0円から成り上がる異世界転移。魔導商人になった俺が、稼いだ金を魔力に変えてゲーム世界を改変し、猫族の美少女を救う。

サバ寿司@「カクヨム金のたまご」GET!

1話:「ゲームの世界で、猫族の美少女と出会う」

  俺の家は貧しかった。


 父が事業で失敗して失踪。

母親はそのショックで病気で寝たきり。

幼い妹はいつもボロボロの服を着ていた。


 だから中学生になった俺は、金を稼ぐことにした。


 もともと知能指数が高いと言われて、勉強でもゲームでもトップになれた俺。

暗号通貨で元手を増やし、株と不動産取引で資産を増やしていった。

高校に上がる頃には、妹とタワーマンションの最上階に住み、母には最高水準の医療を与えることができた。



 ――そして、俺は稼ぐのをやめた。



 今さら高校に行くのも馬鹿らしい。

承認欲求や物欲も少ない俺は、部屋にこもってゲームをやり続けた。


 とくにハマったのが、『レグルスファンタジア』。


 プレイヤーが勇者になり世界を救うRPGだが、経済シミュレーションが緻密ちみつで、ゴールドを稼ぐことに夢中になった。



 所持金カンストまであと一歩というところまで来ていた――。



◆ ◇ ◆



 ――そして、今。


 気がつくと、俺は中世ファンタジーのような通りに立っている。


 地竜が馬車を引いて通り過ぎる。

車輪がきしみ、砂ぼこりが舞う。


 革と油の匂い。

どこかで金属を打つ音。


 通りには人間だけでなく、いろんな種族がいた。

耳の長い女、角の生えた男、身長が低く筋肉質の老人。


 俺はこの景色に見覚えがある。

間違いない。



 ――さっきまでプレイしていたゲーム、レグルスファンタジア。



 最初に立ち寄る序盤の町、『エレスエイナ』。



 しかし文明レベルが低い。

道が塗装されていないため土煙がたちこもり、建物も質の悪いレンガを重ねたようなものばかり。

ゲーム内で見た景色よりも、ずっと貧しく、ずっとリアルだった。


 見下ろし型のRPGだったから、視点が変わるとこんな風に見えるのかと、興味が湧いてくる。


 最近の俺は、ろくに飯も食わず、眠らずにプレイしていた。

ぶっ倒れて夢を見ているのかもしれない。



 ――だが、口の中のわずかな砂のざらつきは、本物の感触だ。



(ここがゲームの世界なら、ステータスが見れるだろうか?)



 試しに俺は呟いてみる。



「……ステータス」



 ――ブォンッ!



 目の前に、青白い光の板が、現れた。

まぎれもなくレグルスファンタジアの画面。


 俺の心臓が、久しぶりに高鳴った。



=======


名前   :ユウト

クラス  :魔導商人まどうしょうにん

レベル  :1

HP    :30 / 30

MP    :0


所持金  :0G


スキル:

・鑑定Lv.1 消費MP:10

・相場鑑定Lv.1 消費MP:100

・リリース・ゴールドLv.1 消費MP:0

・パワー・オブ・ゴールドLv.1 消費MP:任意チャージ


=======



(本当に、ゲームの世界に来たのか……)



 集中すれば詳細も表示される。


 しかし、クラスにある『魔導商人』とはなんだ?

レグルスファンタジアにそんな職業は無かった。

魔導と書いてあるが、魔法職なのだろうか。



 ――だがMPが0なんて、どうすればいい?



 クラスの詳細を見ると……。



=======


商談適性:仕入・交渉・査定の判定に微補正

生活魔法Lv.1のみ取得可


=======



 『生活魔法』がLv.1しか使えない?

生活魔法なんてゲームでは一切役に立たない民間魔法だ。



(このクラス、詰んでないか?)



