第19話 山を裂く銃声、闇を越えて

虫の声が、夜の山に響き渡る。

 湿った土の匂いと、木々のざわめき。その静寂を――


「シャイニングバレット!」


 陽菜ひなの声と同時に、光を帯びた銃弾が闇を切り裂いた。


「グァアァッ!」


 陰陽師の一人が吹き飛び、地面に叩きつけられる。


「敵襲だ!」


「怪異警官だ!怪異警官が来たぞ!」


 怒号が上がり、符が空を舞う。

 火、雷、呪文字――様々な術式が一斉に解き放たれた。


六花ろっか!」


「んーー!!」


 コトリの声に応え、六花が前に出る。

 瞬間、硬質な光のシールドが展開され、最初の猛攻をすべて弾き返した。


「……っ」


 エイは六花の背後に身を寄せ、必死に身を縮める。


くろ!」


「任せろ!ダークバインド!」


 喰が地面に手を叩きつけると、闇がうねりを上げて伸び、陰陽師たちの足と腕を絡め取った。


「こ、これは!?」


 術が封じられ、動きが止まる。


「陽菜!」


「エンチャントバレット!」


 銃声が連続し、山に反響する。


「ぎゃぁぁ!?」「ぐっ……!」


 拘束された陰陽師たちが次々と倒れていく。


彩葉いろは!」


「……ストラップ・ニードルバインド!」


 光を帯びたショルダーストラップが空を裂き、敵を拘束し、そのまま地面へと縫い止めた。


「グァァ!!」


 悲鳴が闇に消える。


 そのとき――。


「ほぅ……」


 低く、余裕を含んだ声が響いた。


「ここまで来るか、怪異警官とその助っ人たちよ……」


 現れたのは、筋肉質の陰陽師。

 異様な霊力を纏い、仁王立ちで道を塞ぐ。


「だが、ここは通さん。

 あのお方のため……通すわけにはいかない」


 コトリは何も言わず、静かに手をかざす。


「…………ッ!」


「フハハハハ!無駄だ!」


 筋肉質ね陰陽師が高らかに笑う。


「貴様の能力は若い男と女にしか効かないそうだな?

 大人の男には効果が薄い!」


「……それで、勝ったつもり?」


「そうだとも!貴様らに勝ち目は――」


「だ、だったら……私がやります!」


 震えた声が、しかしはっきりと響いた。


「フンッ!」


 筋肉質の陰陽師が鼻で笑う。


「キサマのような小娘に何ができる!

 いいだろう!一撃だけ、食らってやろう!」


 次の瞬間。


 レナの姿が、消えた。


「っ!? 早――」


「アナフィラキシーオーラ!!」


 レナの体から、淡く危険な光が広がる。


「……がっ……な、何を……」


 筋肉質の陰陽師の体が痙攣し、そのまま崩れ落ちた。


「……!」


 静寂。


「ただの、筋肉麻痺です」


 レナは息を整えながら言う。


「死には……しません」


 コトリは、何も言わずにその姿を見つめていた。


「すごいっ!」


 彩葉が目を輝かせる。


「そんな力があるんだね!」


「そ、そうですか……?」


 レナは俯く。


「でも……治療道具なのに、こんな能力……おかしいですよね。

 治療もできるんですが……」


「そう落ち込むこともない」


 村正むらまさが静かに言った。


「力とは、使い方一つで毒にも薬にもなるものです」


 陽菜が続ける。


「治療の裏側にある力を知っているからこそ、あなたは誰よりも『痛み』に敏感になれる。

 その能力を恐れるのではなく、どう役立てるか……それを一緒に考えていきましょう?」


「僕たち……仲間ですから」


「俺のような人斬り刀に比べれば」


 村正が肩をすくめる。


「お前の力は、よほど高潔だ。

 使い方は……お前しだいだ」


「そうだよ!」


 彩葉が笑う。


「それに私なんて、ただのバッグだよ!

 物を運ぶだけだけど……レナちゃんの力、かっこいいと思うな!」


「っ…………」


 レナの目に、光が宿る。


「……ありがとうございますっ!

 皆さん!私……皆さんのために、がんばりますね!」


「その笑顔も、お主の武器じゃ」


 しおりが微笑む。


「大切にせい」


「……うん……」


 影が小さく頷く。


「レナちゃんの……力……すごい……

 笑顔も……かわいい……と……思う……」


「そうだぜ!」


「んーー!んー!」


「六花も、そのとおりと言っていますよ」


 レナは深く息を吸い、顔を上げた。


「うん……よし……!」


 拳を握る。


「みんな!先に進もう!」


「うん!」


 彩葉が応え、

 後ろに続く皆の表情も、心なしか明るかった。


 ――場面は変わる。


 アジトの地下。


 歪んだ結界陣の中心で、何者かが嗤っていた。


「ついに……ついにできたぞ……」


 異様な霊力が、脈打つ。


「これがあれば……!」


 闇の奥で、笑い声が響く。


「クククッ……」


 その存在は、確実に――

 彩葉たちを待っていた。

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