第2話 役に立ちたい、その想いから

想霊が消え去った後、

草原には静けさが戻っていた。


風が草を揺らし、

空には何事もなかったかのように雲が流れていく。


彩葉は、少し離れた場所で銃をしまう陽菜の背中を見つめていた。


迷いのない動き。

想霊を前にしても揺るがない態度。

そして、誰かを助けることを“当たり前”だと言う姿。


(……すごいな……)


胸の奥が、じんわりと熱くなる。


彩葉いろはは、思った。

自分も、ああなりたいと。


「……陽菜ひな


「ん?」


陽菜が振り返る。


「……私も……役に立ちたい……です」


言葉にした瞬間、

彩葉は自分の手をぎゅっと握った。


「でも……私……

何ができるのか……分からなくて……」


守護者として生まれた。

けれど、力を使ったことはない。

想霊に襲われたときも、ただ立ち尽くすことしかできなかった。


「……私に……戦える力……あるんでしょうか……」


不安が、そのまま声になっていた。


陽菜は少しだけ驚いた顔をした後、

優しく笑った。


「あるよ」


即答だった。


「守護者なら、必ずね」


「……でも……」


「大丈夫」


陽菜は彩葉の前に立ち、

まっすぐに目を見て言った。


「力は、最初から全部分かるものじゃない。

むしろ――分からないのが普通だよ」


「……そう……なんですか……?」


「うん。

だから今日は、少しだけ“守護者の基本”を教えようか」


彩葉の目が、わずかに輝いた。


「……はい!」

二人は、少し開けた場所へ移動した。


陽菜は地面に座り、

彩葉にも隣に座るよう促す。


「まずね。

人間と想霊以外の存在――

守護者、神、天使、悪魔、妖怪、精霊……

そういう存在たちが持ってるものがある」


「……持ってるもの……?」


「スキルと特性」


その言葉は、不思議と彩葉の胸にすっと入ってきた。


「スキルはね、

自分の意思で発動できる力」


「……自分の……意思……」


「そう。

使いたいと思ったときに使える」


陽菜は自分の火縄銃を軽く掲げる。


「僕のスキルは

《自動装弾》」


「……じどう……そうだん……?」


「弾がね、勝手に補充されるんだ」


「……え……すごい……」


「便利でしょ?」


くすっと笑いながら、陽菜は続ける。


「で、もう一つが特性」


「……スキルとは……違うんですか……?」


「うん。

特性は――

条件が揃ったときに自動で発動する力」


陽菜は、銃口を空に向ける。


「僕の特性は

《百発百中》」


「……百……発……百……中……」


「火縄銃を撃つと、

必ず“当たる”」


その言葉に、彩葉は息を呑んだ。


「……必ず……?」


「必ず」


それは、戦う者にとって

あまりにも強力な力だった。


「……すごい……

じゃあ……私のスキルや特性は……?」


彩葉の問いに、

陽菜は少し困ったように頭をかいた。


「それがね……

分からない」


「……え……?」


「彩葉は生まれたばかりだから。

自分で試しながら、見つけていくしかない」


「……そう……なんですね……」


不安が、また胸に広がる。


だが、陽菜はすぐに言葉を続けた。


「でもね。

心配いらない」


「……?」


「全ての存在が持ってるものが、もう一つある」


「……もう一つ……?」


「技(わざ)」


その瞬間、

彩葉の胸の奥が、微かに震えた。


「技はね、

一人に一つとは限らない」


「……?」


「たくさん持ってる者もいるし、

似てる技を持つ者もいる。

攻撃、防御、補助、拘束……

本当にいろいろだ」


陽菜は立ち上がり、

少し離れた場所に転がっている岩を指差した。


「試してみよう」


「……え……?」


「彩葉。

“こうしたい”って、心に浮かべてみて」


「……心に……?」


「そう。

技は、理屈より“イメージ”だよ」


彩葉は、岩を見つめる。


(……もし……

あれを……止められたら……)


想霊に向かってきた、

あの黒い影を思い出す。


(……動けないように……

縛れたら……)


その瞬間――


彩葉の肩から、

何かが伸びた。


細長く、しかし強靭な――

ショルダーストラップ。


それは意思を持つかのように岩へと伸び、

次の瞬間、

ズブリと岩を貫通した。


「……っ!?」


岩は完全に貫かれ、

ストラップによって地面に固定されている。


「……で……出た……」


彩葉は、自分の肩を見つめる。


「……私……

今……何か……」


陽菜は目を輝かせていた。


「それだよ、彩葉」


「……え……?」


「それが、君の技」


陽菜は岩を確認しながら言う。


「拘束技だね。

しかも――」


ストラップは、

岩よりも“弱い存在”を想定したかのように、

貫通する力を持っている。


「相手が彩葉より弱い場合、

身体を貫いて拘束するタイプ……かな」


「……っ……」


彩葉は、少し震えた。


(……私……

こんな力を……)


「怖い?」


陽菜が、静かに聞いた。


「……少し……」


「うん。

それでいい」


陽菜は、はっきりと言った。


「怖いって思えるなら、

君は力に飲み込まれない」


そして、微笑む。


「彩葉。

君はもう、戦える」


「……本当……ですか……?」


「うん。

あとは――

一緒に、少しずつ覚えていこう」


彩葉は、胸に手を当てた。


まだ分からないことだらけ。

スキルも、特性も、未知のまま。


でも――

役に立ちたいという想いだけは、

はっきりとここにある。


「……私……

頑張ります……!」


陽菜は、満足そうに頷いた。


こうして――

忘れられた物から生まれた守護者は、

初めて“自分の力”に触れた。


それはまだ、

ほんの小さな一歩。


だが確かに、

彩葉は歩き始めていた。

守護者としての道を。

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