第六話 図書室の防衛戦
空気が凍りついた。
高嶺の背中が、一瞬だけ硬直した。彼女の瞳が、助けを求めるように、あるいは絶望を覚悟したように尋を見る。
(言わなきゃ。彼女を、守らなきゃ…)
尋は眼鏡をぐいっと押し上げ、真っ直ぐに佐伯の目を見た。
昨日までなら、絶対にできなかった。けれど今の尋には、あのレモン飴の酸っぱさが、まだ口の中に残っているような気がした。
「高嶺さんは、どこにいても、高嶺さんです。皆さんが知っている通り、優しくて、一生懸命で。私なんかにまで、丁寧に接してくれます」
嘘ではない。けれど、真実でもない。
高嶺霖を「完璧なヒロイン」という檻の中に、再び閉じ込めるための言葉。体裁を守るために、彼女の処世術を失敗させないための呪文だ。
「だから、邪魔しないで、あげてください。彼女、すごく頑張ってるから」
図書室の主として、毅然と言い放つ。
佐伯たちは一瞬呆気に取られたように黙り込み、やがて「なんかお堅いねー、つまんない」と肩をすくめて去っていった。
扉が閉まり、足音が遠ざかる。
尋は糸が切れたように椅子に座り込み、大きく息を吐いた。
「…………河井さん」
高嶺が、消え入りそうな声で呼んだ。
見ると、彼女は顔を真っ赤にして、膝を抱えて丸まっていた。
「最悪。今の、何? 『優しくて一生懸命』? 『邪魔しないで』? あんた、よくあいつらの前で、あんな恥ずかしいことよく言えたわね」
「だって、そう言わないと」
「分かってるわよ……分かってるけど」
高嶺は顔を上げ、潤んだ瞳で尋を睨んだ。
けれど、その表情に拒絶の色はない。
「でも、ありがとう。助かったわ」
高嶺は尋の制服の袖を、ぎゅっと、小さく掴んだ。
外部からの侵略によって、二人の「共犯」はより強固な、引き返せないものへと変わろうとしていた。
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[あとがき]
ここまで拙作を読んでいただき、ありがとうございます。なにぶん初めてで勝手も分からず、更新頻度なども悩みっぱなしですが、応援やフォロー・コメントして頂けると今後の活力になりますのでぜひお願いいたします。 -海凪
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