第5話 ひかりちゃんを見つけて……

 愛里は猫キャリーを持ち、残りの四人でスコップ、バケツを手に持ち、八尾の案内に導かれ、一行は三須鷹山の裾野を迂回する形で登山を始めた。その時、猫キャリーの中のひかりが怯えたように鳴き声をあげた。

「ひかりちゃん、どうしたの!?」

 美緒が覗き込むように尋ねる。

「ここはこわい。ここでとてもいやなおもいをしたの。いやだ、いやだ!」

 愛里がすぐにキャリーを開き、怯えるひかりを抱きしめた。

「そう、この山が怖いのね。でも大丈夫よ、もう怖くないよ。私達が一緒にいるからね。……あなたを探し出してあげる」

 まだひかりの全身は震えている。明日香が強いまなざしでそびえる山を睨んだ。八尾は不思議そうな顔をしたが、何も問わず歩きはじめた。愛里はひかりを抱いたまま歩く事にした。山へと登る道はほとんど獣道、道なき道であり、八尾は普通に歩いていくが、優子以外は次第に遅れ始める。たまらず七瀬が八尾に、もう少しゆっくりお願いします、と頼んだ。

「いけない、わしは歩き慣れてるからね、申し訳ない」と言って八尾はペースをぐっと落としてくれたので、なんとか五人は付いて行くことが出来た。ある場所に着くと、八尾は腰にさしていた鎌を抜いて、ザクザク横道に生えている藪を切り裂きはじめた。ここに入っていくのか……と流石の明日香も息を呑んだが、真っ先にスコップを振り回して突入していく。

「わあ引っかかった」と明日香が叫んだ。スコップが藪に巻き取られそうになっている。急に立ち止まったので、続いていた優子が思わず尻もちをついて、支えようとした美緒も膝が崩れた。その時地面に着いた手がなにかぬめりとしたものに触れた。慌てて美緒が見てみると、オレンジ色の長い虫が手袋に引っ付いている。

「きゃああぁぁ」と美緒が悲鳴を上げる。七瀬が後ろから飛びついてすぐにヒルを捨てた。

「だいじょうぶ、直接触れない限り血は吸われないよ」

 血は吸われない、という日頃聞かないパワーワードに後ろにいた愛里も思わずぞっとした。愛里はひかりを抱いたまま歩いていたが、ここからは駄目か、と仕方なくひかりを猫キャリーに戻した。幸い、今は落ち着いている。こけないように慎重にね、と八尾が優しく声をかけてきて、また先へ進む。山を舐めてたな、と明日香は内心舌打ちしたが、いまさら戻る道なんてないんだ、と腹を括った。優子は心ひそかに念仏を唱え、ヒルとか蛇とか来るな、と祈りながら歩いた。やがて、鬱蒼とした藪は終わり、高い木が並ぶ窪地のような場所に出た。足元は黒土で、湿り気がある。

「ここです……。少し盛り上がってるな」

 と、八尾が示した場所は、大木の根のそばで、確かに周囲に比べて少し膨らんでいるように見える。五人は互いに頷きあい、凄い勢いで掘り始めた。愛里は猫キャリーを少し離れたところに置いた。

「みんな、覚悟を決めるのよ。何を見ても動揺しないでよ」七瀬が泥土をスコップで後ろに放り捨てながら言った。明日香がうなずく。優子も美緒も愛里も汗を流して必死にスコップを動かす。跳ねた土が顔にひっついたが、おかまいなしに愛里は手を動かした。伊達にダンスのために鍛えてるんじゃないやい。柔らかい土だから掘り進みやすかった。八尾もバケツに入れられた土を遠くに捨てて手伝ってくれた。10分も掘っただろうか、穴に体ごと飛び込んでいる明日香の目に茶色の毛布のようなものが見えた。

「毛布だ! ということは……」さらに明日香が必死にスコップで泥土を除けると、1mほどの毛布に包まれた何かが姿を現した。七瀬も飛び込んできた。肉の腐った匂いがしてくる。

「顔を確認しよう。こっちを開いてみよう」

 明日香が片側の端の毛布を少しずつ開いていく。腐っているのか、途中で破れてしまい、一気に開かれた。

「……!!」

 明日香は、思わず瞳を強く閉じてしまった。そこには、部分的に崩れた少女の顔があった。七瀬は口を押えながら確信した。これは、石破ひかりちゃんだ。七瀬は崩れた毛布をもう一度ひかりの顔にかけた。そして、全員に向けて何か言おうとして、美緒の後ろがやけに明るいことに気づいて、声を失った。そこには……まばゆい光を放つ、四歳の少女が立っていた。八尾は、その姿を見て、余りの荘厳さに立ち尽くしてしまった。

「みんな……ありがとう。わたしをみつけだしてくれて。これでらくになったよ」

「ひかりちゃん!!」愛里は叫ばずにいられなかった。明日香も優子も七瀬も美緒も口々にひかりの名を呼んだ。

 ひかりは満たされたような笑顔だった。写真で見たよりも、遥かに可愛い子だ、と愛里は思った。

「ほんとうにありがとう。わたしね、かみさまによばれてるの。だからもういかないといけないの」

 ひかりの頭上から優しく美しい光が降りてきた。愛里の目から涙が溢れる。もう、お別れなんだ。愛里は悲しくて淋しくて仕方なかった。

「ひかりちゃん、さようなら! 私、あなたに会えて本当に良かったわ。わたし、わたし……」

 ひかりの体がすこしずつ宙に浮かんでゆく。ひかりは愛里を見つめ、ひとことだけ、またね、と言った。そして、その体は天に昇って行った。愛里たちはみんな涙を流して空のひかりに手を振ったのだった。

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