episode5 アンチ・ゼータ・フォース
〜翌週〜
【オメガ軍 AZF対策室】
その日私は、宿舎の自室で久しぶりに軍服に袖を通した。
鏡に映る自分の顔にはまだ違和感しかない。
口角を上げてニッと笑ってみる。
笑い方が変じゃないかな・・・
今日から、チームメンバーと一緒に過ごす緊張感に包まれ、部屋を出た。
チームメンバーが待つ対策室のドアを開けると、既に集まっていたキリュウ大尉と後輩のグオ・チェン、看護師で同期のメイヴ・オコナーは、明らかに私を“誰?”という顔で見た。
「お疲れ様です、帰還しました」
パチパチと瞬きをして不思議顔の3人に、ニコライが笑って言った。
「彼女がリラ・ミタライだよ」
同時に3人が声を上げる。
「えぇっ?!」
やっぱり、そういう反応に、なっちゃうよね・・・
「アリアなの・・・?」
メイヴが立ち上がり、私にかけよる。
「そうよ、メイヴ、久しぶりね」
「信じられないわ、けど良かった!」
メイヴは私に抱きついた。
「おぉ、抱きしめたらアリアだわやっぱ!」
「なんでそれでわかるんだよ」
笑いながら後ろからグオがやって来た。
「ニオイと肌!」
「ヘンタイか」
メイヴと離れると、私はグオとハグを交わした。
「グオも久しぶり」
「生きてて良かったよ」
相変わらず、後輩とは思えない生意気な言い方が彼らしい。
「あなたまた大きくなったんじゃない?」
元々筋肉質で体格は良かったが。
「セクハラですよパイセン」
「なにがセクハラよ」
変わらない賑やかな仲間に囲まれると、戻って来た事が実感できて嬉しかった。
私は席について改めてメンバーたちを見た。
あら・・・?
「ルークはまだ来てないの?」
私が聞くと、グオが隣に座りながら答えた。
「別件を済ませて来るからちょっと遅れるって」
ふぅん・・・
「委託だから、他の仕事も並行してやってるわけね」
「仕事かねー、女かも」
え・・・
「グオ、そういう言い方はやめろ、チームメンバーだ。信頼して雇ってる」
キリュウがグオの言い方に釘を刺した。
「今日ロベール少佐はブラウン大佐と共に大統領府へチーム発足と状況についての報告へ行っている。話を始めよう」
そして中央の席に進み、ホロプロジェクターを起動した。
「まず今回の我々のチーム名だ」
“Anti-Z Force”という文字が浮かぶ。
「アンチ-ゼータ フォース、略して“AZF”」
エーズィーエフ、か・・・
「メンバーは皆知っている仲だと思うので自己紹介は割愛するが・・・アリア・カトウは、表向きには惑星Zeroniaでの任務に着いて以降、行方不明という事になっている。今日以降、ゼータから彼女の身を守るため、かならず、リラ・ミタライと呼ぶ事」
「了解!」
その時、部屋のドアが開いた。
「遅れて申し訳ない」
ルーク・ウォンだった。
さすがに昨日のような格好ではなく、私たちと同じ軍服を着ていた。
「空いている席にすわってくれ」
キリュウにそう言われ、ルークはグオと反対側の私の隣の席についた。
「体調は?」
そう聞かれ私はすぐに答えた。
「いいわ」
私たちのやりとりを遮るようにグオが口を出す。
「女?」
え・・・
そういう言い方はやめろと言われたばかりなのにグオったら・・・
ルークはピリッとした空気にも臆さず平然と答えた。
「女だ」
「え?」
思わず声が出てしまった。
「おまえふざけんなよ」
身を乗り出すグオにルークは表情を変えず淡々と答えた。
「オレはいつも真面目だ。確かに“女”に呼ばれてた。機関システム部長」
ああ・・・
機関システム部長は確かに女性だ。
「機関システム部長に?」
キリュウが聞き返す。
「軍全体にゼータの神経リンクを切断、あるいは無効化できるシールドのような設備が設置できないかと相談を受けた」
そういう事か。
「確かに、機関システム部長からロベール少佐にその話はあった」
キリュウがルークの話を受けてそう言った。
そしてホロプロジェクターを使い、ゼータがここ数年で侵略・植民地した種族を星図で表した。
「既にミタライの調査データには目を通してると思うが、ゼータは他種族侵略にあたり、まずスパイを送り込む。そして神経リンクを使って意のままに人々を操り、混乱させて一気に攻撃を仕掛け、その惑星の政治や軍を乗っ取る」
