episode3 NO DATE の女
【ゼータ宇宙域 宇宙船メビウス号】
「よし、経過は良好だ。明日から学校だな」
『うん!友達が待ってるんだ!メッチャ楽しみ!』
オレは仕事の取引の傍で、自身の宇宙船から近くの惑星Dahliaの子どものホログラム診察をしていた。
『あーボクも、ルーク先生みたいなカッコイイ医者になりたい!』
青い肌の種族、ダリー族の男の子トニーはそう言って親指を立ててこちらを流し目で見る。
オレはあんな態度なのか?
カジュアルな格好がどう見ても他の医者とは違うから子どもには人気なのだが。
「格好はどうでもいいから、とりあえず勉強しろ」
『ええ〜、勉強〜?』
『当たり前だよ!なんのために学校行くと思ってるんだい!ホラもうあっち行って寝てな!』
“肝っ玉母ちゃん”風情の母親マリアが出て来た。
『先生、診てもらって心強いよ。ダンナはこのところ泊まり込みの仕事で帰って来ないしさ』
「ダンナって軍人でしょ?なんかあったんですか」
『あったもなにもさぁ、いよいよ、この星もゼータの統治下になるって話だよ!』
「ゼータの?」
ゼータ族はこの宇宙域で昔から幅を利かせている戦闘種族で、オレがこれから請け負う予定の仕事もゼータ関連だ。
『ウチらの星は弱小だからさ、逆らったってどうしようもないだろ? もう諦めだよ。生活が保障されるならさ、仕方ない』
マリアはそう言いながら生まれて間もない乳児を抱き、優しくのぞき込む。
『なぁ?おまえの平穏な幸せのために仕方ない』
このところ、ゼータに植民地化される惑星は、この宇宙域で増えていると聞いてはいたが・・・
『先生もゼータには気をつけな!通りかかる宇宙船にイチャモン付けてるって話だよ!』
まったく困った種族だ。
「わかった」
『またダンナのいる時にでも寄っておくれ!』
「ああ、ありがとう」
オレはそこまででホログラム診察を終えた。
『お疲れ様でございます、ご主人様』
この宇宙船のAIコンシェルジュ“L2D2”がシャーッとこちらに寄って来た。
いにしえのSF映画に出て来るドラム缶型ロボットを模して作った。
名前まで同じにしては丸パクリなので、頭文字をオレの名前の“L”に差し替えた。
AIは別に音声だけでいいのだが、姿形があった方が愛着が湧いて家族のようでいい。
『次の予定はオメガ軍の対ゼータ任務になっておりますが、お間違いないでしょうか?』
「ああ、そうだ」
めんどくさいからヤだけど、金がいいから仕方ない。
この宇宙船の借金返済のために致し方ない。
『それでは早速、今朝程更新された任務内容を表示致しますのでご確認ください』
L2D2は目からホログラムの書類を表示した。
「読み上げてくれ」
『かしこまりました!
対ゼータ対策チームに所属し、医療従事並びに工学技術補助、その他ゼータによるオメガ侵略作戦の対応全般』
つまり、そのチームの仕事をなんでもしろって事だな。
いつもの事だが。
『チーム責任者はアラン・ロベール少佐』
「あー、あの真面目な人か」
多分オレの事は嫌いだろうな。
『チーム・リーダーは第一戦闘部のカイ・キリュウ大尉』
懐かしい名前だ。
「カイはもう大尉か」
『キリュウ大尉のプロフィールを読み上げましょうか?』
「いやいい」
よく知ってる。
士官学校の同級生だったヤツだ。
同期でオメガ軍に入隊し、戦闘を共にした事もある。
文武両道でとにかく優秀を絵に描いたような男だ。
『チームメンバーを読み上げます。
第一戦闘部、リラ・ミタライ中尉、グオ・チェン少尉。
医療部、医師ニコライ・ソコロフ大尉、看護師メイヴ・オコナー中尉』
「なんだニコライがいるのか」
形成外科医がいるならオレは必要なさそうなものだが。
『ニコライ医師よりメッセージがございます』
「読んでくれ」
『オメガ軍に入る前に、添付の指定座標の医療施設へ来て欲しい。詳細はそこで話す』
医療施設?
わざわざオレを呼んだのは、その医療施設での仕事が主となるからなのか?
