某日、図書室にて。
海凪
第一話 エンカウント
放課後の図書室。
静寂を切り裂くのは、ページをめくる音と、河井尋の心臓の音だけだった。
「……よし、これで整理は終わり」
眼鏡を押し上げ、尋は小さく息を吐く。クラスではいつもおどおどと周囲の顔色を伺い、影を潜めるように生きている彼女にとって、この放課後の図書委員の仕事だけが、唯一呼吸のできる時間だった。
だが、その平穏は「彼女」の登場によってあっけなく崩れ去る。
「あー、まじで疲れた。やってらんないんだけど」
ガラガラと扉が開く音と共に聞こえてきたのは、およそこの学校で最も気丈で明るいみんなのヒロインであるはずの少女、高嶺霖の声だった。
いつも教室の真ん中で、向日葵のような笑顔を振りまき、どんなトラブルも強気に解決してみせる完璧な女子高生。そのはずの彼女が、誰もいないと思って入ってきた図書室のソファに、泥のように崩れ落ちた。
「高嶺……さん?」
尋の震える声に、高嶺の肩が跳ねる。
ゆっくりと顔を上げた高嶺の瞳には、いつもの快活な光はない。そこにあるのは、死んだ魚のような、ひどく面倒くさそうで、根暗な影を宿した「本性」の顔だった。
「あ……最悪。誰かいたわけ?」
高嶺は乱暴に髪をかき上げ、隠すことも諦めた様子で尋を睨む。
「見たわね、河井さん。……いい? 今の、一言でも誰かに漏らしたら……」
そう言いかけて、高嶺はふと力抜けたように笑った。
「あー、いいや、脅す元気もないわ。ねえ、そこ座りなよ。……秘密、共有してあげるから」
こうして、教室のヒエラルキーの頂点と底辺にいた二人の、誰にも言えない「放課後」が始まった。
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