4話:「滅びの村で、猫族少女は笑う」

 金が入ったので空腹を満たすために、ニャルムと食事に行くことにした。

人間にも亜人にも人気の店を彼女に教えてもらい席につく。


「本当に何を頼んで良いのっ?」

「ああ好きなものを食べてくれ。おかげで稼がせてもらったからな」


 昼食には少し遅い時間だが、客が多くて賑わっている。

木の板に日本語でメニューが書かれているのを見て、心からこのゲームが日本で作られた和ゲーで良かったと感じた。


「エレスエイナの名物料理とかあるのか?」

「う~ん。そうだねぇ~。『ボルボネオの触手しょくしゅ』のスープが人気かなぁ」


 ボルボネオとは、ヌメヌメとした長い触手で敵を捕食するやつだ。

逆にあれを食うのか……?

たくましいな異世界人……だが俺には食えん。


 俺は普通に食えそうなパンとシチューを選んだ。

ニャルムは片耳をピクピクさせ散々悩んだあげく、ハンバーグと、謎の巨大な骨付き肉。

肉食系女子なのか?


「ニャルムは普段、どんな生活をしてるんだ?」

「私は……お母さんが病気で働けないから、冒険者ギルドに登録してるの」

「クラスとレベルは?」

「……笑わないでね? クラスは斥候スカウトで、レベルは……3。採集クエストとか、冒険者ギルドの臨時パーティー募集で、ダンジョン探索の手伝いをしてるんだ」


 ハッキリいって弱い。

斥候スカウトは主にダンジョンなどで、索敵さくてきや罠対応に長けた初級クラス。

レベル3では、序盤の雑魚モンスターにさえ苦戦するだろう。


「ちなみに、年齢は……?」

「15歳だよ」


 俺の、1つ下……?!

身長が小さいせいか、もっと幼いと思っていた。


 しかし、その年齢で働いているのか。

やはりこの世界には義務教育などの仕組みはないようだ。


「はいよっ、お待ちどうさま!」


 会話をしていると、ドン! とテーブルに注文した料理が置かれた。

なかなか美味そうな見た目をしている。

腹が減り過ぎて急いで食べようとすると、目の前でニャルムが目を閉じて両手を重ねて、祈りのようなものを捧げている。


「この恵みに感謝を。女神と、自然と、祖先たちに」


 姿勢が正しく、食べるときもナイフとフォークを丁寧に使い、テーブルマナーが出来ている。


 意外だった。

ちゃんとした教育も受けてなさそうで、子供っぽいとも思っていたが、しっかりとした常識の持ち主だった。


「美味しい? ユウト」

「ああ、とても気に入った」


 誰かと食べるのは久しぶりだった。


(……暖かい)


 まともな手作り料理も、最後に食べたのはいつだろうか?

株のトレーダーをしているときも、廃人ゲーマーのときも、面倒だからサプリや栄養食ばかりだった。

そのせいもあるのかもしれない。


 異世界の料理の方が、とても、美味しく感じた。


 ニャルムも満足してるのか、シッポがユラユラと揺れているのが見える。

ニコニコと微笑んでいる彼女を見て、俺はあることを決めた。

2人とも食べ終えたあと、俺はジッとニャルムの瞳を覗き込む。


「ニャルム、おまえに頼みたいことがあるんだ」

「なぁに?」

「しばらく俺と一緒にパーティーを組んでほしい」

「にゃっ?!」


 想像をしていないことを言われたせいか、猫みたいな語尾になった。

可愛いな、チクショウ……。


「わわわっ! でも私、あまり取り柄がないし、レベルも低いし……」

「問題ない。俺はこの国に来たばかりで、分からないことが多いんだ。信頼できる奴の案内が欲しい。もちろんタダじゃない。さっき見たように、俺は金を稼げる。そのサポートをして欲しい。冒険者ギルドの雑用よりはずっと稼がせてやる」

「……だけど、もっと他に良い人が」

「俺はニャルムが良い。お前が良いんだ! お前のことが気に入った! 一緒にいてほしい!」


 彼女を見ると、顔を真っ赤にして、両手で隠している。

淡い金髪から覗く耳を、ピンと立ててプルプル震わせている。


「ニャァァ……ユウト、分かった……。分かったから、もうちょっと声は小さくして……」

「は?」


 見ると、周りに座っているテーブルの連中が俺たちを見ていた。

ニヤニヤしながら、ピーピーと口笛を鳴らしている奴もいる。


 あれ?

なんだか恋の告白みたいじゃないか?

純粋にパートナーとして俺はお願いしているだけだ。


(違うそういうのじゃないっ!)


