第14話 桜菊祭・後編

その少女は、戦場の中心で――

 不敵な笑みを浮かべていた。


太歳星君たいさいせいくん? こんなところにいたんだね?」


 軽い声音とは裏腹に、空気が一気に張りつめる。


「お、お前は!?

 なぜだ……なぜここにいる……オリュンポス!」


「……オリュンポスの関係者?」


 猿夢さゆが低く呟く。


「オリュンポスって?」


 彩葉いろはの問いに、陽菜ひなが静かに答えた。


「様々な神々を統括する、十二人の神の組織だよ」


「すげぇオーラだ……」


 くろは思わず息を呑み、エイは小さく身を震わせた。


「影よ」


 しおりが影の肩に手を置く。


「妾の後ろに隠れておれ」


 太歳星君の声が、震え始める。


「お前が来たということは……

 俺を……俺を消しに来たのか?」


「だいせいかーい♪」


 少女は楽しそうに首を傾けた。


「オリュンポス十二神は決めました。

 あなたは、オリュンポスを抜けた――

 あなたを処刑すると」


 次の瞬間。


 少女の周囲に、光が走る。

 黄金の盾、兜、そして白く輝く一本の槍。


 完全武装。


「……やはり……」


 村正むらまさが小さく呟いた。


「お、お前は……

 戦女神が処刑人だと!?

 ふざけるな!!」


「処刑人か〜。戦女神もいいけど、それも悪くないかも〜」


 少女は肩をすくめ、笑う。


「ま、どっちにしろ……

 今から消えるあなたには、関係ないけどね」


 彼女は、ゆっくりと歩き出した。


 太歳星君は、先ほどの激戦のダメージで動けない。

 地に縫い止められたまま、声だけが結界に響く。


「く、来るな……

 来るなーーーー!!!」


「さようなら♡」


 次の瞬間。


「ァアァアァアァアァアァアァ!!!!!!」


 凄惨な断末魔が、夜空に溶けて消えた。


 彩葉は、ただ立ち尽くしていた。


「……」


「残酷だけど……仕方ない」


 陽菜の声は、どこか疲れていた。


「さてと」


 少女は、まばたきよりも速く――

 彩葉の目の前に現れていた。


「っ!」


 息を呑む暇もない。


 少女は、彩葉をじっと見つめる。


「……君、すごい素質だね〜」


 彩葉の心臓が跳ねる。


「神界に来ない?

 歓迎するよ?」


「……神界?」


「そう! 神々と天使の楽園!

 神話生物もいるけどね」


 少女は楽しそうに笑った。


「どう?

 あ、君の名前、まだ聞いてなかったね」


「え、えっと……」


「人に名前を尋ねる時は、まず自分からじゃないのかい?」


 陽菜が、冷静に口を挟む。


「あぁ〜、そうだったね」


 少女は軽く頷く。


「私はオリュンポス十二神の――アテナ。よろしくね」


「バッグの守護者……彩葉です……」


「彩葉ちゃんか〜。うんうん、覚えた」


 アテナは満足そうに笑い、ふと空を見上げた。


「……ありゃ?

 もう帰らないと。ごめんね〜」


 そのまま、光の軌跡を残して飛び去っていく。


「またね〜!」


 姿が消えた瞬間――

 彩葉は、力が抜けたようにその場に座り込んだ。


「……こ、怖かった……」


「よく頑張ったぞ、彩葉」


 栞が、優しく声をかける。


「あ、ありがとう……」


「それにしても」


 陽菜は空を見上げる。


「オリュンポスに招待されるなんてね」


「すごいじゃねぇか」


 村正が豪快に笑った。


「神に直々に誘われるなんて、めったにねぇぞ」


「そうなんですか……?」


「あぁ、そうさ」


 その時――

 地面が揺れ、結界にヒビが走り始めた。


「な、なに!?」


「主が消えたことで、結界が崩壊してるんだ」


「どうやら、そのようじゃな」


 次の瞬間、視界が白く反転し――

 気づけば、元の祭り会場に戻っていた。


「戻ってこれた……みたいですね……」


「そうみたいだ。

 僕も、なんだか疲れたよ」


「ま、一件落着だな!」


 村正が腕を伸ばす。


「猿夢はどうする?」


「……私は基地に戻って、このことを報告する……」


「そうか。頑張れよ!」


「……ん……」


 猿夢は、一瞬で姿を消した。


「さぁ!」


 村正が声を張り上げる。


「祭りはまだ始まったばかりだ!

 楽しむぞ〜!」


「なぜあなたが仕切るんです」


「いいじゃねぇか!」


「……はぁ。まぁいいでしょう。行きますよ」


「……うん……」


「おぅ!」


「うん!」


「うむ!」


 彩葉たちは、再び祭りの中へ戻った。


「……きれ〜い……」


 夜空に、大輪の花火が咲く。


 影と喰は目を輝かせ、

 栞はどこか誇らしげにそれを眺めていた。


「まさかお前が、誰かと同行するなんてな」


 村正が笑う。


「僕だって、変わったということさ」


「よし、じゃあ俺もついていくぜ!」


「……正気ですか?」


「当たり前だ!」


「村正さんが来たら……

 もっとにぎやかになりますね」


「だろ?」


「……はぁ。

 まぁ、いいでしょう。

 また、お願いしますね」


「おうよ!」


 こうして――

 桜菊祭の夜は、笑顔と光に包まれながら、静かに更けていった。

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