第4話 民主主義の葬列:三つの宣告

​1. 官邸会見場の変貌

​かつて選ばれた政治家たちが国民へ言葉を届けていた首相官邸の会見場は、今や迷彩服を纏った男たちの「司令部」へと変貌していた。


​無数のフラッシュが焚かれる中、壇上に立ったのは反乱軍のリーダーを自称する二等陸佐・新田 真悟(あらた しんご)であった。彼はマイクの前に立つと、感情を削ぎ落とした氷のような声で、日本という国家の形を根底から覆す「三つの実行事項」を宣言した。


​①国会の無期限停止

​②全政党の即時解散

​③全国会議員の身柄拘束


​「これまでの政治は、国民を喰らう白蟻の巣に過ぎなかった」と彼は断言した。テレビ画面の隅に踊る「民主主義の終焉」という言葉が、現実の重みとなって視聴者の心に突き刺さる。日本が築き上げてきた戦後秩序は、わずか数分の会見で、硝煙の中に消え去ったのである。


​2. 権力の廃墟と「白蟻」の排除

​国会議事堂の内部では、かつて権威の象徴であった議場に色鮮やかな反乱軍の旗が掲げられ、議席には書類や瓦礫が散乱していた。


​議事堂の外へと連れ出されるのは、つい昨日まで国を動かしていた代議士たちの列だ。沈痛な面持ちでうなだれる者、虚空を見つめる者――。銃を構えた兵士たちに囲まれ、土嚢と有刺鉄線の間を歩かされる彼らの姿に、かつての威光は微塵もなかった。


​3. 聖域の勝利宣言:降魔の儀

​一方、下町の古刹では、僧侶・慈眼が再び民衆の前に立っていた。


​「天下国家の柱に巣食う白蟻は、今この瞬間、ことごとく退治された。我らはついに、この国を蝕んでいた魔羅(まら)を降魔することに成功したのだ!」


​慈眼の叫びは、救済を求める人々の魂に深く浸透した。彼にとって、国会議事堂の占拠は単なるクーデターではなく、汚れを清めるための「宗教的儀式」に他ならなかった。


​4. 狂乱の祝祭

​街は、奇妙な熱狂に包まれていた。


恐怖と不安の限界を超えた民衆は、逆に「解放感」という名の劇薬に酔いしれた。新宿や渋谷の目抜き通りには、慈眼の巨大な肖像画を掲げた神輿(みこし)が現れ、人々はまるで祭りのように踊り狂った。


​空から降り注ぐ紙吹雪、打ち鳴らされる太鼓。


その狂乱の渦の中心で微笑む慈眼の肖像画は、新たな支配者の誕生を象徴していた。人々は自分たちが手放した「自由」の価値に気づかぬまま、独裁という名の祝祭の中に沈んでいった。

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