここがいい!」(ルナ)


 そして、レオンとソフィアも顔を見合わせ、深く頷いた。


「……面白そうだ。乗ったぜ、その話」


「フフ、国作りなんて、大賢者の研究テーマとしても興味深いわね」


 こうして、方針は決まった。


 王都が崩壊の危機に瀕している中、俺たちは深層で『独立国家』の樹立を宣言した。


「それじゃあ、建国記念パーティといくか!」


「「「おー!!」」」


 楽しげな笑い声が、夜のダンジョンに響き渡る。


 地上で元婚約者や家族が、「お湯が出ない!」「魔物が怖い!」と泣き叫んでいることなど知る由もなく。


 俺たちの優雅な『ざまぁ』ライフは、まだ始まったばかりだった。


(第9話 終わり)

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