第3話 聖女の秘密と騒乱の夜会
測定不能の記録(エラー)を叩き出し、前代未聞の「無刀合格者」となったカイ。
その数日後、学院の大講堂で開かれる「新入生歓迎パーティー」の夜。
「……クソっ、苦しいな」
カイは借り物のタキシードの襟を引っ張り、不機嫌そうに唸った。鍛え抜いた厚い胸板のせいで、既製品の礼服が悲鳴を上げているのだ。動くたびに背中の生地がミシミシと音を立てる。
「お待たせ、カイ君!」
控え室の扉が開き、現れたアリアの姿に、カイは息を呑んで固まった。
純白のパーティードレス。肩と鎖骨を大胆に露出したオフショルダースタイルで、胸元の豊かな膨らみが深い谷間を作っている。腰から下はふわりと広がるデザインだが、歩くたびにスリットから白く滑らかな脚が覗く。
「ど、どうかな? ちょっと張り切りすぎちゃったかも……」
頬を染めてモジモジするアリア。その破壊力は、魔獣フェンリル以上だった。
「……いや、すげえ似合ってる。似合いすぎてて、目のやり場に困るがな」
カイが視線を逸らすと、アリアは嬉しそうに駆け寄ってくる。だが、慣れないハイヒールが災いした。
「あだっ!?」
「っと、アリア!」
恒例の転倒。カイが支えると、ドレスの胸元が重力に負け、たわわな双丘がさらに強調される形で押し付けられた。
「ふえぇ、ごめんねカイ君……んっ」
至近距離で見つめ合う二人。ドレスから漂う甘い香りと、直接伝わる柔らかな感触に、カイの心拍数が跳ね上がる。
「――相変わらず、盛りのついた猿どもだな」
冷ややかな声と共に、チャイナドレス風の黒いイブニングドレスを着たリンカが現れた。試験の時以上に深いスリットが腰まで入っており、歩くたびに鍛えられた美しい脚の付け根までが見え隠れする。
「フン。お前のような筋肉達磨が、繊細なグラスを割らずに持てるか見物だな」
会場は、シャンデリアの光と豪華な料理、そして着飾った新入生たちで溢れかえっていた。
だが、カイが入場した瞬間、周囲の空気が変わった。
「おい見ろ、あれが例の『無刀』だ」
「野蛮人が、タキシードなんて着ちゃって」
「どうせ試験装置が傷んでいただけだろう?」
ひそひそ声と、突き刺さるような蔑みの視線。ここは「刀のランク」が全ての社会の縮図だった。
「気にするなよ、カイ。奴らは吠えることしかできん」
声をかけてきたのは、意外にもゼオンだった。彼はSランクの魔剣を持つエリートとして、すでに取り巻きに囲まれている。
「フン。俺はお前の力を認めたわけではない。だが、雑魚の嫉妬は見苦しいだけだ」
そう言い捨てて去っていくゼオン。彼なりのエールらしい。
しかし、全ての人間がそうではない。
「おい、そこのドブネズミ」
数人の上級生が、ワイングラス片手にカイの前に立ち塞がった。リーダー格の男は、腰にAランクの長剣を下げている。
「お前のような『無刀』が、神聖な学院の空気を汚しているのが我慢ならなくてな。今すぐここから出て行け」
男がわざとらしくワインをカイのタキシードに掛けようとする。カイはそれを最小限の動きで躱した。
「……俺は正式な試験を通った。文句があるなら、試験官に言えよ」
「口答えするな!」
男が逆上し、腰の剣に手をかけた。会場が騒然となる。
「やめてください!」
アリアがカイを庇うように前に出た。
「カイ君は何も悪いことしてません!」
「どけ、女! 貴様も『無刀』の肩を持つなら同罪だぞ!」
男がアリアの肩を乱暴に突き飛ばした。
「キャッ!」
よろけたアリアのドレスの肩紐がずれ、豊かな胸元が露わになりかける。
「――テメェ」
カイの堪忍袋の緒が切れた。全身の筋肉が怒りで膨張し、タキシードの袖がビリリと音を立てて裂ける。
だが、カイが拳を振るうより早く、会場の空気が凍りついた。
「……許さない」
アリアの声だった。いつもおっとりしている彼女からは想像もできない、低く、冷徹な響き。
ゴォォォォォォ……!
アリアを中心に、黄金の光の渦が巻き起こった。シャンデリアが激しく揺れ、グラスが共鳴して割れる。
「な、なんだこの魔力は!?」
「まさか……!」
光の中から、一本の剣が姿を現した。
柄には天使の翼が刻まれ、刀身は自ら光を放つ純白の輝きを帯びている。その美しさと、圧倒的な威圧感に、誰もが息を呑んだ。
大陸に五本しか存在しないと言われる至高の存在。
最高ランクS――『光の聖剣・エクスフィア』。
「ひっ……せ、聖剣!? まさか、君が噂の……!」
上級生たちが腰を抜かして後ずさる。
アリアは聖剣を手に、静かに告げた。
「カイ君を侮辱することは、この私が許しません」
その姿は、まさに神話に語られる「戦乙女(ヴァルキリー)」そのものだった。ドレスのスリットから覗く白い脚が、今は聖なる輝きを帯びて見える。
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騒動が収まった後、バルコニーで二人きりになったカイとアリア。
「……驚いたな。まさか、お前がSランクを引き当ててたなんて」
カイが夜風に当たりながら呟く。
アリアは申し訳なさそうに縮こまった。
「ご、ごめんねカイ君。あの日、カイ君のすぐ後に呼ばれて、これが出ちゃって……。でも、言えなかったの。私がSランクだって知られたら、カイ君との関係が変わっちゃう気がして、怖くて……」
涙目で見つめてくるアリアの頭に、カイはポンと手を置いた。
「バーカ。俺たちがそんなもんで変わるかよ。……ま、最強の『聖女様』が幼馴染で、鼻が高いぜ」
「えへへ……ありがとう、カイ君」
アリアが安心して、カイの腕にぎゅっと抱きつく。柔らかい感触と温もりが、再びカイを襲う。
「……ただ、一つ問題があるな」
カイは苦笑した。
「前代未聞の『無刀』と、最高ランクの『聖女』のコンビだ。明日から俺たち、学院中の注目の的だぞ」
二人の波乱に満ちた学院生活は、ド派手な花火と共に幕を開けたのだった。
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