ま、行ってみないとわからないか。
『早速、進路をニコライ医師指定の座標に設定いたします』
「そうしてくれ」
『無料航路を航行可能でございます』
「良かった」
通行料はバカにならない。
そう思った時だった。
船内にアラートが鳴った。
「なんだ」
『トラクタービームです!』
コックピットの前面の窓から、赤色灯を光らせたパトロールの小型宇宙船が見えた。
「なんだよー」
『相手から通信の呼びかけが。応じますか?』
捕まえられちゃ応じる他ない。
「応じろ」
前面の窓がモニターに変わった。
『よぉ!ルークのあんちゃんじゃねぇか!』
映し出されたのは、虹色のパンチパーマのゼータ族男だった。
通称“虹色パンチ”
本名は知らない。
「なんだよ、またあんたか」
『相変わらずイケメンだねぇ!』
イカれたナリのヤツにそう言われても誉められている気がしない。
『B地区のパトロールのネェちゃんがあんたにメロメロだって話だぜぇ?』
「B地区? あぁ・・・」
先週武器売買でショートカットルートを通してもらったオネェちゃんか・・・
仕事が上手くいったから、お礼にちょっと気持ちいい思いをさせてやっただけだ。
「そんな事より、ここは無料航路だろ?なんであんたが出て来るんだ」
こいつは通行料金の徴収をしてるヤツだ。
『それが有料になっちまったんだよぉ』
「えぇ!」
すかさずL2D2が応える。
『この船のナビゲーションシステムによると、ここは無料航路のはずですが?』
『ナビを更新しなきゃなぁ、一昨日から有料だ!』
「一昨日!」
ゼータのヤツら・・・
「この辺りの星を植民地化したってわけか」
『その通りだ!ほら、そっちから見えるだろ、そこのDahliaとかいう惑星がゼータ領になる。だからここを通るにはゼータに通行料金を払ってもらう!』
「Dahliaが植民地になる話はさっき聞いたところだが、まだなってないんだろ? なんでもう通行料金がいるんだよ!」
『オレも知らねぇけどよ、命令だから仕方ねぇんだよ』
さっきマリアが言ってた“イチャモン”とはこの事か。
『とにかく払ってもらわねぇ事にはよぉ、ここを通すわけにはいかねぇぜぇ、あんちゃんよぉ』
「おまえふざけるのはその格好だけにしろ」
『ご主人様、先方との約束の日時には、ここを通過しないと間に合いません』
オレは思わず舌打ちした。
こんなとこで足止めくらってるほどオレはヒマじゃない。
「仕方ない」
『さぁすがその古クサイロボットは物分かりがいいねぇ!なぁに、あんたにとっちゃたいした料金じゃないって!毎度!』
虹色パンチはそう言うと通信を切った。
『お支払いでよろしいですか?』
「よろしい」
オレはため息をついた。
L2D2が決済手続きをポチッと済ませると、トラクタービームは解除された。
『それでは、まいりましょう。指定座標到着は、通常エンジンで現地時刻、明朝7時35分でございます』
オレは時計に目をやった。
ゆっくり寝る時間はありそうだ。
「わかった、オレはもう休む。後は頼んだ」
『かしこまりました、おやすみなさいませ』
シャワーを浴びた後はベッドルームに入り、ソファに座った。
濃紺を基調にしたインテリアに、ブラウンのアンティークレザーのソファ。
ベッドもアンティークの木材を使って統一感を出した。
この宇宙船で1番心落ち着く場所だ。
寝る前にもう一度、ホロPCでオメガのチームメンバーを表示する。
少佐とカイとニコライ、グオは知っているが、女性2人は知らない。
「メイヴ・オコナー・・・ああ、知ってるな」
最初に表示した看護師の顔には見覚えがあった。
医療部だから会った事があるのだろう。
スワイプしてもう1人の女性中尉、リラ・ミタライの情報を表示したが、顔写真は“NO DATE”となっている。
なんでデータが無いんだ?
オレは首をかしげた。
まぁいいか。
オレが軍を辞めたのは、元をたどれば女性のせいだ。
あれ以来オメガの軍人女性とはなるべく深くは関わらないよう注意している。
今回のチームでも、その点は気をつけておこう。
オレはそのまま目を閉じ、いつものように眠りに引き込まれた。
【惑星Earth
オメガ第41自治区 医療施設】
翌朝、ニコライからの指定座標の医療施設に到着したオレは、リラ・ミタライの“NO DATE”の意味を理解した。
「司令官ゼノンの愛人だった?!」
オレはニコライに渡された電子カルテを手に驚きの声を上げた。
「シッ!声がデカい!」
ニコライは指を口の前に立てて声を殺してそう言った。
「自ら愛人の座をつかみ、スパイ任務を遂行した」
たいした女だ。
「しかもおまえ・・・」
更にオレは呆れて続けた。
「完全に自分の好みに整形してるだろ」
絶対前の方が良かった!
