第3話 犯人たちとの邂逅

 次の週の日曜日、愛里たち五人は美緒の家に集合していた。美緒の家は広く、ひかりの家に近いであろうことも考慮してのことだった。愛里は購入したピンク色の子猫用のキャリーにひかりを入れてやってきた。美緒の部屋に集まって柔らかい絨毯に輪になって座るなり、愛里は四人に尋ねた。

「そういえばみんな、誰も私が嘘ついてるって言わなかったね」明日香が間髪入れず答えた。

「あんたが嘘つくなんて誰も思ってないからね」

 優子も頷いた。愛里は嬉しそうに微笑んで、バッグからひかりを出した。その青い瞳は美しく輝いている。七瀬は、愛里が可愛がってるんだろうな、と笑みを浮かべた。

「早速だけれども、もう家は突き止めたよ。えへん」

 と言いながら、美緒が何か書いてあるA4用紙を全員に配る。そこには、石破由美の住所と、身辺調査の内容らしきものが書いてある。

「すごいじゃんこれ、名探偵美緒爆誕かよ」と明日香が感心する。七瀬が、これどうやって調べたの? と聞いた。

「お母さんに聞いたのよ。どんな人か知ってる? って。結構悪名高いみたいでよ~く知ってたわ」

 用紙には、ひとり親家庭である事、一人娘のひかりが最近見られないが、実家に帰してあると説明しているとの事、しばしばチンピラのような男が家に出入りしていること、外見は派手で金髪であるということ、などと羅列してある。

「ママコネクションすごいね、ふーん、ひかりちゃんは実家に帰してることにしてるんだ」優子がため息と共に言った。明日香が紙を睨みつけながら言う。

「この男だろうな、ひかりちゃんを埋めたのは。いや、二人がかりかもしれないけど」

「ひかりちゃん、この男の外見をなるべく詳しく教えてくれる?」と七瀬が訪ねた。応じてひかりも答える。

「からだがおおきくて、うでにいれずみがはいってる。かみのけはみじかくて、こえがおおきくてとてもこわいの……」

 愛里ははっとした。胸に抱いたひかりが震えている。それはそうだ、殺されるまで虐待されたのだから。愛里は思わず強く彼女を抱きしめた。その様子を見た明日香がドスの効いた声で言った。

「さ、どうする。警察には持っていけない。猫に聞いたなんて言っても信じてもらえないだろうからな」

 七瀬が思慮深く言葉を受け継ぐ。

「優子、あんたが人を埋めるとしたらどこに埋める?」優子は生まれて初めての質問に激しく目を瞬かせた。そして、前髪をかきあげながら、

「……うーん、やっぱり人気のない山の中とか?」七瀬は愛里にも聞く。

「埋めるとしたら、なるべく早く埋めたいと思う。車で移動するとしても、警察の検問とかあるでしょ。だから、この近くの山と言えば……」

「三須鷹山」と明日香と優子と美緒が口を揃えていった。さすがうちらはチームだ、息があってる、と七瀬は感心して続けた。

「名探偵美緒どの、三須鷹山行ったことある?」

「あるよ、小学校の時遠足で。どんなだったかあまり覚えてないけど」

「私もあるんだけど、あそこは標高はあんまり高くなくて、登山スポットとしては割と人気なのよね。……ひかりちゃん、何度もごめんね、あのね、最後のとき、時間とかは覚えてる? 無理かな?」

