第17話 守れなかった想いと、新たな仲間
潮風が、伊勢の街をやさしく撫でていた。
結界石の騒動から少し離れ、彩葉たちは海辺から街中へと戻ってきていた。
戦闘の余韻はまだ体に残っているが、同時にどこか張りつめていた気配も、少しずつほどけていく。
「ここで一度……別行動、ですね」
コトリが静かに告げる。
「えぇ。
我々は怪異警官として準備を整えます。
皆さんも……装備や情報収集を」
「合流は……」
「この場所です」
「んー! んー!」
「了解」
こうして、
伊勢の街は、思っていた以上に賑やかだった。
「わ……人、いっぱい……」
彩葉が目を丸くする。
「伊勢は観光地でもあるからね」
「伊勢神宮、赤福、海産物……
人の想いが集まりやすい場所なんだ」
「ふむ……」
「想いが集まれば、守護者も妖怪も生まれやすい。
結界が重要になるのも道理じゃな」
「でも……」
「腹減った」
「……うん....」
「戦いの前に……腹ごしらえ、か」
村正が苦笑する。
「まぁ……悪くはねぇな」
こうして一行は、束の間の休息と準備を兼ねて、伊勢の街を歩くことになった。
赤福の甘い匂い。
焼き魚の香ばしさ。
人々の笑い声。
戦いの最中には決して感じられない、穏やかな空気。
「……不思議だね」
彩葉がぽつりと呟く。
「こんなに普通なのに……
さっきまで、結界が壊されそうだったなんて」
「だからこそ、守る価値がある」
陽菜は真っ直ぐ前を見ながら言った。
「守護者は……
“当たり前”を守る存在だから」
彩葉は、その言葉を胸に刻んだ。
しばらくして。
「そろそろ……合流場所に向かうか」
村正が言った。
「準備も整った」
「うん」
彩葉たちは歩き出す。
――その時だった。
背後から、わずかな“違和感”。
村正と陽菜が、同時に立ち止まる。
「……お前は誰だ?」
村正が低く問いかける。
「……撃ちますよ?」
陽菜の銃口が、迷いなく向けられた。
「ひっ……!」
声が震える。
「え、えっと……!」
そこに立っていたのは、一人の少女だった。
オレンジ色の、ぶかぶかのパーカー。
深く被ったフードには、触角のように長いものが二本、垂れ下がっている。
小柄で、どこか怯えたような表情。
「わ、私は……レナ!」
少女は必死に声を絞り出す。
「エピペンの……
「付喪神……?」
彩葉が小さく声を上げる。
「そうだよ」
陽菜が銃を下ろしつつ説明する。
「付喪神は、長年使われてきた“もの”に命が宿った妖怪」
「へぇ〜……」
彩葉は感心したようにレナを見る。
「……あ、あの!」
レナは一歩前に出た。
「わ、私も……連れて行ってください!」
「……なに?」
村正が眉をひそめる。
「私……役に立ちたいのです……」
レナの声は、次第に強さを帯びていく。
「私の……持ち主は、もういません……」
一瞬、空気が重くなる。
「ですから……」
レナは拳を握りしめた。
「私は……守れなかった……
あの子のためにも、頑張らないといけないのです!」
涙を堪えるように、必死に言葉を続ける。
「だから!
私も……仲間に入れてください!」
沈黙。
風が、レナのフードを揺らした。
「……どうするのじゃ?」
栞が彩葉を見る。
「怪しいが……」
村正が腕を組む。
「悪いやつではなさそうだ」
彩葉は、少しだけ目を伏せ、そして――決意したように顔を上げた。
「……私は構わない」
ゆっくりと、レナの前に歩み出す。
「レナちゃん」
彩葉は手を伸ばした。
「私たちは……これから、戦いに行くの」
「それでも……来る?」
一瞬の迷い。
けれど――。
「……はいっ!」
レナは、はっきりと答えた。
そして、彩葉の手を、強く握り返す。
「……また、にぎやかになりそうだな」
喰が笑う。
「……」
影は静かに頷いた。
「よし」
村正が前を向く。
「合流場所に急ぐぞ」
「おー!」
それぞれの想いを胸に。
守れなかった過去を背負う者。
守るために歩む者。
新たな仲間を迎えた彩葉たちは、再び歩き出す。
――三重大結界を巡る戦いは、まだ終わっていない。
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