第7話 新しい装い、海への約束

朝の光が町を照らす。

 昨日の風呂と温かい食事の余韻が、まだ皆の心に残っていた。


「お風呂にご飯まで、ありがとうございました」


 陽菜ひなが深く頭を下げると、風呂屋のおばあさんはにっこりと笑った。


「いいんだよ。それじゃあね」


 彩葉いろはも、頭を下げる。

 小さな礼に、ほっとしたような安堵が漂う。


「今日は……彼女の服を買いに行こう」


 陽菜が彩葉に目を向ける。


「うん、そうだね」


 小さな旅路のように、一歩ずつ歩き出す三人。

 陽菜の後について行くと、間もなく色とりどりの看板が立ち並ぶ商店街に差し掛かった。


「こっちに、いいお店があるんだ」


 陽菜の手が差し示すのは、雑貨も衣服も扱う小さな店。

 看板には「衣装と小物 彩葉さよ堂」と書かれていた。


「ここだよ。いろんなものが揃ってるんだ」


 店内に入ると、陽菜が店員に声をかけた。


「店員さん、この子に合う服を揃えてくれるかな」


「はい!」


 女性の店員は元気に頷き、店の奥に進む。

 だが、同時に店長――がたいのいい男性――が二人をじっと見下ろしていた。


「まぁ、可愛らしいお嬢さん」


 エイは小さく息を呑む。


「っ……」


 彩葉も、少し戸惑いながら、


「こ、こんにちは……」


 くろは店長の圧に思わず。


「でけぇ……」


 女性店員が慌ててたしなめる。


「もう! 店長! 店長はただでさえ怖いんだから、そんなに見ないの!

私が用意しますから。店長はレジに行っててください」


「わ、わかった……」


 喰はまだ落ち着かず小さく呟く。


「落ち込んでるぞ……」


「そ、そうだね。見た目はアレだけど、いい人なのかも……」


 彩葉は服を選ぶ店員を見つめながら、ほっと息をついた。


「こちらにどうぞ」


 店員の声に、陽菜が優しく影を促す。


「私が付き添おう。おいで」


 影はしばらくためらったあと、ゆっくりと奥へ歩みを進めた。


 やがて時間が経ち、二人が店の奥から戻ってきた。


「どう? この影ちゃん」


 陽菜の問いかけに、彩葉は目を輝かせる。


「可愛いです!」


 喰も影に目を向けて微笑んだ。


「あぁ、にあってるぞ、影」


 少し照れたように顔を赤らめる影。

 新しい服は、まるで影の心を解きほぐすように、柔らかな布で包んでいた。


 服を購入し、店を出る。


「ありがとうございました」


 彩葉は頭を下げ、影も小さく口を動かす。


「ありが……と……」


 店長も女性店員も、微笑んで見送った。


「靴まで選んでもらっちゃった」


 陽菜が嬉しそうに言う。


「でも、可愛いです……」


 彩葉も照れくさそうに笑う。


「良かったな〜、影……」


 喰も満足そうに肩を叩く。


「さて……次はどこに行くんだ?」


「そうだね……まだ決めてないや。どうする? 彩葉」


「うーん……」


 喰が顔を上げ、影を見つめて言った。


「だったら、こいつに海を見せてやりたいんだ」


「海か……でも、4月だし……まぁいいか。先に首塚に向かっていいかな?

知り合いに会いたいし」


「いいぜ」


「知り合い……?」


「ま、会ってからのお楽しみ。さ、それじゃ出発!」


「おー!」


「お、おー」


「……おー?」


 影も、小さな声で応えた。

 新しい服と新しい一歩が、これからの冒険の始まりを告げていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る