「それならまず、スパイの侵入を防ぐための水際対策だよな」
グオがそう発言した。
「そのためにロベール少佐とブラウン大佐が大統領府へ行った。ゼータを経由するの商用船の乗り入れに一定の規制をかける」
私がキリュウと乗船して帰還した船がそうだった。
「ただイキナリ完全にシャットダウンは難しいのが現実よね」
メイヴが指先をあごにあててそう言う。
「そうだ、今回の件には全く関係ない、第三者も多く利用する船だ。彼らの仕事の妨害と言われかねない」
「既にスパイは潜り込んでる可能性もある」
ニコライが腕を組んでそう言った。
「だからまずは神経リンクの切断や無効化を考えなければならないってことか・・・」
グオが納得したように話をまとめた。
そしてルークの方を見る。
「機関システム部長になんて答えたんだよ」
「オメガ全体にシールドを張るのは難しいが・・・例えば宇宙船単位とか、限られた場所ならできない事はないと思う」
ルークの言葉にニコライが踏み込んで質問する。
「どういう理論で?」
「ミタライに行った手術を応用する。
ゼータの神経リンク受容周波数をずらして共振回路を一時的に断ち、特殊な量子位相ノイズを脳神経に流してリンクを無効化する」
「なるほどな」
ニコライは納得したようだったが、グオの顔は完全に“?”になっていた。
ゼータのリンクを無効化する、か・・・
「そう言えば・・・」
私は、ゼータのリンクが全く反応しない種族がいた事を思い出した。
「ゼータ宇宙域の外れの方にある惑星の原始種族には、ゼータのリンクが張れなかったという話を聞いた事があるわ」
「それはいつ頃聞いた話だ?」
キリュウに聞かれ、私はその話を聞いた時期を思い出す。
あれは確か・・・アルファ司令部では暑かった時期だから・・・
「3ヶ月前ぐらいだと思うわ。花火を見ていてその話をゼノンがしたから・・・私の記憶データを“花火”で検索すると出て来ないかしら」
「わかった。ホロ1、検索“花火”」
キリュウはホロプロジェクターのAIに向かって“花火”を検索するよう指示した。
プロジェクターは一瞬その光を煙のように揺らめかせ、やがて私が記憶している花火を見た夜の光景を映し出した。
『面白い花火ですね』
私の声がし、私の視点でゼノンが現れる。
『そうか? オメガにはこのような花火は無いのか』
ドン!と打ち上がる大きな音の直後、ゼータの空に花火が大きく開いたかと思うと、時間を逆戻ししたかのように花火が中心に向かって小さくなる。
それを何度か繰り返し、花火が大きくなるたび色が変わる。
『こんな不思議なの無いわ。ただ一発開いて消えるだけ』
『それで終わりなのか?』
『ええ。でもそれが何千発も上げられるんです』
『ほぉ、それは火薬がたくさん要るな』
穏やかに微笑むゼノン。
「これが司令官ゼノン?」
メイヴが意外そうな声を出す。
「そうよ」
「意外とイケメンなのね。しかも優しげ!」
「ゼノンは私には優しかったのよ」
「さすが愛人ね」
メイヴは首を横に振る。
『この花火の火薬は我々の宇宙域の端の方に位置するGonseという惑星から採掘しているが・・・そこの原始種族には我々のリンクが張れない』
『そんな種族がいるのですか?』
『アリゲーターなのだ。原始的であるがゆえ、我々の進化した神経リンクには反応しない』
『宇宙にはいろいろな種族がいますね』
「ホロ1、停止」
ホロ映像はそこで止まった。
「惑星Gonseか、聞いた事がないな。ルーク知ってる?」
グオがルークにそう聞いた。
「Gonseという惑星があるのは知ってるが、今ゼノンが言ってた通り、原始的なアリゲーターしかいないから用事が無い。ゼータがそんなとこから火薬を採掘してたのは初耳だ」
そこでニコライが自身のホロセルでのGonseのアリゲーターを投影した。
「なんだこれ、デカ!」
対策室の端から端まである大きさだ。
「5mはあるな」
「ほぼ恐竜ね」
アリゲーターは体の半分程ありそうな巨大な口をガバッと開ける。
「うーわー」
「当然肉食だろうけど、何を食べるのかしら」
