第9話 海に沈む怨嗟

荒れた海を背に、一同は立ち尽くした。波間に揺れる黒い影が、まだ怒りの残滓を撒き散らしている。


エイくろはここにいて、私たちで倒す」


 陽菜ひなが決然と告げる。


「が、頑張ります……」


 彩葉いろはは胸の高鳴りを押さえながら、小さくうなずいた。


 二人は、足早に海の怪異の方へ駆け出す。


「ストラップ・ニードルバインド!」


 彩葉が叫ぶと、ショルダーストラップが空中を舞い、海の怪異の腕を絡め取った。


「ッ!……こっち来い〜……こっち来い〜」


 黒い触手のような腕が海から伸びる。


「彩葉ナイス! セイクリッドバレット!」


 陽菜の火縄銃が赤く光り、怪異の腕を撃ち抜く。


「うぅ〜!!! こっち……こっち来い〜」


 怪異はなおも暴れ、海の上でうねる。


「しぶといね……それより彩葉、その技に名前をつけたのかい?」


「あ、はい……陽菜をマネてみました」


「いいね」


「っ……ありがと……」


 彩葉の声が一瞬、震える。

 しかし、次の瞬間、海の怪異の腕が突如伸びてくる。


「わぁっ!……全然聞いてないですね」


「あれは触手みたいなもの。本体は海中にいる! 海中じゃ私の特性『百発百中』が効きにくいし……」


「海中……だったら! 水抜きです!」


 彩葉が叫ぶと、ショルダーストラップが海の怪異を取り囲む。

 スルスルと水を吸収し、海中に隠れていた本体が姿を現した。


「……異空間収納……」


「陽菜……早く……もう保たない……」


 彩葉の声が焦る。


「っ! う、うん、セイクリッドバレット!」


 陽菜の銃弾が、紅く輝く軌跡を描き、怪異の中心へと突き刺さる。


「嫌だ〜消えたくない、消えたくない! お前もこい!」


 怪異の体がねじれ、光に包まれて崩れゆく。


「きゃぁ! あ、足が……!」


「彩葉! エンチャントバレット!」


 陽菜の力が彩葉の特性と重なり、最後の一撃が決まった。


「うぅ……アリガトウ……カイホウ……サレタ……」


 海の怪異は光となり、消えていった。


「彩葉、大丈夫?」


「は、はい……今……」


 荒れた海も、静けさを取り戻す。


「うん、あの人たちも救われたみたい……」


 そこへ、駆け寄る二つの影。


「……大丈夫?……」


「無事か!」


「二人とも!」


「うん、僕も彩葉も無事」


「それは良かったぜ」


「……無事……良かった……」


 彩葉は少し息を切らしながら、手を胸にあてる。


「少しパンパン……」


「もしかして、スキルで異空間に海水を収納しすぎたのかな? 出せる?」


「う、うん……こうかな?」


 彩葉が力を解放すると、異次元の穴が開き、吸収した海水が一気に戻る。

 砂浜に落ちる水しぶきとともに、空気がすっきりと澄んだ。


「ふぅ〜……スッキリした〜……」


「もう大丈夫そうだね」


 陽菜が笑みを浮かべる。


「そうだ! もうすぐ『桜菊祭おうぎくさい』っていう人間と守護者の友好を示した祭りがあるんだけど、こない?」


「お祭り……行きたい」


「……行ってみたい……」


「面白そうだぜ」


「良し! 向かおう!」


 波打ち際に立つ四人の背中を、柔らかな朝日が照らしていた。

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