第5話

「……よし、設定完了」


俺はなけなしの所持金を叩いて購入した、配信用の自律型ドローン『アイ・ボール』を起動させた。


安物だが、最低限の撮影機能はある。

俺の周囲をフワフワと飛び回り、視界を共有して映像を世界中に届ける仕組みだ。


「タイトルは……これでいいか」


**【配信タイトル:Fランクの掃除屋が、深層のゴミを拾うだけの配信】**


煽り一切なし。

嘘もなし。


「配信開始(スタート)」


ボタンを押すと、スマホの画面に『LIVE』の赤い文字が点灯した。


**【現在の視聴者数:0人】**


「ま、そうだよな」


無名の新人、しかもFランク。

誰も見に来ないのは想定内だ。

だが、アーカイブ(録画)さえ残れば、俺が不正をしていない証拠にはなる。


「さて、行くか」


俺は腰の『グラム』に手をかけ、再び『奈落の顎』のゲートをくぐった。


   ◇ ◇ ◇


その頃。

第51階層への攻略を進めていたSランクパーティ『光の剣』には、不穏な空気が漂っていた。


「おい、ミナ! ポーションまだかよ!」

「もうないわよぉ! さっきケビンがいっぱい使ったじゃない!」


リーダーのケビンが、苛立ち紛れに愛剣を振るう。

だが、その剣筋は重く、キレがない。


「クソッ、なんだこの剣! 全然斬れねぇぞ!」


刃こぼれだらけの剣が、硬い魔物の皮に弾かれる。

これまで、戦闘の合間に海人が行っていた「瞬間研磨」と「メンテナンス」がなくなったため、武器の耐久度は限界を迎えていた。


「魔法使い! 援護しろ!」

「無理だ! MPが切れた! ……おい、MP回復薬はどこだ!?」


魔法使いが背後の空間を探るが、そこには何もなかった。


「あ……」


彼らは気づいてしまった。

いつもなら、戦闘中にスッと差し出されていた予備の武器も、完璧なタイミングで補充されていたポーションも、全て海人が管理していたのだと。


「チッ! あの無能が! いなくなってまで俺たちの足を引っ張りやがって!」


ケビンは自分の管理不足を棚に上げ、海人を罵った。

さらに深刻なのが「荷物」だ。


「重い……なんでこんなに重いんだ……」


海人が一人で背負っていた80キロの物資。

それを3人で分担した結果、彼らの動きは鈍重になり、スタミナは枯渇していた。


「ねえケビン、この『キラー・マンティスの鎌』、捨てていい? もう持てないよぉ」

「馬鹿野郎! それは金になるんだぞ!」

「でもぉ、これ以上持ったら私が歩けなくなっちゃう!」


ギャアギャアと揉める彼らの背後に、新たな魔物の影が迫る。

連携は崩壊寸前だった。


「クソッ、なんでだ! なんでうまくいかねぇんだよ!」


彼らはまだ認めない。

追放した「ゴミ」こそが、パーティの心臓部(エンジン)だったことを。


   ◇ ◇ ◇


一方、俺――一ノ瀬海人。


**ズバァァァァン!!**


「はい、次」


襲いかかってきた『キラー・マンティス』の大群が、一振りで霧散した。

もはや剣を振るうまでもない。

ただ歩いているだけで、風圧で敵が死んでいく。


**『ピロン♪』**

**【ドロップ:マンティスの死神鎌(S級素材)×50】**


「お、これ高く売れるやつだな」


俺はドロップした鎌を、次々とリュックに放り込んでいく。

ステータス100倍の俺にとって、この程度の重さは羽毛と同じだ。


ふと、スマホの画面を見る。

視聴者数はずっと0人のまま……。


「ん?」


いや、違った。


**【現在の視聴者数:1人】**


「お、一人来てくれた」


迷い込んだだけかもしれない。

すぐにブラウザバックするだろう。

そう思ったが、その視聴者はなかなか出ていかなかった。


そして、ポツリとコメントが落ちる。


**『名無しさん:え、なにこれ』**

**『名無しさん:ここ深層だよな? CG?』**


どうやら、映像のあまりの「異常さ」に困惑しているらしい。

俺はドローンに向かって、軽く手を振ってみた。


「あー、どうも。初見さんいらっしゃい。これCGじゃないですよ。今、証明のために50階層から潜り直してるんです」


言いながら、俺は足元に転がってきた宝箱を蹴り開けた。


パカッ。


中から出てきたのは、まばゆい光を放つ宝石。


**【獲得:賢者の石(小)】**

**【ランク:伝説級(レジェンダリー)】**


「あ、ラッキー。賢者の石だ。これ欲しかったんだよなぁ」


俺は何気なくそれを拾い上げ、カメラの前にかざした。


「これって換金するといくらくらいですかね? 妹の手術費に足りるといいんですけど」


その瞬間。

コメント欄が爆速で流れ始めた。


**『名無しさん:はあああああああ!?』**

**『名無しさん:賢者の石!? 国宝だぞそれ!!』**

**『名無しさん:待て待て待て、後ろの死体の山なんだよwww』**

**『名無しさん:拡散した』**


**【現在の視聴者数:5人……10人……50人……】**


カウンターが、壊れたように回り始めた。

伝説の始まりは、唐突だった。


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2026年1月12日 20:00
2026年1月13日 20:00
2026年1月14日 20:00

追放されたFランクの荷物持ち、実は「ドロップ率100%」の管理者でした。~激レア装備の配信でバズったので、今さら戻れと言われても手遅れです~ kuni @trainweek005050

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