第4話

「き、ギルドマスタァァァァァッ!!」


受付嬢の悲鳴にも似た絶叫が、ロビーの空気をビリビリと震わせた。

騒然となるギルド内。

奥の執務室から、強面のギルドマスターが血相を変えて飛び出してくる。


「なんだなんだ!? 敵襲か!?」


「ち、違います! これを見てください! 今すぐ!!」


受付嬢が震える指で差した先。

そこには、カウンターを埋め尽くすほどのSランク素材と、俺――一ノ瀬海人が立っていた。


ギルドマスターは俺を一瞥し、そしてカウンターの上を見て……固まった。


「……アビス・イーターの牙に、ブラッド・オーガの角。こっちは……ミスリル銀のインゴットか?」


彼は震える手で、俺が適当に放り出した『神話級』の剣を持ち上げた。


「おい、嘘だろ……。これは博物館級の『聖遺物』じゃないか。なんでこんな国宝が、裸で置いてあるんだ!?」


「リュックに入りきらなかったので」


「馬鹿野郎! ケースに入れろケースに!」


ギルドマスターの怒号に、周囲の冒険者たちが息を飲む。

さっきまで俺を馬鹿にしていた連中の顔色が、青を通り越して土気色に変わっていくのが見えた。


「おい……あれ全部、本物なのか?」

「あの荷物持ち、何をしたんだ?」

「ケビンたちの荷物を盗んだんじゃ……」


外野の雑音を無視して、ギルドマスターが俺に向き直る。

その目は真剣そのものだった。


「小僧……いや、一ノ瀬と言ったか。これ、全部お前が持ってきたのか?」


「はい」


「『光の剣』の連中は一緒じゃないのか? これほどの戦果、奴らでも無傷とはいかんだろう」


俺は淡々と事実を告げる。


「俺は今日付けでパーティを追放されました。これは全部、その後に俺が『一人で』拾ってきたものです」


シン、とロビーが静まり返る。

数秒の沈黙の後、爆発的な笑いが起きた。


「ぶっ、あはははは! 聞いたかよ今の!」

「Fランクの荷物持ちが、一人で深層の素材を取ってきただと?」

「嘘をつくならもっとマシな嘘をつけよ!」

「どうせ、ケビンたちが隠しておいた場所からくすねてきたんだろ!」


嘲笑と、明確な敵意。

「盗人」を見る目が俺に突き刺さる。

まあ、そうなるよな。

Fランクのゴミが、一夜にして最強になったなんて信じられるわけがない。


ギルドマスターもまた、疑わしげな視線を向けてくる。


「一ノ瀬。俺もお前の言い分を信じたいが……客観的に見て無理がある。これが盗品でないという『証拠』はあるか?」


証拠。そんなものはない。

俺のスキル『管理者権限』は、ステータスプレートには表示されない隠しスキルだ。


「……証拠がなければ、どうなるんですか?」


「ギルド規定により、調査が完了するまで素材は没収。最悪の場合、窃盗罪で衛兵に突き出すことになる」


俺の中で、何かがプツンと切れる音がした。


どこまで俺をコケにすれば気が済むんだ。

追放され、殺されかけ、自力で生還してなお、今度は犯罪者扱いか。


(証明してやるよ)


俺の奥底で、ドス黒い炎が燃え上がった。

俺の力も、あいつらの無能さも、全て白日の下に晒してやる。


「……わかりました」


俺はカウンターの上の素材を、素早い手つきでリュックに戻した。

そして、ギルドマスターを睨みつける。


「なら、今からもう一度潜ってきますよ」


「は? 何を言って……」


「俺がどうやってこれを入手したか。その証拠映像を撮ってきます。それなら文句ないでしょう?」


俺はポケットからスマホを取り出し、振ってみせた。


「ちょうどいい。今流行りの『ダンジョン配信』ってやつで、全世界に生中継してやりますよ。俺がソロで深層を蹂躙するところをね」


「お、おい待て! 自殺行為だぞ!」


止める声を振り切って、俺はギルドの扉を蹴り開けた。


背後から、冒険者たちの嘲笑が聞こえる。


「あーあ、ヤケになりやがって」

「死に場所を探しに行ったか」


言わせておけばいい。

数時間後、その口が塞がらなくなる時が楽しみだ。


俺はスマホのアプリストアを開き、大手配信アプリ『D-Live』をインストールした。


アカウント名はどうするか。

少し考えて、俺はこう入力した。


**【チャンネル名:Fランクの掃除屋】**


「さて、始めようか。俺の大逆転劇を」


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