終末世界を二人で旅する――ハンドルを握るのは、人間じゃない

インコ

第1話人がいる場所

荒れた道路を跳ねる車の運転席で、少女型の機巧人エマが、目も動かさず前を見据えていた。

タイヤが荒れた地面を叩く音だけが、終末世界に響いている。


「進路に問題はありません」


声は短く、正確で、眠らない存在を感じさせるだけだった。


窓の外には、焼けた建物の残骸が今も散らばっている。

人影のないこの景色を、俺はどれほど見てきただろうか。


そんな不安を抱く俺とは対照的に、彼女は表情を変えない。

風になびく銀色の髪を揺らしながら、ただ淡々と運転している。


俺は目を閉じ、車の揺れに身を任せる。

眠気も疲れもある。それでも前に進むしかない。

止まることはできない。


見えない未来も、何が待っているかも、まだ知らない。


それでも車は止まらず、俺たちは次の町へ向かっていた。

タイヤが地面を走る音だけが聞こえる。俺とエマの間に会話はない。ただ車の揺れに合わせて、同じ時間を運ばれている。窓の外を見ていると、人がさっきまでそこにいた様な痕跡が増えていく。

崩れた荷車。何度も踏み硬まった地面。

主人マスター右斜め前に集落が見えました。距離はあまりなさそうですが向かいますか?」

無機質な様にも聞こえるほど冷静にエマがこちらに問いかけてくる。


「あぁ、行ってみよう」

そう告げるとエマは「了解しました」と一言だけ告げハンドルを切る。車は静かに集落へ向かった。集落が近づくほど、防壁の様なものが大きく感じられた。驚きを感じながら防壁を見ていると車が止まる。

主人マスター入口と思われるものが見えました。では、今からは話し方を変えます」


車から出る。ずっと座っていたからか足が変な感じがする。そんな考えは次の瞬間に消え去った。集落から武装した男が降りてくる。そしてこちらを見つけ歩みを進め始める。それを見たエマは俺の一歩前に出て真っ直ぐと相手を見つめ右手で自分より前に出ない様にと俺に指示をする。


「こちらに攻撃の意思はない」


男が笑みを見せ持っていた武器を下ろすことで敵意がないことを示す。だがそれだけではエマは警戒を解くことはない。


「ちょっと待ってくれ。俺は敵対するつもりはない。この集落の門番の1人だ。要件だけ言うと、今持っている荷物を全て調べさせて欲しい」


当たり前の提案だ。俺たちがこの集落の人達に危害を加えない保証はない。

「一つ、荷物を調べることは了承した。だが後で俺たちも何か取られていないか調べさせて欲しい。この荷物は俺たちの生命線でもあるからな」


少し男は考え黙ったが直ぐに口を開く。


「わかった。荷物の確認が終わればこの集落に入ることを許す。だが、この集落の人間に危害を加えれば即武器を没収し外へ追い出すことになっているから気をつけろよ」


荷物の確認が終わり集落へ入ると少し寂れてはいるが集落の外とは違い多少のヒビはともかく崩壊した様な建物は少なく子供達が笑って走り回っている。ただ、集落といってもそこまで広いわけではない。感覚的には、体育館が3つ並ぶ程の大きさだろうか?


行人ゆきとはどこ行きたい?あっちには食料や道具が、こっちには飲食店があるよ」


集落に入ったことでエマは話し方を変えて話しかけてくる。毎回この変わり様には少し驚かされるな。さっきもエマが言っていたがこの集落には飲食店や食料の売っている店、道具店の3つの店が見える他はおそらく民家だろう。


最初は道具を見てみようと店内に入るが特に目を引かれる様なものはない。正直道具といっても今まで集めていたものに不満があるわけではない。現金も有限であるため店を出ようとするが、


「これとか買ってみない?」


エマが笑顔で大きなナイフを持ってくる。凄い絵面だが何で急にこんなナイフを持ってきたんだ?疑問に思ったのかエマは少し真剣な表情を作り話し始める。

「基本は私があなたを守ります。ただし、自衛用に持っておいて損はない筈だよ」


「でもお金は決して多いわけじゃないしあまり買わない方がいいんじゃ」


このナイフは高い。もっと安いものもあるそう思って手を伸ばすがエマに止められた。


「安全を買うためなら多少の出費はしょうがないよ」そう言ってエマは視線を俺から逸さなかった。


声こそ明るいが目や表情は真面目に俺の目を見つめている。本当に心から俺の身を案じているのか?…いや、ただプログラムされただけの機巧人ユニットに何を期待しているんだか。


ナイフを買った俺たちは店を出て昼飯を済ませるため飲食店へ向かう。飲食店はかなり空いているが店内も綺麗で居心地がいい俺はトーストを頼むが…結構高いな。そして注文した後ふと思い立った疑問を小声で投げかける。


「エマは食事とかできるのか?」


「うん、できるよ。でも必要はないから大丈夫」そんなことを言っていたら、店主がトーストを俺の目の前の机に置き向かいに座る。


「いや〜この時間は人が来なくてなぁ。暇だから話に付き合ってくれよ。聞きたいことがあれば答えられる範囲でなら答えてやるからよ」


「ここを出発してまた他の集落に行こうと思っていて、ここから近い集落があれば教えて欲しい」


店主は少し考え話し始める。「少し離れているが体感20km南に離れたところに一つそれよりも離れているが北の方にも一つある。南の方は多分こことあまり変わらない感じだと思う」


「じゃあ北は?」


「北は優しい人が多い集落で知られているんだ。ここの集落による前にそこの集落にいた旅人がみんなその集落を褒めてたからな」


「教えてくれてありがとう」


「この世界では助け合う方が絶対いい。それにいい暇つぶしができたこっちこそ礼を言うぜ」


できればここで食料も買っておきたかったが、まだ余裕があることと、金銭的な理由からエマに止められてしまった。車にエンジンをかけ集落を後にする。


車はただ次の目的地に向かい暗くなっていく世界を進んでいく。

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