第2話 ダンスチーム“Believe next door”動き出す
「ゆる……許せない」
顔を真っ赤にした真島明日香が拳で床を殴った。余り大きな音がしたので横にいた三森優子は体を浮かせて驚いたほどだ。明日香の短髪が怒りで逆立っている。優子はボブカットの髪をぐしゃぐしゃにして歯を食いしばっている。その隣で体育座りをしている大村七瀬は下を向いてポニーテールを肩にかけた髪をしきりに触り、体を小刻みに震わせている。河村美緒はその美しい二重の瞳を潤ませ、そっと愛里に抱かれているひかりの頬に手を添えた。全てを白猫ひかりから聞いた愛里は翌日の夜、愛里たちが作っているダンスチーム“Believe next door”のメンバー五人を自宅に呼んだ。八畳のワンルームには同い年の地元仲間の五人が所狭しと座っている。
「駄目、私にはニャーとしか聞こえない」優子が残念そうに言う。他の四人も残念ながらひかりの言葉は分らなかった。
「そう……じゃあ仕方ないわ。私が説明するね」
愛里は白猫の体を借りている少女、石破ひかりが生前に受けていた凄惨な虐待を、言葉を絞るように話した。食事は一日一食、母親の由美と、恋人の男にいつも殴られ蹴られ、お風呂場で熱湯を浴びせられて顔を張られて気を失ったのが最後の記憶だ、というところまで説明したところ、もっとも激しく怒りを表明したのは空手の有段者で男気溢れる明日香だった。
「で……この子の家はどこなんだい。ちょっと行って蹴り殺してくるからさ」
いうなりすごい勢いで立ち上がる。慌てて七瀬が止める。
「いや、まだ分からないよ。この子の名前がちゃんと本名なら調べればわかると思うけど……」
「調べようよ。いや、この子が知ってるんじゃないの? この子に家の住所聞いて」
今にも家から飛び出しそうな明日香を、七瀬と優子が無理やり座らせる。愛里はともかく住所を聞いてみた。
「わからない。おうちのきんじょにあるこうえんとかわのなまえはわかるけど」とひかりが答える。
「そうなの、公園の名前は?」
「みさわのしまこうえん」愛里がそれをみんなに伝える。
その名前を聞くなり美緒が大きな瞳をさらに見開いた。
「それ、うちの近所の公園! ひかりちゃんはうちの近所に住んでる子だったんだ!」
「川の名前はわかる?」愛里が重ねて質問する。
「とがのかわ」
「やっぱりだ! うちの西側にある川だ、ジョギングコースとかもある、ここからそんなに遠くないところにあるよ」美緒が興奮して膝を手で叩く。わかるわかる、と七瀬も同調する。愛里も利賀乃川は頭に浮かんだ。
「ってことは、その辺の「石破」って家を探してそいつらを成仏させればカタはつくんだね、よし、行くか」
と、大股で出ていこうとする明日香を全員で食い止め、座らせた後、優子が乱れたボブの髪を直しながらこういった。
「そもそも、ひかりちゃんは何を求めているんだろう。どうしてほしい、とかあるのかな」
「そうだね、というかね、ひかりちゃんは誰の言ってる事でも理解出来るみたいよ。こっちが言ってる事が分からないだけでね」愛里はそう説明した後、胸に抱いているひかりに、どうしてほしいかな? と聞いてみた。
「わたし、とてもくらいところにいるの。さむいし、さびしいの。わたしを出してほしい」
五人は首を傾げた。ひかりちゃんの肉体のことか、と合点した七瀬が聞いてみる。
「周りに何も見えないの? お空は? 部屋にいるの?」
「なにもみえないの。うごけないし、おともしない」
「……これ、埋められてるんじゃないかな」優子が低い声で言う。そうかもしれない、死体を埋めたんだ、と七瀬が小さな声で言った。
「よし、掘り出してあげよう。まずその馬鹿親と男をタコ殴りにして、場所を聞きだせばいいね」
明日香以外も内心では同意したが、現実にはそういう事をするわけにはいかない。五人は更に相談を重ねた。夜は静かに更けていき、空には三日月が悲しく輝いていた。
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