アルケオン

れんP

日本編

第1話 生まれたばかりの心

2020年。

この世界には、人の目に見える不思議な存在がいる。


それは幽霊でも、幻覚でもない。

確かにそこに存在し、人と同じ空気を吸い、同じ世界を歩く存在――

**守護者(アルケオン)**。


守護者とは、核(コア)を持つ人型の精神生命体である。

攻撃を仕掛けなければ基本的に無害であり、中立。

だが種類によっては人間を助け、時に人の歴史に介入する。


守護者が消滅する条件はただ一つ。

**核(コア)の破壊**。


その核は、最初から人の姿をしているわけではない。

目に見えぬ小さな存在として生まれ、

無機物や有機物――

忘れられた物、長く使われた道具、強い想いを宿した存在に張り付き、

そのデータを吸収しながら成長し、

やがて人の形を得る。


守護者に勝てる存在は、守護者のみ。

そう言われるほどに、彼らは強い。


そして――

守護者が討つべき、もう一つの存在がいる。


**想霊(そうれい)**。


黒い靄のような姿を持ち、

人や守護者に取り付き、悪意のままに害をなす存在。

多くは意思を持たず、本能だけで動く。


だが、特定の強い感情から生まれ、

意思と形を持つ個体も存在する。

それらは**感情体**と呼ばれ、

人の怒り、憎しみ、悲しみ、絶望を糧に成長する。


守護者と想霊は、決して相容れない。

守護者にとって、想霊を倒すことは使命であり、宿命だった。


神、天使、悪魔、妖怪、怪異、妖精、精霊。

この世界にはそれらすべてが存在している。


だが――

これは、そんな世界の片隅で始まる、

**とある守護者の冒険の物語**。


---


静まり返った廃墟の奥。

崩れた天井から差し込む光が、埃を照らしていた。


かつて人で賑わっていたであろうその場所は、

今や忘れ去られ、時間だけが積もっている。


その瓦礫の隙間――

誰にも気づかれぬ場所で、

小さな“何か”が、確かに存在していた。


目には見えない。

形もない。

だが、確かにそこにある。


**核(コア)**。


それは長い時間、

誰にも拾われず、

誰にも必要とされず、

放置された一つのバッグに張り付いていた。


破れかけた布。

色あせた持ち手。

中には、もう使われない思い出だけが残っている。


核はそれらを、静かに吸収していく。


持ち主の記憶。

抱えられた時間。

置き去りにされた想い。


――守りたい。

――失いたくない。


そんな感情の残滓が、

核に形を与えた。


やがて、廃墟の空気が揺らぐ。


光が集まり、

人の輪郭を描き、

小さな足音が床に落ちる。


そして――

少女は、そこに立っていた。


「……ここは……?」


おそるおそる、声を出す。

それはまだ、世界を知らない声だった。


少女は自分の手を見る。

確かに“触れる”感覚がある。

足が床についている。

風が肌をなでる。


「……私……?」


名前も、役割も、よく分からない。

けれど、自分が“生まれた”ことだけは理解できた。


少女は瓦礫を乗り越え、

廃墟の外へと歩き出す。


崩れた壁を抜けると、

眩しいほどの光が視界を満たした。


「……ここが……外?」


青い空。

風に揺れる草。

遠くに聞こえる街の音。


すべてが初めてで、

すべてが新しかった。


――そのとき。


サザッ。


草の茂みが、不自然に揺れた。


「……?」


少女が振り向いた瞬間、

黒い靄が、地面から這い出る。


形は定まらず、

ただ“悪意”だけがそこにある。


想霊。


それは少女を“存在”として認識し、

獲物を見るように、にじり寄ってきた。


「……な、なに……?」


足がすくむ。

逃げ方も、戦い方も分からない。


想霊は距離を詰め――


――パァンッ!


乾いた銃声が、空気を裂いた。


次の瞬間、

想霊は衝撃に弾かれ、黒い靄を散らして消滅する。


「……え?」


少女が呆然とする中、

銃を構えた一人の少女が姿を現した。


ショートヘア。

軽装。

その手には、古風な火縄銃。


「君、大丈夫?」


柔らかく、だが落ち着いた声。


「……あなたは……」


問いかける少女に、

銃を下ろした少女は、にっと笑った。


「僕は陽菜ひな

君と同じ――守護者だよ」


「……守護者?」


聞き慣れない言葉に、少女は首を傾げる。


「そう。火縄銃の守護者。

えっと……君は?」

       

「わ、私は…彩葉いろは……

バッグの守護者……です」


言葉にした瞬間、

それが“自分の名前”であると、自然に理解できた。


陽菜は少し驚いたように目を見開き、

すぐに優しく微笑む。


「やっぱり。

もしかして、生まれたばかり?」


「……はい」


「だよね。

ここいらじゃ見ない顔だし」


彩葉は少し考えてから、問い返した。


「……陽菜さんは……何をしてたんですか?」


「呼び捨てでいいよ。

同じ守護者に敬語はいらない」


そう言って、陽菜は空を見上げる。


「見回り、かな。

困ってる人間や守護者がいないか、って」


「……すごいです……!」


思わず声が弾む。


「そうかな?

僕は当然のことをしてるだけさ」


照れくさそうに頭をかく陽菜を見て、

彩葉の胸が、少しだけ温かくなった。


(……かっこいい……)


その感情の名前は、

まだ彩葉には分からなかった。


だが確かに、

この出会いが――

彼女の物語の始まりであることだけは、

はっきりと感じていた。


忘れられた物から生まれた守護者と、

使命を胸に歩く守護者。


二人の出会いは、

やがて世界を揺るがす“異変”へと、

静かに繋がっていく――。

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