 考えながら歩いていると、広場にたどり着いた。

エレスエイナの町の中央にあたり、周りにはギルドなど重要な建物が並んでいる。


 大きな噴水のそばには、いくつものベンチが置かれている。


 休憩して冷静になって考えようと思ったとき――。



 1人の少女が、泣いていた。



 顔に手を当てて、うつむきながら身体を震わせている。

獣人族なのか、流れるように美しい淡い金髪から、ピクピクと猫耳が動く。


 なぜか分からないが、俺はその子の隣に座った。


 彼女は、「ヒック……ヒック……」と嗚咽を漏らし泣き続ける。


 俺は見知らぬ人を助けるようなタイプじゃない。

だいたい困っているのは、突然この世界に放り出された俺の方だ。


 だが……。

気がつけば、俺は声をかけていたんだ。


「どうした? なにかあったのか?」


 俺の声に、彼女はゆっくりと顔を上げた。


 人間と変わらない顔立ち。

まだ幼さが残るが、クリッとした大きな猫目。

琥珀色こはくいろの瞳が涙で揺れている。


 縫い目だらけの生地が傷んだ薄茶色のワンピース。

ボロボロの革のショルダーバッグを斜め掛けしている。


 年齢は俺より少し下で、中学生ぐらいだろうか。

細いしっぽがお尻の上から伸びて、クタッとベンチに寝ている。

耳とシッポがなければ、人間の美少女にしか見えない。


「あのね……薬草の値段が上がって、買えないの……」

「薬草の値上がり……? いくらだ?」

「一束、3000G。いつも市場で買ってるんだけど、この前まで、1000Gだったのに……」

「他の店では買えないのか?」

「薬屋さんはあるけど、獣人族は嫌われていて入れないの。他の店も私たちには高くて……。市場の屋台だけは安く売ってくれたのに、遠いところで戦争があるからって……」


 彼女は再び目を落として、涙をポロポロと流した。


「お母さんが、病気だから、薬草がないとダメで……。でも、私、もう、どうしたら……。お母さんが、死んじゃう……」


 唇を噛みしめて、小さな身体にはギュッと力が入っている。


 この世界では、人間と亜人の間に差別があるのは知っていた。

しかし実際に目の当たりにすると、その理不尽さに憤りを感じてくる。


 きっと彼女は病気の母親のために働いて、なけなしの金で薬草を買っているんだろう。

それすらも出来なくて、絶望でどうしていいのか分からずに、たった1人で泣いている。

彼女を見ていると、幼い頃に泣いていた妹を思い出してしまう。


「分かった。俺がなんとかする」

「……え?」

「薬草の値段を、元に戻せばいいんだな?」

「そうだけど……」

「俺についてこい」


 俺が立ち上がると、彼女は目をグシグシとぬぐって、「うん……」と返事をした。

猫耳はペタンと折れて、シッポも元気なく垂れ下がっている。


 俺たちはそのまま市場へと向かった。



◆ ◇ ◆



 エレスエイナの市場は、熱気と匂いの坩堝るつぼだった。


 ジュウジュウと焼ける肉の、脂っこい匂い。

鼻をさす香辛料の刺激。

商人と客がやり取りをする、耳が痛くなるほどの怒声。


 ところせましと屋台が並び、色とりどりの果物や、見たこともない魔物の素材が並べられている。


 問題の、薬草を売る屋台に来ると――。


 木で組まれたカウンターの向こうに、太った女店主が腕を組んで立っている。

俺の後ろにいる猫族の少女に気がつくと、キッと眼光を鋭くした。


「おや、また来たのかい! 何回来ても安くならないよッ!」


 頭には白い布を巻き、薄汚れたグレーのエプロンを着ている。

たくましい二の腕が、店を切り盛りしている自信を示すようだ。


 屋根に使っている厚い布には、薬草がいくつも吊るされていた。

カウンターの上には、天秤てんびんと、薬草を入れている木箱が三つ置かれている。


 独特の緑の濃い匂いが鼻につく。


 俺のことを値踏みするように見ている女店主が口を開いた。


「誰だい、あんたは……? ここらで見ない変な格好だね。その薄汚い、獣人の仲間かい?」

「ちょっとした知り合いだ。薬草の価格が3倍になったのは本当なのか?」

「遠い国で起きた戦争が原因だってね」

「どこの国と国だ? 言ってみろ」

「そんなの知るよしもないさ。買うのか、買わないのか、ハッキリしな。商売の邪魔だよ!」


 俺は屋台に置かれた、天秤を見た。

ゲームではこれで計って値段を決めている画面があった。


「薬草を1束、価格を計ってくれ」

「だから、3000Gだって言っただろ?!」

「良いからもう一度その天秤で計ってみろ」


 女店主はブツブツと言いながら、天秤の右の皿に薬草を乗せた。

もう片方の皿に分銅を乗せるときに、女店主は、ふと右を見た。

俺の左手、後ろの方を。


 目を戻すと、いつの間にか皿には分銅が3個乗っている。


「ほら! 分銅1個で1000Gだ! 合計で3000G! これは商人ギルドでの取り決めだよ!」


 女店主は得意げに、鼻息を荒くした。

天秤にも分銅にも正規の刻印がしてある。

ゲームで見た通りだった。


「天秤を詳しく見せろ」

「こら……ちょっと……ッ?!!」


 俺は女店主に寄せている天秤を、強引に俺の手前に引っ張った。

そして指で触れて、確かめると……。


(やはりそうか……)