変えなきゃいけないから仕方ないけど。
「そりゃ、本人にこだわりは無くて任せると言われれば、好みの顔と体にするだろ」
「そりゃそうだけど・・・ヤラシーな」
「おまえに言われたくないわ」
オレはカルテからリラ・ミタライの顔と身体の状態をホログラムで確認した。
「再生は順調のようだな」
「ああ、順調だ。ただ本人がゼノンに入れられた左内腿のタトゥーが消えない事を気にしてる。あとは、ゼノンの悪夢や幻覚だ」
タトゥーの部分を拡大する。
もしかしたらこれが悪夢や幻覚と関係しているかもしれない。
要診察だな。
オレはジャケットの胸ポケットからカード型通信デバイスのホロセルを出した。
大昔の携帯電話の現代版だが、薄く紛失しやすいデバイスのため、カードケースに入れるかキーホルダーに付けるかしている。
こいつは進化して良いところばかりではない物の象徴だ。
「L2D2」
呼びかけると宇宙船で留守番のL2D2がすぐに応答した。
『はい、ご主人様』
「ゼータの神経リンク被験者の脳波データを出してくれ」
『かしこまりました』
オレは机にホロセルと電子カルテを並べて置いた。
両方から、脳波のデータが波のようにホログラムで投影される。
手で直接ホログラムを動かして2つのデータを重ねてみる。
「ここが一致する。おそらく悪夢を見ている時間だろう」
ニコライは興味深そうに重なる2つの脳波を見た。
「やはり、リラはゼノンに神経リンクを張られているということか」
「まずそう見て間違いないだろう」
「回避方法は?」
「神経リンクを切断する脳神経手術を行う」
「できるのか」
「ああ」
オレは頷いた。
その時、部屋に女性の声が響いた。
「それは、安全なの?」
声の方を見ると、医療ポッドから話題のリラ・ミタライが上半身を起こしてこちらを見ていた。
再生が終わって自動でポッドが開いたのだろう。
顔の状態が安定したのか、電子カルテで見るよりも格段に美しかった。
なかなかやるな、ニコライ。
「お目覚めですか?姫」
オレの言葉に目を見開く。
「姫?」
オレは電子カルテに視線を落とした。
姫っていう歳でもないか。
オレと一緒だ。
「ご気分はいかがですか?」
オレは立ち上がり、ポッドの脇に立った。
「・・・悪くないわ」
タオルケットを裸の胸に抱きしめ、若干警戒するような目でオレを見上げる。
「ルーク・ウォンだ。今回の対ゼータ対策チームに入る 」
彼女はまだ警戒したような顔で静かに答えた。
「・・・リラ・ミタライです」
思ったより小柄で華奢。
骨格は大きく変えていない。
こんな小さな体で、ゼータの司令官ゼノンの元に1人で潜入していたのか・・・
「頭の手術をしなければならないの?」
「ゼノンの神経リンクを切りたければね」
「あなたが手術を?」
「オメガ軍にその技術を持った医師はいない」
不安そうな顔になる彼女。
オレは宇宙域共通医師免許を見せた。
「心配しなくても本当に医者だ。専門は形成外科と脳神経外科」
ま、頼まれれば無免許の事もいろいろやるけど、今ここでそれを言うと不安がられるのでやめておこう。
「脚を見せて」
「は?」
彼女は眉をひそめた。
「太もものタトゥー」
「なぜ?」
だいぶ警戒されてるな。
「気になるんだろう?状態を見て消せるものか診察する」
彼女は納得したのか、タオルケットの脇から脚を出し、膝を立てて内腿のタトゥーを見せた。
「少し触っても?」
彼女はこくんと頷く。
その仕草が小動物のようで非常にかわいい。
オレはポッド脇の操作パネルで手にメディカルグローブを装着した。
素手に一層の見えない膜が張られるが、接触感触は妨げられない。
“Z”の刻印のようなタトゥー。
触れるとその部分は若干の隆起があり、ピリッとした静電気のようなものを指先に感じた。
目を閉じると、これを刻印された時の彼女の恐怖を感じる。
「怖かっただろう」
彼女は気丈に振る舞っていたが、オレのその言葉が思ってもみなかったセリフだったのか、涙ぐみ、目をパチパチさせてオレから視線を外した。
オレは見なかったフリをして手を引き、メディカルグローブを解除した。
「おそらくそれが神経リンクの“チューナー”になっている」
「これがゼノンの神経リンクの受信機になっているということ?」
「そうだ」
彼女はうつむいたまま悲しげな顔をする。
「これは、消えないんでしょう?」
「脳の神経リンクを切断すれば自然と消えるはずだ。いわゆる普通のタトゥーや皮膚疾患ではない」
オレはタオルケットを元通りに彼女の脚にかけた。
その時に指先がほんの少し膝に触れ、彼女はオレから少し身を引いた。
「診察は終わり。手術の詳細はニコライに伝えるからヤツに聞いて」
オレはポッドに背を向けてニコライが座るデスクに戻った。
「手術は早い方がいい」
ゼノンの神経リンクを切る事は、オメガ軍の安全上もちろんのことだが、彼女の苦痛を1日も早く取り除いてやらねば。
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