第18話 黄昏、山奥、陰陽師アジトへ

夕暮れ時。


 山の稜線が茜色に染まり、やがて紫へと沈んでいくその境目で――

 彩葉たちは、約束された集合場所へと辿り着いた。


「……皆さん、集まりましたね」


 コトリが静かに人数を確認し、そこでふと首を傾げる。


「あら……?」


「こいつはレナだ」


 村正むらまさが一歩前に出て、簡潔に言った。


「新しい仲間だ」


「よ、よろしくお願いします……!」


 レナは慌てて頭を下げる。

 オレンジ色のパーカーが揺れ、フードの触角がぴょこんと動いた。


 コトリは一瞬だけレナを見つめ――やがて小さく頷く。


「……なるほど。

 戦力は多いほうがいいですね」


 拒絶は、なかった。


「それでは……行きましょう」


「もう……敵のアジトがわかったんですか?」


 彩葉いろはが驚いたように聞く。


「えぇ」


 コトリは振り返らずに答える。


六花ろっかが敵を尾行し、場所を特定しました」


「んー! んーー!」


 六花が誇らしげに胸を張る。


「追跡までできたのか……」


 陽菜ひなが感心したように呟く。


「すげぇな」


 くろが笑う。


「オレは妖怪だから多少は戦えるが……」


 ふと、エイの方を見る。


「影は……どうする?」


「……」


 影は一瞬、言葉に詰まった。


「では」


 コトリが静かに割って入る。


「影さんは、六花の後ろに隠れていてください」


「六花」


「んーー!」


 六花は大きく頷き、影の方を向く。


「……よろしくね?」


 そう言っているようだった。


「……よろしく……です……」


 影は小さく、けれどはっきりと答えた。


「いよいよ……敵の本拠地か」


 しおりが楽しそうに微笑む。


「なんだか本の終盤のようで、ワクワクするのじゃ」


「……油断は禁物ですよ」


 コトリはきっぱりと言った。


「皆さん、そろそろ行きます。

 アジトは……山の奥です」


 山道は、次第に険しくなっていった。


 人が使うには不自然なほど細く、

 舗装などされていない、ほとんど獣道に近い道。


 木々は異様なほど生い茂り、

 枝葉が絡み合い、月明かりさえ地面に届かない。


「……静かすぎる」


 コトリが足を止め、周囲を見渡す。


「結界の外とは……空気が違う」


 陽菜が低く言った。


「ここは……」


 彩葉が言葉を探す。


 そのとき、栞が目を細めた。


「人の道ではないな」


「……気をつけてください」


 コトリの声が、さらに低くなる。


 隊列の後ろで、レナは必死に足を運んでいた。


「だ……大丈夫です……!」


 息を切らしながらも、その目は真っ直ぐ前を向いている。


 ――逃げない。もうおいていかれたくないから。

 それだけは、はっきりと伝わってきた。


 やがて。


「……見えました」


 コトリが足を止める。


 全員が、息を潜めた。


 山肌を削るようにして作られた――

 古びた社。


 朽ちかけた鳥居。

 壁に貼られた、無数の符。

 地面に刻まれた、不自然な結界陣。


 空気そのものが、歪んでいる。


「……あれが……」


 彩葉が息を呑む。


「陰陽師の……アジト……」


「数は……」


 村正が低く問う。


「十数名……」


 コトリは、少し間を置く。


「……いえ、もっといます」


 そして、ゆっくりと目を伏せた。


「内部に……

 強い霊力反応が一つ……」


 その言葉に、空気が一段重くなった。


「作戦は?」


 陽菜が問う。


「正面突破」


 コトリは、迷いなく答えた。


「相手は既に、結界破壊を試みています。

 隠密より……制圧を優先します」


「……分かりました」


 陽菜は静かに頷いた。


 その時。


 彩葉が、一歩前に出る。


「私も……戦います」


 その声は、以前よりも確かに強かった。


「よし」


 村正が応える。


 ――そして。


 村正は刀を抜いた。


 鈍く光る刃が、闇を切り裂く。


「行くぞ」


「んー! んーー!」


「……はい!」


「おう!」


「はい、覚悟は……できています」


 それぞれの声が重なり、

 決意が一つになる。


 夕闇に包まれた山奥で――

 戦いの幕が、静かに上がろうとしていた。

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