第8話 首塚の鬼と海の景色
街を抜け、三人と一匹は静かな山道を登った。
目の前に広がるのは、木々に囲まれた神社の境内。
「ここが首塚大明神……」
「入らなくても、このオーラがわかるぜ……オレが入ってもいいのか……」
「大丈夫大丈夫……ここの鬼さんは優しいから。さ、入ろう」
「自然いっぱい……でも……」
「オレ以外の物の怪が出そうだぜ……」
喰の声には警戒が混じる。
「そりゃあ、神社なんだからね。神聖な力で、こういうものが出ることもあるんだよ」
陽菜は両手を幽霊のポーズにして見せる。
「や、やっぱり出るんですね!? あわわわわ……」
「ダイジョブダイジョブ! 下位の想霊は会話できないけど、霊は会話できるし、守護者に喧嘩を売るやつなんてそうそういないよ」
陽菜が手水舎の水を指し示す。
「ここで清めてね」
「う、うん……」
「今フラグを立てていかなかったか?」
「気のせい気のせい。さ、もう少しだよ」
奥へ進むと、古い石段の上に首塚が見えてきた。
「ここ、ですか……」
「そうだよ、酒吞! 持ってきたよ!」
石段の向こうから、巨体の男がゆらりと姿を現した。
「ん? おぉ、お前か、久しいな……今日は客人も一緒か」
「へ? ……っ!」
「デケェ!!」喰の口が思わず開く。
「っ!……」
「はははっ、驚きすぎだよ……この人は酒吞童子。この神社に祀られてる人だよ」
「おう! 俺は酒吞童子だ! よろしくな」
彩葉も頭を下げる。
「よ、よろしくです……」
喰と影も、素直に頭を下げた。
「ガッハッハ! 礼儀正しいな! だが、堅苦しいのは嫌いだ。次来るときはもっと気を緩めてもいいんだぞ?」
陽菜が笑いながら答える。
「その巨体ですぐには無理だよ……そうだ、
「おう! ありがとな……それで〜どこかに行くのか?」
「うん、海に行こうと思って」
「海か! いいな! 俺の娘も海の景色が好きだったな〜……そうだ、そこの人間! お前に加護をやろう!」
影は一瞬、息を呑む。
「お主、なかなかの霊力を持っているな。俺にはわかる。マーキングも込めて、俺の加護をやろう」
「不倫?」
「何! 不倫なのではない! 眷属的な意味だ!」
「ふふっ、わかってるよ。どうする? 首から下の怪我や病気にかからなくなるよ?」
「………もらわ……ない……と……失礼……なの……で……もら……い……ます」
「ガハハハハ! そうか、ほれ!」
光が影を包む。
彩葉は驚きの声を漏らす。
「加護、もらったの?」
「あぁ! とびっきりすごいやつをな」
喰も目を見開く。
「すごい、影の力が前より強くなってる」
「ありがと、酒吞童子。 また来るよ」
「あぁ! また来い!」
神聖な力に包まれた影の背中は、以前よりも少し逞しく見えた。
首塚の鬼の笑い声と、木々を抜ける風が、三人と一匹の旅路をそっと祝福していた。
首塚大明神を離れた一同は、電車に揺られ海へと向かっていた。
窓の外には青い空と、まだ春の光が残る町並みが流れていく。
「この先が海?」
彩葉の瞳は少し不安そうに、しかし好奇心で輝いていた。
「うん、そうだよ……ほら、見えてきた」
陽菜が微笑むと、窓の向こうに青く広がる水平線が見えた。
電車を降り、駅を出て歩くこと数分。
足元には砂浜が広がり、波が穏やかに打ち寄せている。海鳥が空を舞い、潮の香りが風に混ざった。
「海だ〜、海だぞ! 影!」
喰が影を肩越しに見下ろす。
「……う…み……きれ……い……」
影の声は小さく震えていたが、確かに感動を滲ませている。
「そうだろ!」
喰が大きく手を広げる。
「もう少し近づいてみよう……」
「うん!」
一同は波打ち際に歩み寄った。
「っ!」
影が足を止め、波に手を触れる。
「冷たいか?」
喰が聞くと、影は小さく頷いた。
「それは波だ。今日の波はおとなしいな」
彩葉も手を水につけ、波の感触を楽しむ。
「海にも守護者はいるの?」
「うん、いるよ。少ないけどね……」
「少ない?」
「海は想霊のほうが圧倒的に多い」
陽菜が空を見上げる。
「へ?……なに!」
彩葉が驚いた瞬間、空の雲行きが怪しくなり、海が荒れ始めた。
「来る!」
陽菜が叫ぶ。
「うぅ〜……い……こっちに……こい……」
謎の声が波間から響く。
「あれは?……」
「海の怪異……」
「海の……怪異……怪異って……」
「怪異は想霊と怨霊が混ざり合ってできたものや、現代の都市伝説や噂話から生まれた存在だよ。
怪異にはね、怪異警官と怪異同盟がある。怪異警官は人を襲う存在を無力化するのが仕事で、怪異同盟は人を襲うことを目的とした存在」
「そんな……」
海面から無数の黒い手が、こちらへ伸びてくる。
「こっちに来ます!」
「影、オレが守ってやるからな」
喰は身構える。
「……まったく……会話の通じないやつは……一体何人巻き込んだ……」
陽菜が呆れた声を漏らす。
「陽菜! 危ない!」
「!?」
拳が彩葉に迫る。
「きぁっ」
「彩葉!」
「大丈夫です」
「ッ!……」
海の怪異がうねるように攻撃してくる。
「彩葉、あなたの特性がわかった……でも話は後で。走るよ!」
「え? あ、はい!」
一同は海を離れ、砂浜を駆け抜けた。
やがて雨は止み、波の音だけが残る。
「はぁ、はぁ、はぁ……陽菜さん、わかったって?」
「……」
影も首を横に振る。
喰も小さく頷く。
「あなたの特性はね――ありとあらゆる攻撃を吸収し、跳ね返すものだよ」
「すげぇ……」
喰が目を丸くする。
「吸収して跳ね返す……どうしてわかったんですか?」
「彩葉が海の怪異の攻撃を受けた時、あの腕にもダメージが入っていた……それに彩葉自身の元気がほとんど奪われていなかった。
どんな強者でも怪異の攻撃を受ければ多少は元気を奪われる。
それがなかったからわかったんだ」
「そうなんですか……自覚はないですが、確かに痛みはありませんし、元気です!」
彩葉の顔が少し明るくなる。
「うん、良かった。影、喰、そっちは?」
影は首を横に振り、喰も笑顔を見せる。
「あぁ、大丈夫だ」
「良かった……」
陽菜と彩葉は海のほうを振り返る。
「
「ここで倒しておかないと……被害が増える」
再び、遠くの海が不穏にざわめき始めていた。
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