 ひかりはしばらく考えた後、おひさまがしずみかけてたとおもう、としっかりと答えた。

「……じゃあ夕方から夜の間か。明日香さ、家の車出せる? あのごっつい黒いの。アルフォートだっけ?」

「アルフォートはお菓子だよ、あんたがいつも食べてる。アルファードね。出せるよ。……三須鷹山行ってみる? まだ三須鷹山と決まったわけでもないけど」

 七瀬は肩にかけた茶髪をせっせと触りながら、美緒に、

「どうにかして石破ひかりちゃんの写真を手に入れられないかな?」と尋ねた。美緒は首を傾げながら、保育所とかに通ってたなら分かるかも……と言う。愛里がひかりに

「保育園か幼稚園に行ってた? 覚えてる?」と聞いた。ひかりは、何回か言ったことがあるけど、そのうち行かなくなった、と答えた。

「その保育園の名前は分る?」と七瀬が勢い込んで尋ねる。ひかりは、少し考えて、

「たぶん、はなぞのほいくえんだったとおもう」と答えた。美緒が光の速さでスマホの画面を叩いた。そして、

「ある! うちのすぐ近くにあるよ、花園保育園!」

 七瀬は大きく頷いた。そして美緒の顔を覗き込む。

「ママコネクションで花園保育園に今子供を預けている人を探してほしい」

「ふむ、了解。でもさ、ひかりちゃんの顔を知っておく必要はあるの?」

「万が一死体を見つけた時に顔が分からないと確認のしようもないでしょ。目撃情報を誰かに聞く時にも絶対に必要だし。ま、遺体の顔自体はひかりちゃんに見てもらえばわかりはするけどね」

 明日香がこういった。

「それはまた美緒ママに頑張ってもらうとしてさ、今日さ、私たちは由美の顔だけでも見ておかないか? 住所分かってるんだし、何かと役に立つかもしれないし」

「それはそうだと思う。私もクソ女の顔は見ておきたい、違う意味で」優子が恐ろしい顔になる。そして真顔になる。

「こういう時は100mを12秒で走った私の足が役に立つな。問題は家にいるかどうかだけどね」

 一同は顔を見合わせた。そして、優子の作戦を聞いて全員頷いて、美緒はクローゼットからデジタルカメラを出してきた。


 一時間後、五人は石破由美が住む公団住宅にやってきた。部屋の番号は202号室になっている。

「あそこにいい植え込みがある。でもどう考えてもこの人数は多いよ。私の撮影の腕を信じて、明日香、美緒、愛里はこの辺で待機しといてくれる?」

 三人は無言で頷いた。優子は準備運動に余念がない。七瀬は美緒に借りた麦わら帽子を深く被りなおし、早足で住宅内に駆けていく。優子はしらっとした顔で住宅の階段を上がり、七瀬に合図を送る。背の低い木の影に隠れた七瀬はサムズアップで返す。幸い日曜の午後の公団住宅街は静かで人も全然通らない。

 優子は202号室のブザーを押して、宅配便です、と声をかけた。そしてドアにぴったり耳をつけて音を聞く。カチ、と音がした途端、撃たれた弾丸の速さでその場を離れる。ドアを開けて出てきたのは、乱れた金髪で眠たそうな顔をした目つきの悪い女性だった。思った以上に老けてやがんな、と思いながら七瀬は遠望で何枚か写真を撮った。その様子を離れて見ていた三人は、ふと横を歩いていく男性に気が付いた。背が高く、きつい香水の匂いを振りまいている。白の、背中に虎の絵が描いてあるジャージに身を包んでいる男を見て、明日香は咄嗟にこいつがその男では? と感じ、麦わら帽を直しながら意気揚々と戻ってくる七瀬に、目線で合図した。七瀬もすぐに理解し、再び先ほどの隠れ場所に戻った。優子が帰ってきたが、すれ違った男が怪しいよ、とすぐに報告してきた。

「分かってる、七瀬がまだ待機してる。上手くいけば横顔ぐらいは撮れるはず」と明日香が声を殺して説明した。なるべく目立たないように固まりながら見守る。やがて七瀬が急ぎ足で戻ってくる。手で丸のサインをしながら戻ってきた彼女は

「ばっちり斜め顔が取れたよ。202号室に入っていったからこいつがその腐れ外道で間違いないと思う」

「でかした、よし、みんな帰ろう」

 と、五人は成果の多さに満足しながら急ぎ足で美緒邸に戻るのだった。

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