4. 深まる謎
(ところで奥さんは)
「奥さんじゃないです独身です」
(お嬢さんはなんというんですか?)
首はないので身体を僅かに傾げて首無しが問うてくる。愛嬌があるから不思議なものだ。
正直こっちはほぼ何もわかっていないのでフェアじゃない感じがして気が乗らないが、今後奥さんとかお嬢さんとか呼ばれるのもそれはそれで気持ち悪いので私はパスタサラダを突きながら小さく名乗った。
「葉仁。
(ハニーさんというんですね)
沈黙。
「……」
(……?)
「…、葉仁」
(ハニー?)
「はにっ」
(ハニィ?)
「なんでそんなどんどん気持ち悪くなんの!?」
ダーリンと呼べと。もしくは蜂蜜呼ばわりか。
首無しはおろおろして、思いついたように謝った。
(違うんです、これは、確認の疑問符です!)
疑問符とはクエスチョンマークのことである。そこじゃねぇ。
反応を見るに無自覚のようだから仕方ない。誤解答には適当に相槌を打って食事を進める。夕飯は朝昼と違ってあとに仕事がないからのんびりできるとはいえ、あんまりゆっくりし過ぎると喧騒が絶えて目立ってしまう。知ってる人に声を掛けられたくないし。
以降の首無しは呆けたようにただ座っているだけだった。私だけが物を食べているのは仕方ないとはいえ変なかんじがしたし、彼には目がないくせにずっと見られてる気分がして落ち着かない。
本来沈黙にはそれなりに強いほうだけれど、このシュールな沈黙に耐え兼ねた私は結構突っ込んだ振りをした。
すなわち。
「……なんで首ないの?」
これ聞いて大丈夫だったろうか。首無しって呼ぶことに関しては何の問題もなかったけど、彼にとってわりとネックな問いじゃないだろうか。…いやジョークではなくて。
実際応答までにかなりの間があったから、撤回しようか悩み始める。でもここで撤回したら二度と聞けない気がしてなかなか踏み切れないでいた。
そして彼の言うことには。
(……私そんなに太ってますかね?)
「そっちじゃなくて…! スレンダーだよ悔しくなるくらいには! じゃなくて、頭! なんで頭ないのっ!」
(…そんなに疑問符嫌でしたか…? でもアタマないなんて言い方は流石に傷付きます……)
「じゃなくて!」
思考能力の話でもなくて。物理的なさ。ほら。だって。
どう説明すべきか考えあぐね、やがて諦めた。ごめん、忘れて、と告げて私は食事を再開し、不思議そうにしつつも首無しはやはりそこに座り続けていた。
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