第二話 共通項
「驚いた? 私がこんなに性格悪くて、やる気ないやつだってこと」
高嶺は背もたれに深く体重を預け、スカートの裾も気にせず足を組んだ。その姿には、教室で見せる「凛とした美しさ」の欠片もない。
「驚いた…というか、その、お疲れ?なんだなって」
尋が絞り出した言葉に、高嶺は一瞬虚を突かれたような顔をし、それから「ははっ」と短く乾いた笑い声を上げた。
「お疲れ、ね。そうだよ、疲れるに決まってんでしょ。毎日毎日、愛想振りまいて、悩み相談に乗って、馬鹿な男子の冗談に笑ってあげて。私、あんなのの一体どこが良いと思われてるのか、自分でも分かんないわ」
「でも、みんな高嶺さんのこと、頼りにしてるから……」
「それが重いんだって。期待されるたびに、心の中で『うるせーよ、何も知らないのに』って思ってる私の気持ち、河井さんには分かんないでしょ」
高嶺はため息を吐きながらカバンから無造作に文庫本を取り出した。それは、尋が今しがた整理していた、ミステリー好きならば絶対に読むであろう海外の有名作者の1作目だった。
「これ、好きなの?」
尋が思わず声を上げると、高嶺は少し気まずそうに視線を逸らした。
「悪い? 教室じゃ、流行りのスイーツとかアイドルの話しかできないけど。本当はこういう、救いようのない暗い話の方が落ち着くのよ」
尋は目を見開いた。
クラスの最底辺で、誰からも見られないように読んでいる自分の愛読書と、ヒエラルキーの頂点が隠し持っている本の作者が同じだった。
「私…私もその作家さん、大好きなんです。特に、孤島が舞台の……」
「『そして誰もいなくなった』でしょ? あれ、最高に後味悪いよね」
高嶺の瞳に、一瞬だけ、いつもの作り物ではない「熱」が宿る。それは鏡合わせの自分を見ているような、奇妙な親近感だった。
図書室の時計が、規則正しく秒針を刻む。
窓の外はオレンジ色から深い群青色へと溶け始めていた。
「ねえ、河井さん」
高嶺が身を乗り出し、尋の眼鏡の奥を覗き込む。
「これからの放課後、ここでこうして過ごさない? 私が『高嶺霖』を脱ぎ捨てて、あんたが『影の薄い図書委員』じゃなくなる時間」
「えっ、でも、私なんかと……」
「あんたがいいの。あんたは、私の正体を知っても、きっと誰にも言わない。それに、本の話、もっとしたいし」
高嶺はいたずらっぽく、でもどこか縋るような笑みを浮かべ、人差し指を自分の唇に当てた。
「これは、私たちだけの『放課後の図書室』の秘密。いい?」
尋は、静かに頷いた。
いつも怖かったはずの静寂が、今は少しだけ、温かく感じられた。
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