第20話 混累の闇、断罪の刻
地下へと続く通路の奥。
空気は重く、湿り、どこか生臭さを帯びていた。
「……この奥が……」
コトリが、低く呟く。
「
「そのようだな」
「気を引き締めていきましょう」
「う、うん!」
レナも小さく息を吸い、覚悟を決めた。
――次の瞬間。
村正が一歩前に出て、扉を勢いよく蹴り開けた。
「大人しくしろ!
お前たちはもう終わりだ!」
鋼鉄の扉が激しく壁にぶつかり、轟音が地下に響く。
「…………」
室内は広く、異様な術式と器具が所狭しと並んでいた。
そして中央に立つ、一人の男。
「フンッ」
冷笑を浮かべ、男は振り返る。
「私を追い詰めたつもりか?……あまい!」
男――
「コレを見よ!」
「……何、これ……」
彩葉の声が、震える。
そこにあったのは――
歪に絡み合う肉体。
人と妖怪の部位が無理矢理縫い合わされ、脈動する巨大な存在。
「これは、人間と捕らえた妖怪を混ぜた人工生命体!」
康晴は恍惚とした表情で叫ぶ。
「その名も――
「……外道」
「いくらでも言うがいい!」
康晴は両腕を広げる。
「これから始まるのは蹂躙だ!!」
混累キメラが、ゆっくりと動き出す。
――ギィィ……ァァ……。
その体内から、か細い声が漏れた。
『た……すけ……て……』
『……いやだ……』
『……くるしい……』
「……っ!」
彩葉は思わず耳を塞ぐ。
「魂が……叫んでいる……」
陽菜が歯を食いしばる。
「行くぞ!」
村正が前に出る。
「斬る!」
鋭い一閃。
だが、刃は異様な肉の壁に弾かれた。
「チッ……!」
混累キメラが腕を振り上げ、地面を叩き割る。
「きゃっ!」
レナがよろめく。
「
「んーー!!」
六花のシールドが展開され、衝撃を防ぐ。
「……ストラップ・ニードルバインド!」
彩葉の拘束が絡みつく。
「……無駄だ!」
康晴が叫ぶ。
キメラの体が脈動し、拘束を引き千切る。
『やめて……』
『ころさないで……』
「……もう、終わらせる」
コトリが静かに前へ出る。
手をかざし、深く霊力を集中させる。
「……ッ!」
空間が歪む。
同時に、陽菜が銃を構えた。
「セイクリッドバレット!」
神聖な光が、キメラの核へと撃ち込まれる。
「ァァァァァ――!!」
叫び声が、重なり合って響いた。
「今じゃ!」
栞が叫ぶ。
「妖術・
無数の霊光が、キメラを包み込む。
「ば、バカな!!」
康晴が後ずさる。
村正が最後に踏み込み、刃を深く突き立てた。
「終わりだ!」
――ドンッ。
混累キメラの巨体が崩れ落ちる。
室内に、静寂が戻った。
「……しまいじゃ」
栞が呟く。
「大人しく、牢屋に入ることですね」
陽菜が康晴を見据える。
「……」
コトリが目を閉じる。
「……このキメラに取り込まれた魂たちは、無事に三途の川に向かったようです……」
「んー!んーー!!」
「……よかった……です……」
「あぁ」
「何か、しゃべることはあるか?」
村正が康晴に問う。
「ぐぐぐ……」
康晴は歯を噛みしめ、吐き捨てるように言った。
「霊鏡の妖怪どもに……安倍晴明が負けなければ……
我ら子孫は迫害されずにすんだのに……」
憎悪に歪んだ目で叫ぶ。
「あの女のせいで!
我が一族は!!」
「……
彩葉が首を傾げる。
「平安時代――」
村正が静かに語る。
「あの霊鏡は、妖怪と、妖怪と共に暮らす者たちの隠れ里と呼ばれていた。
今も……変わらんがな」
「そんなところが……」
レナが驚いたように呟く。
「……コトリ、こいつどうやって運ぶ?」
「……もう、人を呼んであります。おそらく、そろそろ……」
――その時。
遠くからサイレンの音が響いた。
「ほら……」
コトリが言う。
「僕は、残党がいないか見てくるよ」
陽菜が言い、踵を返す。
「あ、私も行きます!」
レナが後を追った。
――しばらくして。
「怪異警官の皆さまと、お仲間の皆様。
ご協力感謝します」
現れた警察官が深く頭を下げる。
「安倍康晴は、指名手配していた容疑者です。
ここは封鎖し、あとは我々が捜査します」
「……はい……お願いします」
「お疲れ様です」
そう言って、警官たちは康晴を連行していった。
次の日。
「皆さん……今回は、手助けありがとうございます」
コトリが深く礼をする。
「ううん、いいんだよ」
彩葉が笑う。
「これも、やることだから」
「……そうですか。
あ……皆様は、これからどこに?」
「決めて……ないな……」
「どうする?」
「ふむ……」
「……行き先がお決まりでないなら」
コトリが言った。
「四国に行ってみてはどうでしょう?
ちょうど、我々もそこにいる者たちに話したいことがあるので」
「……四国……?」
「四国か〜……」
彩葉がぱっと顔を上げる。
「うん!そこに行く!
みんなはどう?」
「僕はかまわない」
「いろんな……楽しみがありそうだな」
「オレもだ!」
「……うん……」
「妾もじゃ」
「私も〜!」
「……わかりました。六花」
「ん?んーー!んー!」
一同を包む光が、静かに広がる。
次の目的地へ――
新たな物語の地へ。
彩葉たちは、転移していった。
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