第14話 桜菊祭・後編
その少女は、戦場の中心で――
不敵な笑みを浮かべていた。
「
軽い声音とは裏腹に、空気が一気に張りつめる。
「お、お前は!?
なぜだ……なぜここにいる……オリュンポス!」
「……オリュンポスの関係者?」
「オリュンポスって?」
「様々な神々を統括する、十二人の神の組織だよ」
「すげぇオーラだ……」
「影よ」
「妾の後ろに隠れておれ」
太歳星君の声が、震え始める。
「お前が来たということは……
俺を……俺を消しに来たのか?」
「だいせいかーい♪」
少女は楽しそうに首を傾けた。
「オリュンポス十二神は決めました。
あなたは、オリュンポスを抜けた――
あなたを処刑すると」
次の瞬間。
少女の周囲に、光が走る。
黄金の盾、兜、そして白く輝く一本の槍。
完全武装。
「……やはり……」
「お、お前は……
戦女神が処刑人だと!?
ふざけるな!!」
「処刑人か〜。戦女神もいいけど、それも悪くないかも〜」
少女は肩をすくめ、笑う。
「ま、どっちにしろ……
今から消えるあなたには、関係ないけどね」
彼女は、ゆっくりと歩き出した。
太歳星君は、先ほどの激戦のダメージで動けない。
地に縫い止められたまま、声だけが結界に響く。
「く、来るな……
来るなーーーー!!!」
「さようなら♡」
次の瞬間。
「ァアァアァアァアァアァアァ!!!!!!」
凄惨な断末魔が、夜空に溶けて消えた。
彩葉は、ただ立ち尽くしていた。
「……」
「残酷だけど……仕方ない」
陽菜の声は、どこか疲れていた。
「さてと」
少女は、まばたきよりも速く――
彩葉の目の前に現れていた。
「っ!」
息を呑む暇もない。
少女は、彩葉をじっと見つめる。
「……君、すごい素質だね〜」
彩葉の心臓が跳ねる。
「神界に来ない?
歓迎するよ?」
「……神界?」
「そう! 神々と天使の楽園!
神話生物もいるけどね」
少女は楽しそうに笑った。
「どう?
あ、君の名前、まだ聞いてなかったね」
「え、えっと……」
「人に名前を尋ねる時は、まず自分からじゃないのかい?」
陽菜が、冷静に口を挟む。
「あぁ〜、そうだったね」
少女は軽く頷く。
「私はオリュンポス十二神の――アテナ。よろしくね」
「バッグの守護者……彩葉です……」
「彩葉ちゃんか〜。うんうん、覚えた」
アテナは満足そうに笑い、ふと空を見上げた。
「……ありゃ?
もう帰らないと。ごめんね〜」
そのまま、光の軌跡を残して飛び去っていく。
「またね〜!」
姿が消えた瞬間――
彩葉は、力が抜けたようにその場に座り込んだ。
「……こ、怖かった……」
「よく頑張ったぞ、彩葉」
栞が、優しく声をかける。
「あ、ありがとう……」
「それにしても」
陽菜は空を見上げる。
「オリュンポスに招待されるなんてね」
「すごいじゃねぇか」
村正が豪快に笑った。
「神に直々に誘われるなんて、めったにねぇぞ」
「そうなんですか……?」
「あぁ、そうさ」
その時――
地面が揺れ、結界にヒビが走り始めた。
「な、なに!?」
「主が消えたことで、結界が崩壊してるんだ」
「どうやら、そのようじゃな」
次の瞬間、視界が白く反転し――
気づけば、元の祭り会場に戻っていた。
「戻ってこれた……みたいですね……」
「そうみたいだ。
僕も、なんだか疲れたよ」
「ま、一件落着だな!」
村正が腕を伸ばす。
「猿夢はどうする?」
「……私は基地に戻って、このことを報告する……」
「そうか。頑張れよ!」
「……ん……」
猿夢は、一瞬で姿を消した。
「さぁ!」
村正が声を張り上げる。
「祭りはまだ始まったばかりだ!
楽しむぞ〜!」
「なぜあなたが仕切るんです」
「いいじゃねぇか!」
「……はぁ。まぁいいでしょう。行きますよ」
「……うん……」
「おぅ!」
「うん!」
「うむ!」
彩葉たちは、再び祭りの中へ戻った。
「……きれ〜い……」
夜空に、大輪の花火が咲く。
影と喰は目を輝かせ、
栞はどこか誇らしげにそれを眺めていた。
「まさかお前が、誰かと同行するなんてな」
村正が笑う。
「僕だって、変わったということさ」
「よし、じゃあ俺もついていくぜ!」
「……正気ですか?」
「当たり前だ!」
「村正さんが来たら……
もっとにぎやかになりますね」
「だろ?」
「……はぁ。
まぁ、いいでしょう。
また、お願いしますね」
「おうよ!」
こうして――
桜菊祭の夜は、笑顔と光に包まれながら、静かに更けていった。
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