第9話 主人公は新ルートを解放する

 ウサギなのにヒトの言葉が話せることが人間にバレてしまった。


 このまま〈食用ルート〉に進むのだろうか。

 自分の不注意が招いた事態に、ミアは革袋の中で気落ちしていた。

 

「やぁジル。 珍しく嬉しそうな顔をしてるけど、噂のウサギでも捕まえたのかい?」 


 すると青年とは別の男性の声が聞こえてきた。


「レオも来てたのか。 その件なら多分ハズレだが、面白い事はあったよ」


「へぇ、何だいそれは」


「実は捕まえようとしたウサギに顔を蹴られたんだ。 だからそのウサギを飼うことにしたんだ」


「自分の顔を蹴ったウサギをかい? 何でわざわざこんなタイミングで?」


「意思疎通を図ろうと思って」


「おいおい、いくら人付き合いが好きじゃないからってウサギはないだろう」


「はは、確かに。 だが俺の隙をついたのがウサギだなんて面白いと思わないか?」


「まぁ……お前の顔を蹴るなんてそんな命知らずは居ないな」


 何やら二人が親しげに話している。

 ミアは自分がヒトの言葉を話せる事を言いふらすのではと心配していたが、会話を聞くと今のところ大丈夫そうだ。

 そして本当にペットにされるらしい。


(『安全寝床』ってこのことかしら……)


 ミアは自分がどこにいるのか、先程の電子音は何を知らせていたのかが気になっていた。

 だがクロノがいないので確認する手段がない。

 話を聞いていると命の危険はなさそうなので、しばらく大人しくしておく事にした。

 

 それにしても先程まで命懸けで走っていた所為か、ユサユサと心地よい揺れが眠りを誘う。

 ミアは一旦思考を止め、睡魔に体を預けることにした。



 ◇



 あれからどれ位眠っていたのかわからないが、気づくとミアはベッドの上にいた。

 眠っている間に連れてこられた場所は、どうやらミアを捕らえた青年の部屋らしい。

 先程の装いから一変、軽装に着替えて何やら机に向かい書き物をしている青年の背中が見える。

 

「あぁ、目が覚めたか」


 ミアの気配に気づき、手を止めて近づいて来た。


「ここは俺の部屋だから誰も来ないし、机の引き出し以外は自由にしていいから」

 

 自由にしていいとはいえ、男性の部屋であるのは違いない。

 これからここで一緒に過ごす、そう考えただけでもミアは顔から火が出そうになった。

 だが相手は自分をウサギだと思っているし、開き直らないと益々怪しまれる。

 

「だからほら、喋っていいぞ」


 いや、既に怪しいウサギに認定されていた。

 色々と手遅れらしい。

 それでもミアはフィッと顔を背け聞こえない振りをした。

 すると青年はミアを抱き上げ膝の上に乗せると、ミアの背中をゆっくり撫で始めたのだ。

 

「こんな騒動の中でまた森の中に放されたら次はどうなるかわからないぞ。 どうする?」


 落ち着いた物言いが余計に恐怖を誘う。

 確かに大勢の人間に襲われ、何度も捕まりそうになり怖い思いをした。

 あんなもの、できれば二度と味わいたくない。


 だからといってこの青年を信用しても良いものだろうか。

 ミアは選択を迫られた。



 ミアは転生してから使い魔のクロノ以外頼れる者はいなかった。

 それはそれで良いのだが、獣二匹だけではやれる事にいつか限界が出てくる筈だ。

 人間に味方ができれば、世界も広がる上に人間ルート攻略に繋がるのではないだろうか。


 人間不信になってる場合ではないのかもしれない。


 ミアはチラリと自分の背中を優しく撫でる青年を見上げた。

 ハチミツ色の瞳は、やはりミアを映している。

 ただ単なる好奇心だけでなく、何かを求めているような、少し寂しさも混ざっている様にも思えた。


 それでもミアは耳をパタパタと動かすだけで、青年に話しかけることはしなかった。

 ミアのつれない態度に青年は溜息をつくと、声のトーンを落として静かに話し始めた。


「一週間ほど前から魔物の様子がおかしいと噂がたって探っていたんだ。 そしたら何故かウサギが関わっているって話になったんだ」


「……」


「そのウサギはどうもお前みたいに白い毛皮らしくて、しかも魔法も使えて危険な魔物さえも従えると聞いてる」


(そ、そんなウサギ、いたかしら……)


「ウサギがどんな魔法を使うのか、この眼で確かめてみたいんだ。 俺達人間が知らないような魔法なんだろうか。 とにかく話がしてみたい」


(この人……そのウサギに自分がやられるとか考えないのかしら。 とんだ自信家ね)


「……そういえば、前にケガした竜を見つけた時にもウサギがいたな」


(え?!)


 ミアの耳がピンッと立った。

 だが青年は知らぬ顔で話を続ける。


「あの竜があの時のケガが原因で病を罹っていると聞いたら、どう思うだろうか」


「待って! それって大丈夫なの!?」


 ミアは顔を上げ、青年に聞き返した。


「………………」


 すると青年は目を見開き、撫でていた手を止めた。


「……あ……」


 その顔を見て、ミアはさぁっと青ざめた。

 今までの会話は誘導尋問だったのだとようやく気づいたのだ。


 だが青年も改めてウサギが喋っているのを目の当たりにして驚いたようだ。

 

 二人の間に、長い長い沈黙が流れた。

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