2話:「リリース・ゴールド(1GOLD=1MP)で、金を魔力に変える」

 俺たちは、市場の外れ、路地裏にあるガラクタ屋に来た。


 このあたりは薄暗く、治安も悪い。


 建物の壁には落書きがあり、道の脇にはゴミが散乱している。


 だからこそ金になるものが眠っている。

いつだってビジネスは人が面倒と思うものや、嫌がるものから生まれるからだ。


 目当ての店は、そこにあった。

建物の壁に沿ってクズが山積みになっている。

錆びた剣、割れた壺、用途不明の金属片。


 普通の人から見たら、ゴミ捨て場にしか見えないだろう。


「ユウト……。ここは?」

「見て分からないのか? 宝の山だ」



 ――ここは知る人ぞ知る、ガラクタ屋。



 ゲーム中はここに通うために、何度もこの街に立ち寄ったほどだ。

序盤のプレイヤーが見逃しがちな隠れた金策きんさくスポット。


「お客ども。おめえらハイエナ、なぁにしにきた?」


 ハゲた頭で、ほとんどの歯が抜けている汚いジジイが、ワシャシャと笑いながら言う。


 ハッと笑いが漏れた。

口が悪いのもゲームのセリフ通りだな。


 ジジイを無視して物色する。

そんな俺をニャルムは呆れたように眺めていた。


「よし……間違いない。これは掘り出し物だな」


 俺はボロボロになったランタンを、瓦礫がれきの山から引っ張り出す。

ガラスは汚く割れて、金属部分はさびだらけ。

誰がどう見てもゴミだ。


 だが、俺には分かる。


 スキル『鑑定 Lv.1』を使おうとするが――MPが0だったことを思い出した。


「ニャルム。まずは110Gを貸してくれ」

「何に使うの?」

「どうなるかは、後のお楽しみだ」


 俺がそういうと、不思議な顔をして数枚の硬貨を差し出す。

まずは、金をMPに変換しないといけないのか。


 スキル『リリース・ゴールド Lv.1』を使う時がきた。


 俺はステータスから、スキルの詳細を見る。



=======


効果:所持金をMPに変換(1G=1MP)

備考:偽金・粗悪貨はMPに変換できずHPが減少する。


=======



 初めて魔法を使うから、ゴクリと緊張で喉が鳴った。


 俺は右手で110Gを握りしめ、呟く。


「リリース・ゴールド」――チェンジ110G!



 ――瞬間、指の隙間から光が漏れる。



 淡い金色の光が、手を包み込む。

温かさはなく、ただ硬貨が軽くなっていく感覚だけがあった。


 手のひらを開けると、そこにあったはずの銅貨が消えていた。


 ステータスを確認すると、『MP:110』と表示されている。


 側で見ていたニャルムは、口を大きく開けて驚いていた。


「ニャルム、こいつのコアを見せてくれ」

「わ、わかった!」


 彼女はランプの胴をひねり、内部を露出させた。

そこには色褪せたライトブルーの小さな石がある。

一見すると、ただの安物の魔石に見える。


 だが――。


「鑑定」と呟き、スキルを使用すると。


 視界に文字が浮かび上がる。



『ルーメン石 / 希少』



 やはり当たりだな。


 さらに『相場鑑定 Lv.1』を使用しようと思い、スキルの詳細を確認する。


=======


効果:対象の横に『短期トレンド矢印』を表示

   ↑(上昇) / →(横ばい) / ↓(下落)

   矢印の数と長さ=勢い

対象:物品、素材

範囲:本日~明朝


=======


 これも原作になかった特殊スキルだ。

商人にとって、チートスキルに違いなかった。


 手のひらの汗をぬぐって、一呼吸置き、俺は呟いた。


「……相場鑑定」


 すると石の横に、矢印が浮かび上がった。



 ――3本の『↑↑↑』が、長く伸びている。



 明日の朝までに需要が大きく上がる、即ち価格が上昇するサインだ。


(大正解だな)


「ジジイ、これは買い取らせてもらう。いくらだ?」

「ワシャシャ……。1500Gじゃ」


 ニヤニヤと、ジジイが歯の抜けた口で笑う。

完全にふっかけてきているな。


「……分かった。ニャルム、支払ってくれ」

「こんな壊れた物が1500G?! ほんとに買うの?」

「大丈夫だ。問題ない」


 訝しそうにニャルムが支払うと、ジジイはワシャシャシャと、不気味に笑いながら受け取った。

彼女の薄金色のシッポが、?マークになっていて可愛い。


 完全にボッタくり価格だから値切ることもできるが、これから何度も利用することになる。

まずはジジイの信用を金で買っておくのも、ビジネスだ。



◆ ◇ ◆



 俺たちは広場へ行き、ベンチに腰を下ろす。


 腰まで伸びた美しい金髪を指先でいじりながら、ニャルムが不安そうな目で俺を見ている。

シッポも落ち着きなく揺れている。


「あの……お金、ほんとにお金が増えるの……? ニャルムを騙してないよね?」

「ハッ。安心しろ、必ずお前を儲けさせてやる」


 この広場は街の中心地にあり、色んな人が行き交う。

商人、冒険者、露天商、子供たち。

人が多いということは、つまり情報が溢れているということ。

俺が聞き耳を立てていると、ある言葉が飛び込んできた。


「おい、『灰銀の洞窟』がダンジョン化して、オーガが出たらしいぜ」

「オーガ? また厄介なモンスターだな」

「ギルドで緊急討伐が出たってよ」

「ちょっと見てくるか……」


 2人組の冒険者の会話だった。

灰銀の洞窟、オーガ、緊急討伐。

俺の脳内で、ゲームの知識が繋がっていく。


 俺は立ち上がり、ニャルムに言った。


「さあ、今から稼ぎに行くぞ」

「え? どうやって?」


 俺はニヤリと笑い、広場に隣接している『冒険者ギルド』を指さした。



「さあ、Gold Rushゴールド・ラッシュの時間だ。金が跳ねる瞬間を、見せてやる」





=======


『明細』


+110G(ニャルムに借金)

-110G(MPに変換)

+1500G(ニャルムに借金)

-1500G(ガラクタ屋)


『主人公の所持金』


現金:0G

借金:1610G(ニャルム)

MP:0


(チーン)


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