第11話 にぎわいの中で、出会うもの

東京の街は、昼間からすでに熱気に包まれていた。

 人の声、笑い声、足音。すべてが重なり合い、流れるように街を満たしている。


「今日もにぎやかだね」


 陽菜ひなが周囲を見回しながら言った。


「うん! 人間がいっぱい」


 彩葉いろはは目を輝かせ、行き交う人々を見つめている。


「すげぇ〜。人間って、こんなにいるのか〜」


「……人……いっぱい……いる……」


 くろは感心したように、エイは少し戸惑いながらも街を見渡していた。


「いっぱいお店があるね〜。陽菜は、ここ来たことあるの?」


「僕かい? うん、あるよ。あの時も、お祭りを見るために来たんだっけ……」


「お祭りって、そういやぁ何するんだ?」


 喰の素朴な疑問に、陽菜は少し考えてから答える。


「そうだね。夏祭りと、あまり差はないかな?」


「そうなのか? でも、特別なんだろ」


「うん、そうさ。守護者と人類にとって、大切で特別なことだよ」


「へぇ〜、いいなそれ」


「……うん……」


 そんな会話をしながら歩いていると、彩葉がふと足を止めた。


「あれ? あの人……」


 一軒の本屋の前に、長い行列ができていた。

 その中に、彩葉の視線を引きつける存在がいた。


「彩葉? どうしたの?」


「あの人……耳が生えてます」


「ほんとだ」


 喰も目を細める。


「あぁ、あれは妖怪、本読み狐の『しおり』だね。ここ東京に昔から住んでる、本が大好きな狐さ。

 でも彼女、興奮するとすぐ耳と尻尾が見えちゃうんだ」


「へ〜、そうなんだ〜……」


 次の瞬間、彩葉は走り出していた。


「彩葉?」


 本屋の前で、彩葉はその少女に声をかける。


「あの、耳と尻尾、出てますよ」


「!?」


 狐の少女は慌てて頭を押さえた。


「……コココ、コレはすまない。教えてくれてありがとう。

 妾の尾と耳の毛が本についてはならぬのじゃが、つい興奮してしまったのじゃ……

 お主、見ない顔じゃな」


「あ、はい! 私はバッグの守護者、彩葉っていいます!

 自分の存在理由を探すために、旅をしてます」


「おぉ、産まれたばかりであったか。自分の存在理由……良い目的じゃの。

 妾は栞。世界中の本を読むために、化けて出た狐じゃ……

 おや、誰かと思ったら、陽菜か。久しいの」


「お久しぶりだね、栞」


「相変わらず元気そうじゃの。

 そこの妖と人の子は、何というのじゃ?」


「オレは喰! こいつは影だ」


 影は小さく頭を下げた。


「うむうむ。聞こえたと思うが、妾は栞じゃ」


「栞、並んでたんじゃないのかい?」


「おぉ、そうじゃった。少し待っておれ」


 栞は再び行列へ戻り、しばらくしてから満足そうな顔で店を出てきた。


「いや〜、今日はたくさん買い物をした。

 お主たち、祭りに来たのじゃろう? 妾も同行させてくれぬか?

 お主たちといれば、面白いことが起きそうだからの」


「わぁ、いいですよ。一緒に行きましょう」


「オレはいいぜ。影、お前はどうする?」


「……もふもふと……一緒……行く……」


「僕も構わないよ」


「そうと決まれば、そろそろ日が暮れる。急がねば、祭りが始まってしまうぞ」


 そう言うと、栞は彩葉の腕を掴み、勢いよく走り出した。


「え!? ちょ、走らなくても〜!」


「……にぎやか……?」


「そうだな。オレたちも行こうぜ」


「そうだね」


 夕暮れに染まり始めた東京の街。

 新たな仲間を加え、彩葉たちは祭りへと向かっていく。

 このにぎわいの中で、彩葉の心にもまた、小さな想いが芽生え始めていた。

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