第13話 主人公は噂のウサギになる
「お前のメンタルにはホンマ驚かされるわ」
「年中路上ライブやってたんだから当然よ」
ウサギと猫が城内を駆け回っていると噂がたち、辺りが騒然としてきた。
ここで止まれば捕まって食用にされてしまう。
それだけは回避したいと、二匹は必死に出口を探した。
「おい! 今ウサギと猫が走っていったぞ!」
「まさか例のウサギじゃないだろうな? 捕らえるぞ!」
「止めろ! お前達は手を出すな!!」
ジルはミア達を追いながら、城内にいる警備兵達に出くわすたびに誰も後を追わないよう伝達していった。
その頃まだ誰もいない通路に出た二匹はやっと立ち止まってあたりを見回した。
「どこに向かって走ればいいのかな?」
「オレにもわからん。 とにかく扉が開いてるあそこの部屋に潜り込むんや!」
「わかった!」
すると、不安と緊張の中休むことなく走り続けたミアの体に突然異変が起きた。
目の前がぼうっと白く霞みズキズキと頭が痛む。
熱中症の症状だ。
外とは違い、無風状態の城内を走った事がウサギの体に大きく負荷をかけてしまっていた。
フラフラと目眩がしながらも部屋へ逃げ込もうと歩みを進めると、とうとうグラリと視界が歪みミアの脳内に走馬灯の様なモノが映し出された。
――――まるで自分など見えていないかのように、誰一人足を止めず無視され続けても気丈に振る舞い歌い続けた日々。
寒空の下で泣きながら帰ることもあったが、その度に祖母との約束を思い出した。
戦後、未亡人となった祖母はバーで歌を歌い生計をたてていた。
歌を知り尽くし、曲の素晴らしさを伝える祖母の歌声は聞く人を次々と魅了し、後に『いばらの歌姫』と呼ばれる様になった。
まるでいばらで守られた一輪の薔薇のように、一途で高貴な女性だったのだ。
そんな祖母から譲り受けた沢山のカセットテープやレコードから流れてくる曲の数々に心を撃ち抜かれていく衝撃と感動が忘れられず、ミアはお小遣いを貯めてギターを買った。
そして必死に練習し路上でギターを弾くようになった。
しかし数年後、ようやく客が定着してきた頃に祖母が病で倒れた。
ミアはバイトの合間に、店を閉じて病棟で過ごすようになった祖母の元へ頻繁に通った。
そしていよいよ命の灯が消えようかという頃、ミアは初めて『祖母の様になりたい』と夢を語った。
すると思わぬ言葉が返ってきた。
『私のようにじゃなく、大輪の花のように愛される歌姫になりなさい』
初めて語った夢は否定されることなく、更なる高みを目指せと背中を押された。
憧れだった歌姫と指切りしたのが最後の別れとなったが、そこが自分のスタート地点になった――。
歌う事に拘っていた理由が、思い出された。
(こんな大事な事を忘れていたなんて……)
ミアは涙を滲ませながら薄っすらと目を開けた。
「おい、大丈夫か?」
視界に入ったのはクロノではなく、額に汗を滲ませ困惑した表情のジルだった。
「クロノは……」
「多分お前の体内に入って内から生命維持しているんだろう。 身を挺して主を守るなんて、大した使い魔じゃないか」
頬を緩めたジルを見て、ミアは『へへ……』と小さく笑った。
捕まったのがジルでよかったと心から安堵した。
ジルは周りに人が居ないかを確認すると、ミアを抱えて人のいない部屋へ身を隠した。
「熱があるのか」
改めてミアの体調を確認すると、腰に下げていた小袋の中から水の入った小さな筒を取り出し、それをミアの口に当ててゆっくりと飲ませた。
そして熱が下がるよう、魔法で微風を起こしミアの体を仰いだ。
するとミアの呼吸も徐々に安定していった。
(あれから十分以上経ってるな……)
パチン、と懐中時計を閉じ外の様子を伺うと、ウサギを捕らえようとする兵達の足音や声が騒がしくなってきている。
これはもう隠し通すのは無理だろう。
ジルはぐったりとしているミアを膝に乗せながら、状況を打破する手段を模索する。
後にハァ、と大きく息を吐いた。
「やってみるしかないか」
ジルは自分の使い魔を呼び、ミアを運び出すよう指示を出した。
「少し辛いだろうが後で檻に入ってもらう。 お前はそのまま何もせず俺に身を預けてろ」
朦朧としながらもミアは不安を募らせる。
だがそれを払拭するようにジルはミアの額を優しく撫で、使い魔にミアを咥えさせて部屋を出た。
「城内にて怪しいウサギを捕獲した! ラロウド宰相が今何処にいるか知ってる者は居ないか!」
この騒ぎを治めるよう声を上げ、辺りにいた近衛兵を呼びつけるとミアを収監する為の鉄製の檻を用意させた。
そしてラロウド宰相の居ると思われる執務室へと向かったのだった。
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