第6話 検証、遊び人のスキルツリー。……これ、スキル名と効果が一致してないぞ?

 ログハウスでの一夜が明け、俺たちは活動を開始した。


 目的は、この『奈落の大穴』の攻略。


 そして、俺の職業である『遊び人』の能力検証だ。


 まずは手始めに、そこらを彷徨っていた『重装オーク』の群れに突っ込んでみたのだが――。


「――はあああっ!!」


 ズパァァァァンッ!!


 銀色の疾風が駆け抜けた瞬間、五体のオークが同時に両断された。


 鮮血の花が咲く中、大剣を振り抜いたアリシアが、キラキラした笑顔で振り返る。


「すごいです、ディラン様! 体が羽のように軽いです!」


 彼女は重装備のまま、残像が見えるほどの速度でバックステップを踏み、再び加速。


 残りのオークも、反応する間もなくミンチに変わった。


「見えます! 敵の動きが止まって見えます!」


「……そりゃよかったな」


 俺は苦笑いしながら、ドロップアイテムを自動回収する。


 レベル50超えのステータスに、装備の重量軽減。


 元々『天才』と呼ばれていた彼女の戦闘センスが、枷(リミッター)を外されたことで爆発していた。


(……こりゃ、俺が手を出すまでもないな。前衛は彼女一人で十分だ)


 ならば、俺は後衛としてサポートに徹するとしよう。


 俺は戦闘中の暇つぶし……もとい、検証のためにステータス画面を開いた。


 確認するのは『遊び人』の職業スキル(ツリー)だ。


 職業:遊び人×3。


 このふざけたジョブには、いくつか固有のスキルが存在する。


 だが、その名称はどれも舐め腐っていた。


【石投げ】 【口笛】 【運命の悪戯(ジョブ・ルーレット)】


 ……なんだこれは。


 勇者の【聖剣技】や、賢者の【大魔導】に比べて、あまりにも貧相すぎる。


 だが、俺の『バグ(Free)』による補正と、詳細テキスト(ソースコード)を見ると、様子がおかしいことに気づく。


【石投げLv1】  説明:手頃な石を投げる。

 内部処理:対象座標への物理オブジェクトの高速射出。質量保存の法則を無視。必中属性付与。


(……質量保存を無視? 必中?)


 俺は足元の小石を拾った。


 ちょうど、奥から増援の『ワイバーン(飛竜)』が飛んできたところだ。


 普通なら、上空の敵には弓か魔法が必要になる。


「……試してみるか。【石投げ】」


 俺は適当に腕を振った。


 ヒュンッ。


 指先から放たれた小石は、音速を超えた。


 衝撃波(ソニックブーム)を纏って赤熱し、一直線に空を切り裂く。


 ギャアッ!?


 ワイバーンは回避運動を取ろうとしたが、石は軌道を直角に曲げて追尾し――


 ドォォォォンッ!!


 頭部に着弾した瞬間、小石が大爆発を起こした。


 ワイバーンの頭が消し飛び、巨大な体が墜落してくる。


「……なるほど。運動エネルギーの計算式がおかしいな」


 たぶん、石を『砲弾』レベルの質量として処理してやがる。


 俺は冷や汗を拭った。これ、子供の喧嘩で使ったら殺人事件になるぞ。


「次は……【口笛】か」


 俺は軽い気持ちで、ヒュ~、と口笛を吹いてみた。


 瞬間。


 ゾワリ、とダンジョンの空気が変わった。


 ゴゴゴゴゴ……ッ!!


