第8話 主人公はイベントに参加する ②

 ミアとクロノはステータスを開き、固まっていた。


 気になっていたイベントとはどんなものか。

 蓋を開けてみるとそれはとんでもない内容だった。


_______________


 【イベント : 『兵から逃げ切れ』】

 ☆逃げ延びた時間の長さによって報酬をゲット☆


 ・ 一時間未満 → 食用ルート転向


 ・ 一時間〜一時間半未満 → 安全寝床


 ・ 一時間半〜ニ時間未満 → 一日三食確定


 ・ ニ時間 → 新ルート追加 


________________



「これがイベントだなんて……」


 ミアとクロノは、ショックのあまりガクリと膝をついた。 


 すると突然後方から男の大きな声が響き渡る。

 声のする方へ近づき草むらから様子を伺うと、近衛兵らしき剣を腰に差した男達が大勢集まっていた。

 そしてその中でも体格の良い大きな男が前にでて、兵達に指示を出した。


「よし! ここら一帯で探索を開始する。 目標は魔物達を誑かし、国へ攻め入ろうと目論んでいるという噂のウサギだ。 魔法も使うとの情報もある。 注意して捕獲にあたれ!」


 ミアはその言葉に耳を疑った。


 どうやら国を脅かすウサギがいるらしい。

 いくら魔法が使えるからといって、そんな脅威を孕むウサギなんて本当にいるのだろうか。

 

 ウサギ違いで巻き込まれる羽目になったミアはクロノと共に猛ダッシュでその場から離れ、隠れられる場所を探した。


「ミア、これからどないするんや?」


「どうするも何も、これが本当にイベントならとりあえず三十分は逃げ切らないと食用ルートでしょ? 逃げきるしかないじゃない」


「そやな。 オレも使える魔法でサポートするわ」


「目指すは一日三食!」


「ノッた!」


「いくわよ!」


「「お――!」」


 そうして二匹の逃走イベントが幕をあけた。



 ◇



 『一時間半以上』という目標を定めたものの、大勢の兵達に囲まれた状況の中で逃げ回るのは困難を極めた。

 

 兵達の中には魔法を使う者もいて、目の前に火を放たれたり風で飛ばされそうになったり、水攻めにあったりと散々な目に遭った。

 だがクロノは音魔法や加工魔法を使って、ミアは聴力を駆使して次々と乗り越えていく。

 

 その間にも次々にウサギ達が捕まっていくのが見えた。 

 中には先日会いに来てくれた一角のウサギもいる。

 捕獲だからきっとすぐに放して貰えるとは思うがやはり胸が痛んだ。


「ミア、余所見しとったら捕まるぞ!」


「うん!」


 お互い励まし合いながら二匹はとにかく森中を走り回った。



 ◇



 スタートからどれぐらい時間が経っただろうか。


 兵達のウサギ狩りが続いているところをみると、まだイベントは続いているようだ。

 ミア達は散々走り回り、体力もクロノの魔力も底尽きそうだ。

 捕まるのも時間の問題だ。


「さすがにもう、三十分は経ってるよね……」


「食用ルートは、回避出来てるんちゃうか……?」

 

 二時間がかなり長く感じる。

 お互い息絶え絶えだ。

 

「もう、ええんちゃうか……」


「一日、三食……だったら良いな……」


 とうとう二匹は力尽き、パッタリとその場に倒れてしまった。


 



 ピロリロリン♫


 


 

 聞き慣れた電子音に、ミアはふと目を開け辺りを見回した。


 さっきよりも人の気配がない。


「クロノ起きて。 さっき音が鳴ったよ」


「え……、ほんまか……?」


 フラフラになりながらクロノはステータスを開いた。


________________


 【イベント終了】

 『安全寝床』『一日三食』『新ルート追加』 獲得


________________



 この一文を読んで二匹は泣きながら抱きあった。


「やったぁ――!」


「何とか死なずに済んだぁ――!」



________________


 これより右・左・真ん中を選択し、走り向かう事で報酬獲得


________________


 顔を上げると確かに前方に大きな茂みがある。

 境界線は曖昧だがとりあえずそれらしい方向へ向かえばいいらしい。

 

「……何だか報酬の受け取り方がユニークね」


「相変わらず雑やな……。 まぁ三つとも貰えるんは間違いないやろうし、行って来いや」


「そうよね、解った!!」


 ミアは意気揚々と起き上がると、草の生い茂った三方向を確認して走り出した。


(一日三食、ゲット――!)


 ミアは胸を踊らせながらダッシュした。


「とりゃ――!」


 そして思い切り真ん中の茂みに突っ込んでいった。



 ガサ、ガサガサ!!

 


「ぷはぁ!」


 やっと茂みから抜け出し顔を出した先には、キラキラと毛並みが銀色に揺れる大きな猫が行儀よく座っていた。


「あ、ウサギ……」


 そしてその向かいには、以前ドラゴンを助けた時に出逢った青年がいたのだ。

 ミアは叫びだしそうな口を両手で塞いだ。


「コレはツイてるな」


 青年は意味ありげな笑みを浮かべ、すぐさまミアを抱き上げた。

 そして前と後ろ、上から下までジロジロと体を見回した。


「雌ってぐらいで特に変わった所はなさそうだな」


「どこ見てんのよ――ッ!!」


 男に殆ど免疫の無いミアは恥ずかしさのあまり青年の顔を足で思い切り蹴って飛び降りた。


「……シエル!」


 青年に呼ばれてプラチナの猫は豹へと姿を変え、ミアに声を上げる隙も与えずにあっさりと捕獲した。


「俺に蹴りをいれるなんてやるじゃねぇか」


 青年は蹴られた頬を撫でながら冷笑を浮かべた。


「しかもお前、さっき喋ってたよな。 コレは面白いものを捕まえたな」


 声の感じは嬉しそうなのに、目が笑っていない青年を見てミアは血の気が引いた。


「国を脅かすウサギかどうかはわからないが、一旦俺が匿って可愛がってやるよ」


 そう呟いた青年はミアを皮袋に入れ肩に担いだ。

 

(や、やらかした……)


 ピロリロリン♫



 運ばれる途中、ミアは電子音を聞いた。


 けれどステータスが見られない為、何が変化したのかはわからない。

 もしや〈食用ルート〉に転向したのでは……。

 ミアは袋の中で呆然としながら、森ではない何処かへ運ばれていった。


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