第3話 首がすわるという奇跡

と、意気込んだはいいものの、赤ちゃんにとって、「首がすわる」というのは――

 たぶん、最初のラスボスだと思う。


(重い。とにかく重い)


 自分の頭なのに、制御不能。

 少し油断すると、ぐらん、と横に倒れる。


(これ成人が体験したら普通に怖いよ)


 侍女に抱き上げられるたび、私は必死だった。

 意識を集中し、首に力を入れる。


(耐えろ、私の首……!)


 当然、すぐにできるわけがない。

 筋肉が足りない。体が追いつかない。


(努力しても、物理的に無理なものは無理)


 でも、やらない理由にはならなかった。


 私は毎日、少しずつ挑戦した。

 起きている時間は、首に意識を向ける。

 倒れそうになったら、ゆっくり戻す。


(魔力制御と似てるかも)


 力を入れすぎない。

 抜きすぎない。

 ちょうどいいところを探す。


 失敗して、

 疲れて、

 眠って。


 それの繰り返し。


「最近、お嬢様、首がしっかりしてきましたね」


 ある日、侍女がそんなことを言った。


(来たか……!)


 私は内心、全力でガッツポーズを決める。


 でも、調子に乗らない。

 ここで油断すると、ぐらん、だ。


(慢心ダメ、絶対)


 そして――


 その日は、何の前触れもなくやってきた。


 抱き上げられた瞬間。

 頭が、揺れなかった。


(……あ)


 私は、ちゃんと前を向いていた。


(すわってる。首、すわってる!)


 世界が安定する。

 視界がぶれない。

 すべてが、はっきり見える。


(文明開化)


「まあ……!」


「本当に……!」


 周囲が小さくどよめく。


 私は、にこっと笑った。


(第一関門、突破)


 赤ちゃんとしては小さな一歩。

 でも、人生二周目としては大きな前進だ。


(次は、おすわりかな)


 完璧令嬢への道は、まだまだ遠い。

 でも、確実に前に進んでいる。


(努力は、裏切らない)


 私は今日も、静かに次を目指す。

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