第3話
現れたのは、『ブラッド・オーガ』の群れだった。
深層を徘徊する、身長3メートル超えの赤い悪魔。
通常ならSランクパーティが連携して、やっと1体を倒せるかどうかという災害級の魔物だ。
それが10体。
涎(よだれ)を垂らして、俺を取り囲んでいる。
「……以前の俺なら、絶望で失禁してたな」
だが、不思議と恐怖はない。
俺の手には神話級武器『グラム』がある。
そして何より、体の中に燃えるような力が溢れている。
「グオオオオオオッ!!」
先頭のオーガが棍棒を振り上げ、襲いかかってきた。
速い。……はずなのに。
(止まって見える)
俺は無造作に剣を横薙ぎにした。
刃が肉に食い込む感触すら、ほとんどない。
**ズンッ!!**
衝撃波が走る。
ただの一振り。
それだけで、先頭の1体どころか、背後にいた9体、さらにはその奥のダンジョンの壁までもが、真横に両断された。
「え……?」
ズズズン……と地響きを立てて、オーガの上半身が一斉に崩れ落ちる。
**『ピロン♪』**
**【敵を撃破しました】**
**【レベルアップ:Lv1 → Lv35】**
**【レベルアップ:Lv35 → Lv58】**
**……**
耳障りなほどの通知音。
**【ドロップ判定(100%)】**
**【獲得:オーガの剛腕(A級素材)×10】**
**【獲得:鬼神の棍棒(S級武器)×5】**
**【獲得:魔石(特大)×10】**
一瞬で、俺の足元が宝の山になった。
「ははっ、マジかよ……」
Sランク武器が、まるで駄菓子のように落ちる。
俺は笑いが止まらなかった。
今まで俺たち荷物持ちが、命懸けで拾っていた「ゴミ(空き瓶やボロボロの皮)」は一体何だったんだ?
俺は今まで、こんな「ヌルゲー」の世界で、這いつくばって生きていたのか?
「……回収」
俺はアイテムボックス(リュック)に素材を放り込む。
本来なら重くて動けなくなる量だが、ステータスが100倍になった今の俺には、発泡スチロールを背負っているようなものだ。
「よし、行くか」
俺は地面を蹴った。
ドォン!!
爆発的な加速。
景色が線になって後方へ流れる。
第49階層、48階層、47階層……。
遭遇する魔物は、すれ違いざまに斬り捨てる。
その度に『神話級』や『伝説級』のアイテムがドロップし、俺のリュックを肥えさせていく。
(ケビンたちは、地上に戻るのに3日かかると言っていたな)
俺は足を止めない。
(俺なら、3時間でお釣りがくる!)
◇ ◇ ◇
数時間後。
ダンジョンの入り口である『転移ゲート』をくぐり抜け、俺は地上の空気を吸った。
「帰って……きた」
久々の太陽が眩しい。
泥と返り血でボロボロだが、生きて戻ってきた。
目の前には、ダンジョン探索の拠点となる巨大なギルド支部がある。
夕方のピークタイム。
多くの冒険者や職員たちが、ロビーを行き交っている。
俺が重い足取りでロビーに入ると、ざわめきが一瞬だけ止まった。
「おい、あれ……」
「『光の剣』の荷物持ちじゃないか?」
「ボロボロだな。一人か?」
「まさか、置いてけぼりにされたんじゃ……」
ヒソヒソという嘲笑交じりの声。
哀れみを含んだ視線。
以前の俺なら、恥ずかしくて下を向いていただろう。
だが、今の俺は堂々と受付へ向かう。
「おい、ゴミ拾い!」
絡んできたのは、顔見知りのDランク冒険者だった。
ニヤニヤしながら俺の進路を塞ぐ。
「ケビンさんたちはどうした? まさかお前、またドジ踏んで逃げ帰ってきたのか? 迷惑かけんじゃねぇよ無能が」
周囲からクスクスと笑い声が漏れる。
俺は立ち止まり、彼を真っ直ぐに見据えた。
「……どいてくれ。換金したいんだ」
「あぁ? 換金ン?」
男は俺のパンパンに膨れ上がったリュックを指差して爆笑した。
「どうせまた、小石とかネズミの皮でも拾ってきたんだろ? そんなゴミ、査定する受付嬢ちゃんが可哀想だぜぇ!」
「いいから、どけ」
俺は男の横を通り過ぎる際、軽く肩で押した。
「ぐわっ!?」
それだけで、男は数メートル吹き飛び、壁に激突した。
「なっ……!?」
ロビーが静まり返る。
俺は構わず、ポカンと口を開けている受付嬢のカウンターにリュックを置いた。
「す、すみません。換金をお願いします」
「は、はい……。えっと、魔物の部位ですか? 種類は……」
「とりあえず、拾ったものを全部」
俺はリュックを逆さまにして、中身をカウンターの上にぶちまけた。
ドサドサドサッ!!
ガシャーン!!
ゴロンゴロン……。
山積みになる素材。
その隙間から漏れ出す、隠しきれない高密度の魔力。
「……え?」
受付嬢の顔が引きつる。
最初に転がり落ちた『オーガの剛腕』を見て、彼女の目が点になった。
「こ、これ……深層の素材……ですよね? それに、この剣……まさか聖遺物級!?」
「あ、これ? 道端で拾いました」
「ひ、拾ったぁ!?」
受付嬢の裏返った声が、静まり返ったロビーに響き渡る。
俺の「ざまぁ」快進撃は、ここから始まる。
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