 地面が揺れる。壁の向こう、天井の穴、あらゆる場所から殺気が膨れ上がる。


【スキル効果:対象エリア内の敵対性生物(モブ)への強制挑発(アグロ)。集合命令】


「……おい、嘘だろ」


 俺が呟いた直後。


 通路の奥から、無数の魔物の群れが雪崩のように押し寄せてきた。


 オーク、ミノタウロス、バジリスク、キメラ。


 この階層にいる魔物が『全員』、俺の口笛を聞いて駆けつけてきたのだ。


「えっ!? な、なんですかこの数は!?」


 さすがのアリシアも、百を超える魔物の大群を見て顔を引きつらせる。


「すまん。ちょっと呼んじまった」


「呼んだって……ディラン様、まさか魔物を呼び寄せる魔法まで!?」


「まあ、そんなところだ。……ちょうどいい経験値稼ぎ(トレイン)だろ? アリシア、やれるか?」


「……っ! はい、お任せください!」


 アリシアが大剣を構え、不敵に笑う。


「ディラン様の背中は、一本たりとも通しません!」


 彼女が群れに飛び込んでいく。


 俺はその隙に、最後のスキルを確認した。


「……【運命の悪戯(ジョブ・ルーレット)】?」


 説明文にはこうある。 『300秒間、一時的に職業をランダムに変更する。排出率は運に依存』。


 俺がアイコンをタップすると、視界に巨大なスロットマシーンが出現した。


 キュインキュインキュイン!!


 派手な音と共にリールが回転する。  

『騎士』『魔術師』といった並ジョブに混じり、一つだけ虹色に輝く見たこともないジョブが混ざっている。


 普通なら、こんな運任せのスキルは怖くて使えない。戦闘中に『農民』なんか引いたら即死だ。


 だが。


「……見えた」


 俺の【解析】眼には、回転するリールの『当たり判定』が、フレーム単位でスローに見えていた。


 運任せ? まさか。  

 プロの『遊び人』は、運命すらも盤面の上でコントロールする。


「……ここだ」


 パチン。


 指を鳴らすと同時に、リールを強制停止させる。  

 寸分の狂いもなく揃ったのは、禍々しくも神々しい、虹色のドクロマーク。


【ジャックポット!!(SSR確定)】 【一時的ジョブチェンジ:『冥王(ハーデス)』】


 ドォォォォン……ッ!!


 俺の体から、漆黒のオーラが噴き出した。  

 ただ立っているだけで、周囲の岩盤が腐食し、空気が凍りつく。


「……おいおい。こいつは『勇者』どころか、ラスボスのジョブじゃないか」


 俺は自分の掌を見つめる。握りしめただけで、空間にヒビが入った。


「300秒限定の無敵時間(スター状態)ってわけか。……検証には十分すぎるな」


 俺はニヤリと笑い、群がる魔物の大群へと足を踏み出した。


 ◇


 一方その頃。


 王都の冒険者ギルドは、嵐のような騒ぎになっていた。


「――おい。聞こえなかったのか?」


 受付カウンターの前。


 剣聖レオンが、凍りつくような笑顔でギルド職員を見下ろしていた。


 その腰の聖剣には、まだ手がかけられていない。だが、溢れ出る殺気だけで、周囲のベテラン冒険者たちが震え上がっていた。


「で、ディランを追放したのは教会(うえ)の指示で……私どもは何も……!」


「言い訳はいい。あいつはどこへ行った?」


 横から、大賢者ソフィアが冷淡な声で割り込む。


 彼女の周囲には、すでに詠唱待機状態の魔力球がいくつも浮遊していた。


「ほ、北の……『奈落の大穴』へ向かったとの情報が……!」


「奈落だと?」


 レオンとソフィアが顔を見合わせる。


 あそこは、処分場と呼ばれる死地だ。


 だが、二人の顔に浮かんだのは絶望ではない。確信だ。


「……あいつなら、生きているな」


「ええ。むしろ、あそこの生態系を破壊して住み着いている可能性すらあるわ」


 二人は踵を返した。


 目指すは北。


「行くぞ。馬鹿な教会連中が気づく前に、俺たちで確保する」


「ええ。……それにしても、許せないわね」


 ソフィアが眼鏡の位置を直し、ポツリと呟く。


「私たちに黙って、勝手にいなくなるなんて。……見つけたら、たっぷりとお仕置き(説教)が必要だわ」


 最強の剣士と魔術師。


 かつての仲間たちが、ディランを追って動き出した。


(第6話 終わり)

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