「共食いだ」
「グロすぎ」
口々にアリゲーターの感想を述べる。
「とりあえず医療部では、このアリゲーターに神経リンク対策のヒントが無いか探ろう」
ニコライがメイヴにそう言うと彼女は頷いた。
「じゃオレは、機関システム部と検討してみる」
そう言うルークにグオが話しかける。
「てかさ、その手術を他の医師はできないのかよ」
「それができない。技術自体は大したことないんだが・・・神経リンク受容周波数を読めるヤツがいない」
「へぇ」
最初はルークに対して敵対的な態度だったグオも若干、感心した様子を見せる。
ま、グオは裏表のない単純な性格だから、ルークともうまくやるだろう。
「ルーク、その検討に誰か補助が必要か?」
キリュウの言葉に彼は首を横に振る。
「いやとりあえずいい。必要になったら呼ぶ」
「よし、じゃあ医療部はそれぞれ検討に入ってくれ。戦闘部は戦闘AIロボットの視察に」
私たちはカイの指示通り、対策室を出てそれぞれの場所へ移動を始めた。
私は移動しながら気になっていた事をグオに聞いた。
「ねぇ、ルークの女性問題ってなんだったの?」
「あぁ・・・あいつ軍にいた頃、オレと同期のコと付き合ってて、彼女を騙して軍のカネを横領させたんだ」
「えぇ・・・」
なんだか思っていた以上に悪質で驚く。
一昨日からの彼の言動は確かにチャラいが、医師としての腕が確かなのは身をもって体験した。
何より私の内腿のタトゥーに触れ、
“怖かっただろう”
と心に寄り添うような、外科医らしからぬ発言には思わず涙が浮かんだ。
とても悪い人間には思えなかった。
私は彼に助けられたからそう思うだけだろうか。
「同時に他の軍人女性にも金品を貢がせててさ。ま、その横領が原因で、金を全額返金する事で論旨退役になった」
グオはそこまで言い、通りかかったフードコートのカフェの方に目をやる。
「なんか飲み物でも買って行くわ。カイと先に行ってて。カフェラテでいい?」
「うん」
グオはフードコートの方へ行き、私はキリュウと2人で先に進んだ。
「ルーク・ウォンは・・・今グオが言ってような人には見えなかったけど・・・任務を委託するのは大丈夫なの?」
「本人に、この件については何も言うなと言われてるが・・・」
キリュウはそう言い、小さくため息をついた。
「横領したのは、その、グオと同期の女性の方だったんだ」
「えぇ?」
「親の借金を返済するためだったらしく、ルークが罪を被ったんだ」
「そんな・・・」
「ま、ルークは、軍の規律が合わなくて辞めたかったからちょうど良かった、なんて言ってたが・・・俺としては本当の事を知って後味は良くない」
そんな事で、退役したんだ・・・
ここに来てまた一つ彼の意外な過去を見た。
「軍もその事実を確認して、ルークの後から彼女の方も退役した。今ではルークを信頼して任務を委託してるが」
そういうことね。
「他の女性にも貢がせてたってのは?」
「さぁ・・・それは知らない」
キリュウは肩をすくめた。
ふぅん・・・
とにかく女性の影は何かとありそうなタイプよね。
昨日の彼の宇宙船にはそんな気配は無かったけど。
その時ふと、キリュウの後頭部に、白い糸のようなモノが付いているのを発見した。
「あら・・・大尉、ちょっと待って・・・頭の後ろに何かついて・・・」
「え・・・?」
立ち止まって後頭部を押さえるキリュウ。
私は手を伸ばし、彼の髪にくっついている糸クズを取った。
柔らかい黒髪は若干寝グセがついたままだ。
なんかちょっとカワイイ。
私は密かにそう思った。
「あぁ・・・ありがと」
「いいえ」
「それと・・・」
「はい?」
「“カイ”でいい」
カイ?
「ここのメンバーは俺の事をラフにそう呼ぶ」
ああ、ファーストネームで呼ぶのか。
「了解です。じゃ、私の事も“リラ”で」
「わかった」
カイ・キリュウのいつもの厳しい表情は柔らかい微笑みに変わった。
次の更新予定
星脈のネクサス Season1〜The Awakening〜 @rioka0603
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