本音は…

うどんこんど

本音は…

「お待たせ」


「ありがと。遅かったね」


「混んでたんだよ」


 なんて言いながらトシヤが向かいの席に座る。


「はい、赤点さんにはコーヒー」


 と言って私の前にコースターを敷いてからコーヒーを置いてくれる。


「あー、言っちゃダメなヤツー。で、そっちは何?」


「シェイク。バニラ味」


 ぶっきらぼうにトシヤは言う。


「お子様だねぇ、まったく」


 ふふん、とハナで笑いながら私はトシヤに言う。


「まーでも微分積分は出来るからね、誰かさんと違って」

 

 チラッとコチラの様子を伺いながらトシヤは言う。


「もうっ!」


 私はほんの数時間前に行われた数学のテストで大撃沈したのだ。それはそれは目も当てられないほどの大撃沈だった。


「あーあカワイソウに。夏休みは補習だな」


 同情するように慈しむような目で、それでいて意地悪そうに口角を上げてトシヤは言った。表情管理が器用だな、コイツ。


「アー!」


 そう声を出して耳を塞ぐ。そんな私の声は平日の昼下がりのハンバーガーショップのノイズに溶け込んで消える。


「現実から目を背けちゃダメだぞ」


 と向かいの席から追い打ちがかかる。


「アーアーキコエナーイ!」


 先ほどより気持ち大きな声を出して再び耳を塞ぐ。不都合な現実からは目をそらすに限る。


「あ、ちょっとトイレ行ってくるわ」


 あきれた様子で私を眺めていたトシヤはそう言うと席を立って私の眼前から消える。


「はいはい、行っトイレ」


 とトシヤを送り出して一人残された私は所在なさげにコーヒの入った紙コップをくるくる回す。


 全くなんなんだ、アイツは。


 テスト終了後に露骨に私が落ち込んでいた所に「帰りに、マッ○寄っていかね?」なんて声を掛けてきて巧妙に私を連れ出して。


 てっきり「ミサはよくがんばった」だの「ミサは悪くない、あんなテストを作る吉竹よしたけが悪いよな」なんて目一杯私を励ましてくれるものだと思ったのに。さっきから煽り倒しじゃないか。


 なんか、ガッカリだな。


 なんて一人で沈みながらカップをいじっていると下に敷かれているコースターに何か模様のようなものがあることに気付く。


 なんの模様だ?

 と思ったと同時に違和感を抱いた私は周囲を見回す。私と同じようにコーヒーを頼んでいる(と思われる)他のお客さんをみるとそこにはコースターは…敷かれていなかった。


 大体一杯100円そこらのコーヒーに一々コースターなんか付けるだろうか?


 謎を解きほぐすために私はカップを持ち上げる。


「もし補習になったらサインコサインタンジェントから教えてやるよ」


 そこにはそう書かれた。下手くそな字。理系科目ならともかく文系科目なら私の圧勝なんだから。


 それにしても。


 直接言ってくれれば良いのに。


 コップを元の位置に戻して素知らぬ顔で私は待つ。


 もう少し、アイツの下手くそな魔法にかかっておいてやろう。


 しばらくするとメッセージの主が嬉しそうな顔をしてトレイにポテトを載せて戻ってきた。


「いただきます!」

「あ、おい!俺のだぞ!」


 揚げたてのポテトを口に入れると小さな幸せが広がっていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

本音は… うどんこんど @udonkond

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画