 俺はニャルムの手を掴むと、急いで金を払って店を出た。

通りに出た後、俺は改めて彼女に説明した。


「分かった……。私もユウトのことがもっと知りたいし、学びたい!」

「よろしく頼む、Business Partnerビジネス・パートナー。」

「びーねすぱーとなー?」

「仲間ってことだ」


 俺が手を差し出すと、彼女は少し照れながら、両手で掴んだ。

一緒にビジネスをする上で大切なのは、能力よりも信用だ。

その点で、ニャルムは安心できる。


 俺のスマートフォンや金を奪って、逃げ去ることも出来ただろう。

彼女は素直に驚き喜び、俺についてきてくれた。


 ――何より嘘のない瞳。


 やはり俺の妹に似ていた。

まぁ、妹には最近になって嫌われていたが……。


 俺は所持金を確認した。

食事は2000Gで、チンピラ達を殴るときに使った500Gも彼女に返したから、残金は7500G。

心もとないから、すぐに稼がないといけない。


 このゲームでは相場など商いの情報は、『商人ギルド』に集まる。

俺はニャルムに説明して、向かうことにした。



◆ ◇ ◆



 商人ギルドは、同じ広場にある冒険者ギルドの対面に建てられている。

冒険者ギルドより作りが良く、3階建てのどっしりとした構えだ。


 手の込んだ金色のドアを開けると、中は薄暗く、ロビーには人がポツポツといるだけだった。

うっすらと漂う葉巻の匂いが鼻につく。

ニャルムも眉間みけんにシワを寄せていた。


 カツカツと歩き、俺は奥のカウンターに座っている眼鏡をかけた女性に話しかける。


「商人ギルドに登録したいのだが、どうすればいい?」


 俺がそう言うと、彼女は赤い眼鏡をクイクイと動かしながら、値踏みするように俺を見る。

流れるような綺麗な黒髪だが、視線がとても冷たい、美人系の大人女子。


「失礼ですが、どちらから来られたのですか?」

「遠い場所だ」

「他所の商人ギルドのカードを見せてくれますか?」

「まだどこにも属してない」

「……お引き取りください」


 あっさりと事務的に断られた。


「それでは困るんだが!」

「規約ですので」


 商人なのに、商人ギルドに入れないとかあるのか?

レグルスファンタジアのゲームでは、職業を選択した時点で、商人ギルドを普通に使えた。


「なにやら騒がしいな……」


 後ろから声がして振り向くと、太って腹の出た、油ギッシュな中年の男が立っていた。

頭のてっぺんはハゲているのに、左右からは広げた鶴の翼のように白髪が伸びている。

鼻の下の細いヒゲが長く伸び、胡散臭いうさんくさい詐欺師さぎしのようだ。


「アラニス君、彼は何だね」

「お帰りなさいませ……グリムゾン会長。商人ギルドに加入されたいようですが、ツテもコネもなさそうなのでお断りしております」

「こんな無愛想な目つきの悪いガキに、商売なんぞ無理だろうて」


 グリムゾン会長と呼ばれた男は、グフフフと高い声で笑う。

このデブ……ムカつくな。


 こんなやつ、存在していたんだな……。

商人ギルドの会長には、ゲームでは一度も見たことがない。


「おい、目つきの悪いガキィ。新参者が商人ギルドに入りたければ、最低でも10年は下積みするか、商人ギルド加入者……5人の信用紹介があれば考えてやろう。それか……そうだな。1000万Gぐらい持ってこい。クフフフッ!」

「な……ッ! 条件が厳しすぎるだろ!」

「あのなぁ。よそ者を儲けさせるメリットがどこにある?」

「く……」

「商売は信用なんだよ。ほら、勉強になったか? 逆に授業料をもらいたいぐらいだ」

「……分かった。また来る」


 ギリッと俺は歯を食いしばって、背を向けた。


 後ろから、「グフフフフ!」と奴の汚い笑い声が聞こえる。


 腹が立つが、ここで喧嘩をしたところで、1GOLDの得にもならない。

それどころか出禁になれば今後このゲームで大きく稼げない。



◆ ◇ ◆



 くそっ……。

最初からアテが外れるとは思っていなかった。

やはりゲームをプレイするのとは違うのか。


「ユウト、これからどうするの?」


 ニャルムが心配そうに俺を見て、力なくシッポを揺らしている。

今の俺に必要なのは情報だ。

ゲームではない、この世界のリアルが知りたい。


「今日はニャルムに同行させてくれ。色々と見聞きしたいんだ」

「分かった。これから買い出しをして、あとはお家に帰るだけかな」

「どのあたりに住んでいるんだ?」

「この町から少し離れた、小さな獣人の村だよ」



 ――おかしい。



 そんなところに村があったのだろうか。

ゲームではこの町には何度も訪ねていたが、この周辺には街道と森しか無かった記憶。

そこにも足を運べば、知らないことが学べるだろうか。


「今夜、その村で俺が宿泊できるところはあるか?」

「んっんー? 小さな村だから、宿なんてないしなぁ……」


 ニャルムはシッポをクルクルと指で回しながら、考え事をしている。


「そうだっ! 私のお家に泊まるのはどう? 古いけど、余っている部屋が一部屋あるし!」

「いいのか……?」

「もっちろん! お金もくれて、美味しいご飯も奢ってもらったから、タダで良いよ!」

「ありがとう、それならぜひ世話になる」


 ニャルムの耳がぴょこぴょこ跳ねて、シッポはブンブンと揺れた。


 それから俺は彼女の買い物に付きあって、エレスエイナの町を出た。


 徒歩で1時間ほど歩くと巨大な森が見えてくる。


 この大陸の中心にある、アルテア大森林。

その領域りょういきは広大で、多くの国と領土を分け、その中央には魔族の住む国がある。


 そろそろ陽が沈む頃で、辺りは暗くなりかけていた。


 彼女の村は、森のふもとにあった。

1mほどの高さしかない手作りの粗末な木の囲いに、点在する家々が見える。



 ――俺はこの場所を知っている。



(嘘だろ……そんな、まさか……)



 ここは、序盤に滅ぼされる村だということを。



 災害級モンスターが現れて、滅ぼされる。



 夕陽が村を、血のように染めて見せた。


 ニャルムも、その家族も、このままでは殺されてしまう。



 ――彼女を見ると村の入り口で、楽しそうにシッポを揺らして、笑いながら俺に手招きをしていた。





=======


『明細』


-2000G(食費)

-500G(ニャルムに返済)


『主人公の所持金』


現金:7500G

借金:0G

MP:0


(チーン)


=======

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る