第7話 主人公はイベントに参加する

(ぎゃ――――!!)


 生活の拠点を森の奥へと移してからは、毎日必ず一回は叫んでいた。


 歌を聞きに来てくれた魔物が討伐されてから、ミアは歌を聞きに来る動物や魔物を極力人から遠ざけようと考えていた。


 しかしそれは無謀だったのか。

 それとも〈人間ルート〉から外れたのか。


 これまで以上に魔物と出くわし、自身が追いかけられる頻度も増えてしまった。


 まるで〈食用ルート〉の上を綱渡りしているような気分だ。


 それでも今日も何とかギリギリで渡り命を繋ぐ。


 お陰で度胸はついてきた気がするが。


「やっぱり前の所に戻ろうやぁ」

 

 共に追いかけられるハメになった使い魔のクロノは、項垂れながら座り込んだ。


(いやよ。 戻りたきゃ一人で戻って頂戴)


「お前やって何回も叫んで逃げ回っとるんやないか」


(そんなの発声練習と思えば良いのよ)


「相変わらずポジティブやなぁ。 まさかMなんか?」


(んなわけないでしょ! さぁ、そろそろここらで始めるわよ)


 人間が住む街から離れたところにあるこの森は、大きい木々が生い茂りそれが日差しを遮り薄暗い。

  

 その中でミアは、薙ぎ倒された切り株を見つけピョンとその上に立つと、声出しの為に歌を歌い始めた。


 すると光が届かない森の中を、ミアの声がまるでラジオから流れるBGMのように自然に溶け込んでいく。

 日差しの量に変化はないのに、心地良い声とリズムから殺伐とした空気が和らいでいく。


「グァオ――――!!」


(ぎゃ――――!!)


 けれど歌えば敵に自分の存在を知らせてしまう事になるので、以前よりもゆっくりは歌えない。

 それでも人間の出入りが殆どない森にいれば、前のように魔物が目の前で殺される確率は低い。

 それほどミアは無意味な殺生に心を痛めていたのだった。


(あ、今日は角の生えたウサギさんだ)


 森の奥深くに来てから数日後には、歌を聞きに来る動物に混じって小さな魔物も顔を出すようになっていた。

 たまに自分よりも大きな魔物も来るが、人間の時と同じようにこれ以上近づかないでと並べた石で線引きをしてアピールをする。


「こうやってると路上ライブやってるみたいやな」


(そうね。 すごく懐かしい)


 人間だった頃のミアは、人通りの多い場所でギターの弾き語りをやっていた。

 初めは前を素通りしていくだけだったが、定期的に出向けば足を止めてくれる人も増えて声をかけてくれて貰えるようになった。

 そこで知り合った仲間もいた。


 動物も同じじゃないだろうか。

 勿論言葉はわからないから真相はわからないが、そうであってほしいと模索する毎日を送っていた。



 

 そんなある日。


 

 ピロリロリン♫



 また頭上で軽快な電子音が鳴った。


「……クロノ、今のって!」


「あぁ、なんか進展あったんや!」


 クロノはステータスを開き、ミアもワクワクしながら横から覗き込んだ。


________________


〈人間ルート〉継続中 

『ヒトの言葉が話せる』スキル習得 


________________



「やったぁ! ルートからは外れてなかったんだ! でも何がきっかけで習得できたんだろう?」


「そこらへんは相変わらず謎やな」


「沢山喋ったり歌ったりしてたらもっとレベル上がるかな?」


「ある程度ウサギでおったから……とかちゃうか? ……っあ!」


「なになに?」


「オレの魔法の項目も増えとる―!」


________________


使い魔クロノ : 『収納魔法』習得


________________



「これだけかいな!」


「まぁまぁ、一応は使える魔法が増えてるんだから良いじゃない」


 ミアは悔しそうに地団駄踏むクロノを何とか宥めた。



 ピロリロリン♫



 二回目の電子音が聞こえた。


「あれ、また?」


「続けて鳴るなんて、何やろなぁ」


 二匹はドキドキしながら、再びステータスを開いた。


________________


お知らせ : まもなくイベント開催!


________________



「「イベント……?」」


 思わず声が揃った。


「なになにイベントって。 なんか楽しい事起きるのかなぁ!」


「そうやったらええな! またそれをクリアしたら、きっとオレらのスキルも上がるんちゃうか!」


 生前携帯ゲームをしてこなかった二匹は、ワクワクと胸を踊らせながらその時を待った。


 しかし通常ゲーム中のイベントといえば、大きな報酬を得るためにハードなクエストが待ち構えているのがお決まりだ。


 ここでもそれは同じで、この数分後に起こるイベントに二匹は文字通り生死をかけて挑む事になる。

 

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