「おい、女店主! イカサマをしているな!!!」


 俺は、わざと大きな声を出した。


「な、何を言うんだいッッ?!!」


 俺は天秤の皿から、薬草と分銅をどけた。

そして大袈裟な動作で、天秤の中央にある、針のメモリを指差す。


「よく見るんだ! 皿が空のときは、針が真ん中のはず。だが、どうだ? 針が左に寄っている!」

「な……ッッ?!!!」


 大きな声を出したおかげで、周囲には人が集まっていた。

俺の言葉で辺りはざわつく。


 俺は左の皿を持ち上げて、集まった連中に見やすいようにすると――。



 皿の裏には、薄い鉛板えんばんが貼り付けられていた。



「おい女店主。これはなんだ?」


 カン、コン……と指で叩くと乾いた音が返ってくる。


 野次馬たちの視線が、店主へ突きささる。


「分銅を載せるときに、わざと視線を誘導して俺たちの目をそらしたな? その隙に天秤に細工をしていた。まったく商売人より、手品師が向いてるんじゃないか?」

「く……ッ! 商売の邪魔をするならどっかへ失せなァッ!!!」


 女店主は顔を赤らめ、怒鳴り散らした。

猫族の少女は不安なのかオロオロして、耳をペタンと倒している。


「戦争で値段が上がっているっていうなら、他の商品の値段も上がってるはずだ。通りを歩いてきたが、そんな気配もない。干し肉、油も通常の相場通りだ。薬草だけ3倍? お前、無茶な言いがかりをつけて、計量で数字を盛っただけだろ?」


 俺はゲームで、だいたいの相場は記憶していた。

天秤を使った仕組みもゲーム通りだったので、間違いないだろう。


「な、何をォッッッッ!!! 営業妨害だ!! 衛兵を呼んで追い払ってもらうよッ!!!」

「それでもかまわないが、困るのはどちらか、分かっているよな?」



 ――俺と女店主は、睨み合う。



 周りで見物していた野次馬たちは、固唾を飲んで見守っている。


 しばらくすると、女店主は諦めたように、大きく息を吐いて言った。


「……値を戻す。1000Gだ」


 俺は、「ハッ!」と鼻で笑った。


 猫族の少女の頭に手を置き、彼女に聞くことにする。


「で、どうする……? このまま女店主を、衛兵に突きだすか?」

「800Gッ……いや、今回だけ、500Gでいいよッッッ!!!」


 女店主が真っ青な顔で叫ぶ。


 周りからは、拍手や歓声が飛んできた。


 猫族の少女はぴょんぴょんと飛び跳ねながら喜んで、銅貨5枚を差し出した。

女店主は震える手でそれを受け取り、薬草の束を渡す。



◆ ◇ ◆



 騒動を終えた俺が店先から離れると、先ほどの少女が、トトトッと追いかけてきた。


「ありがとう!」


 彼女は薬草を抱きしめて、俺を見上げた。

琥珀色こはくいろの瞳が、キラキラと輝いている。


「これでお母さんの薬が作れる……! 本当に、本当にありがとう!」

「気にするな。それより、さっきのような問題は多いのか?」

「……うん。人間の国だと、私たち獣人族をよく思ってない人もいるから……」


 声のトーンが沈む。

猫耳が、しょんぼりと垂れた。


「……覚えておく。俺はユウト。お前は?」

「私の名前は、ニャルム!」


 彼女の声は透き通っていて、どこか鼓膜をくすぐる甘さがあった。



 ――さて、当面の問題が差し迫っていた。



(腹が減った……)



 異世界で無一文。

何もしなければ詰んでしまう。



 ――何もしなければ……だが。



「なぁ、ニャルム。俺に投資をしないか?」

「……とーし? なにそれ?」

「今、いくら金を持っている?」

「さっきの薬草で500G使ったから、2000Gだけど……」

「俺にその金を預けないか? 倍以上にしてやる」

「ダメだよ! 食べるものとか買わないといけないし……」


 ニャルムが困ったように眉を下げる。

知り合ったばかりの人間に金の話をされたら、不安になるのは仕方ない。


 しかし俺は無一文で、知り合いもいなければ、この世界のリアルを知らない。

持っているのはゲーム知識と、謎のクラスとスキル。

それに、金の稼ぎ方。


 俺はジッとニャルムを見つめる。

彼女に信用されようと思っても、知り合ってばかりで、何の手札もない。


 何の手札も……ない?

俺はズボンのポケットに触れると、馴染みのある硬質な手触りがした。


 ビジネスで俺の好きな言葉に、Give and Takeギブ・アンド・テイクがある。

彼女が俺を信用する前に、俺が彼女を信用しないといけない。


 ――俺は彼女に賭けてみることにする。


 この世界で、一番最初に出会った少女。


 彼女の金色の瞳を見ていると、不思議と目が離せなくなる。


「ニャルム。これを担保に預けるのはどうだ?」


 俺はスマートフォンを取り出して、彼女に見せる。

いつか適当にダウンロードした音楽を再生した。


 ――軽快なポップスが流れ出す。


「わわわっ! なにこれ!」


 ニャルムが目を丸くして、耳とシッポをピンと立てた。


「色んな種類の音楽が保存されている機械だ」

「こんなすごい魔導具、受け取れないよっ!」

「俺に投資した倍以上の金を渡すから、そのとき担保は返してもらう」


 レグルスファンタジアの金策をやりこんだ俺にとって、稼ぐことは難しくない。

俺はあらゆる裏をかいくぐり、何千億ゴールドを得たからだ。


 思わずニヤリと笑みがこぼれる。



 ――さあ、Make Moneyメイク・マネーの時間だ。





=======


『明細』


無し


『主人公の所持金』


現金:0G

借金:0G


MP:0


(チーン)


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