3話:「パワー・オブ・ゴールドは、金の魔力で無双する」

 冒険者ギルドは人で溢れて、ガヤガヤと慌ただしい。

緊急討伐の影響か、受注カウンターには冒険者たちの列ができていた。

武装した男たちが険しい顔で順番を待っている。


 その隣にある素材売買カウンターの奥では、係員が慌ただしく帳簿を繰っている。


「ルーメン石の希少、一個」


 あらかじめ俺がボロいランタンから取り出した石を、カウンターに置く。

女性職員の目が丸くなる。


「……本物? 純度も高い……!」


 彼女は石を手に取り、光にかざして確認する。

そして驚いたように顔を上げた。


「本日、閃光瓶の素材として、15000Gで緊急買い上げします」

「そんなに?」


 ニャルムが声を上ずらせた。

その声に、周囲の冒険者たちが一斉に振り向く。


「洞窟でオーガが見つかり、討伐の緊急依頼が出まして。オーガは暗視で動く分、強い光で足止めができます。通常品の出力だと足りないから、希少等級だけを高値で買い上げてるんです」


 俺は小さくうなずく。


(相場鑑定でも、『↑↑↑』が伸びていた。つまりあのスキルは大当たりだ)


 女性職員が、金の硬貨1枚と銀の硬貨5枚――15000Gをカウンターに置いた。

ジャラリ、と硬貨が重なる音が響く。


 ニャルムは猫耳をピコピコさせながら、キラキラした目で俺を見上げた。


「ユ、ユウト……ッ!」

「静かにしろ。目立つ」



◆ ◇ ◆



 ギルドから出ると、俺はニャルムに返済をする計算をした。


 110G(MP化)+1500G(仕入れ)=出資1610Gに対し、返済『5000G』。

悪くない配当だろう。

俺を信用してくれたサービスと、彼女からの信用への投資でもある。


 彼女を見ていると妹を思い出す。

感情がすぐに表に出るところや、ほわっとした雰囲気が似ているせいだろうか。


「ほら、約束通り倍以上にして返す。残りは俺の取り分としてもらう」

「う、うん……。すごい、本当にお金が増えちゃった! ユウトって何者なの?」

「俺は、ただの商人だ」

「まるで魔法を見ているみたいだった!」


 まぁ金を稼ぐのは、何も知らないやつから見たら、奇跡や魔法に見えるのかもな。

なんのことはないロジックがあるだけだが、分からないやつには永遠に理解できない。


 そしてどの世界も弱肉強食であり、頭の悪いやつは騙されて搾取される。

信用した人間に騙されて、事業に失敗した俺の父親のように。


 俺たちが歩き出そうとしたとき。



 ――ポン、と肩に手をおかれた。



「なあ、路地裏でおまえたちを見かけたが、うまいこと儲けたようだな?」


 振り向くと、3人組の男がにやけた顔で立っていた。

ガラの悪い服装、傷だらけの顔、腰に下げた短剣。


 典型的なチンピラだ。


「ヒャハ……ッ! ちょっと話があるんだ。面ァ貸してくんねーかな?」

「悪いようにはしないさ」

「ヘヘッ。ここいらで商売をしたいなら、分かるだろ?」


 ゲームではこんなイベントはなかった。

なるほど、実際に生活をしたら、モブキャラとの絡みも出てくるのか。


 俺とニャルムは囲まれて、仕方なくそのまま路地裏に向かった。



◆ ◇ ◆



 そこは、薄暗い場所だった。

生臭い匂いが漂ってくる、スラム街の一角、路地裏の広場。

ガリガリに痩せた男が座りこみ、宙に向かって何かを呟いている。


 俺の肩を掴んでいた、背の高い男が立ち止まり、ヒャハハ! と笑う。


 どうやら奴がリーダーのようだ。

ニワトリのトサカのような赤髪のモヒカン。

無精ひげが汚く伸びて、喋るたびに酒の匂いが臭い。


「ヒャハーッ! おまえらが稼いだ金。みかじめ料、よこせ」

「ここらは、俺ら『灰街会』がしきってるんだ」

「逆らったら二度とこの町を、歩けないようにしてやんよ」


 まるでコントのように、3人が順番に喋る。

台本でもあるのか?


「はぁ~……」


 俺は深く息を吐く。


 俺が嫌いなものが3つある。

1つ、俺から金と時間を奪うこと。

2つ、非合理的と非効率的なもの。

3つ、辛いもの。


 ――こいつらは、1と2に該当する。


「なあ、ニャルム。俺に500Gを貸してくれないか?」

「……え? う、うんっ!」


 俺の後ろに隠れていたニャルムが、怯えながら俺に銅貨5枚を渡す。


「500G? おいおい、ガキの小遣いじゃねーんだ! 舐めてんのか?」

「悪いがこれは、おまえらにくれてやる金じゃない」


 俺は500Gを握りしめると、男の前に掲げる。


「リリース・ゴールド」――チェンジ500G!


 握った手から生まれた光が淡く光り、3人組は驚く。


 そして、パッと指を広げると、そこにあった硬貨が消えていた。

500GをMP500に変えたが、誰にも分からないだろう。


 呆気にとられていたリーダー格の男が叫んだ。


「ヒャッハー? なんだこりゃ、手品でも見せてんのか? 持ってる金を、全部、出せって言ってんだよ!」


 リーダーが俺の胸ぐらを掴みに来た、その瞬間、俺は呟く。



「パワー・オブ・ゴールド」――チャージMP500!



 俺はそのスキルの詳細を思い出していた。



=======


効果:右手を黄金に硬化・発光。投入MP量に応じて威力が上昇

性質:打撃+粉砕


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 金を魔力に変えて、攻撃力を上げるスキル。

500Gでどこまでの力が出るのか、試してみよう。



 ――右腕が、金色に輝いた。



 肩から指先まで、まるで黄金の彫像のように硬質な光を放つ。


「ヒャ……ッ! んだこれぇぇぇ!」


 眩しい光に一瞬ひるんだ奴の顔面に、俺は金の拳を叩き込む。



 ゴキィィン……ッッッッ!



 ――骨を鳴らす衝撃音。



「ん……っがあぁ??っ!」



 男の身体が二転、三転、四転と後ろへ転がり跳ねて、そのまま壁に背中を打ち付けた。

ゴンッ、という音と共に、壁に亀裂が走る。


 天地を逆さまにして、完全に気を失っているようだ。



 ――どうやらチンピラ相手には、MP500はやりすぎたようだな。



「や、やべぇ……!」

「相手が悪かった!」


 残り2人が顔を青ざめさせ、踵を返す。


 ニャルムがビクビクしながら、俺の腕を引いた。


「今の……魔法なの?」

「魔法には違いない。まぁ、金の魔力を使ってだが」


 金を稼ぐのは好きだが、金の力で戦う(物理)のも、悪くないな。



 ――金と魔法とバトル。



 この世界、楽しめそうだ。





=======


『明細』


+15000G(ルーメン石を換金)

-5000G(ニャルムに返済)

+500G(ニャルムに借金)

-500G(MPに変換)


『主人公の所持金』


現金:10000G

借金:500G(ニャルム)

MP:0


(チーン)


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