第2話 「破れた服と優しい魔法」

ルーラは、ステラに「さっさと脱ぎなさいっ」と、優しくもきっぱりと言い放たれ、とうとう大粒の涙を流しながら叫ぶしかなかった。


抵抗も虚しく、破れた服を脱がされ、ステラが差し出してくれた別の服に着替える。 まるでルーラのために仕立てられたかのように、サイズがぴったりだった。

恥ずかしさで顔を真っ赤にし、熱を持った目元を何度も拭いながらも、ルーラは逃げ出すことができなかった…

その後、ルーラはリビングで、ミアとテーブルを囲んでお喋りをしながら、ステラが淹れてくれた温かいハーブティーと手作りのクッキーを口にして

​「ねぇ、おねーちゃんは魔法使いなの?」 ​

女の子の無邪気な瞳がルーラを真っ直ぐ見つめる。ルーラは恥ずかしさから視線をそらし、ハーブティーの湯気に顔を隠すようにした。 ​「べ、別に…私は便利屋よ」 ​

「便利屋さんって、魔法も使えるんだね!タマを見つける時、キラキラ光ってた!」 ​

その言葉に、ルーラはわずかに頬を緩ませた。「…まあ、ね」と小さく答える。ルクも、まるで自分が褒められたかのように誇らしげにキラキラと輝きを揺らした。 ​

その時、直されている服から聞こえてくる、針が布を貫く微かな音だけが、静寂を破っていた。その音の奥で、ルーラは微かな魔力を感じていた。それはステラが、服に込めた感謝の気持ちであり、誇りでもあった。 ​

玄関の扉が開き、家全体が振動するような重低音の声が響いた。 ​

「ただいまぁ」 ​

瞬間、ルーラの動きがピタリと止まる。玄関に立っていたのは、全身から剛健なオーラを放つ、鍛え上げられた大柄な男だった。彼のガタイは、ルーラが今まで見てきた町の住人とは比べ物にならないほど分厚い。 ​

「パパおかえりぃ」

「おかえりなさい、あなた」 ​

ミアとステラが、すかさず温かい返事を返す。ルーラは驚きを隠せず、目の前の大柄な父親と、優しげなステラを交互に、そしてミアを見てまた見返す。 ​

(この二人からこんなかわいい子が生まれるの!? 嘘でしょ… 良かったわねぇ、お父さんに似なくて)と、ルーラは心の中で正直に呟き額の汗を拭う動作をした。

「おっ!その服、懐かしいなぁ」 ​

父親は、妻の若い頃の服を見て、豪快な笑みを浮かべた。 ​ステラは、ルーラの破れた服を針と糸で優しく縫いながら、タマを探しだした経緯を手短に父親に伝えた。ミアがルーラに助けられたこと、そして服が破れてしまったことを。 ​話を聞き終えた父親は、その厳つい外見からは想像もつかないほど優しい目つきでルーラを見つめ、深々と頭を下げた。 ​

「ミアとタマを助けてくれてありがとう。本当に感謝するよ」

​突然の深いお礼に、ルーラは「べ、別に…」と顔を赤くして再びどもってしまった。 ​

「ふふ、ルーラちゃん…」と、ステラは優しく続けた。

「その服は、私が仕立て屋として働き始めた頃に、自分用に作ったものなの」 ​

父親は、自分の分厚い腕をポンと叩きながら、さらに豪快に笑った。

「俺は、ヴァル。鍛冶職人をしているんだ。武器や防具、農具を打つのが仕事でね。工房横の修練場では剣術の講師もしているんだ」


ルーラは、「繊細な技術」のステラと、「強大な力」のヴァル。意外な対比に、驚きと安堵を覚えるのだった。 ​その時、ステラが修繕したルーラの服を、丁寧に畳んで差し出した。 ​その直した服を渡す一方で、ルーラが着ている借り物の服を指差した。 ​

「もし、良かったらその服着てあげて。こんなにぴったりなんだもの。ルーラちゃんが着てくれるならその子(服)もきっと喜ぶわ」 ​

ステラの温かい提案に、ルーラは言葉を失う。 ​「あ、あの…本当に、あっ、ありがとぅござましたぁ」

​か、噛んだ!皆が心で呟いた。 ​

ルーラは顔を真っ赤にして、直してもらった自分の服をさっと受け取り、深く頭を下げた。どもりながらも心からの感謝を伝えたつもりだったが、緊張で最後の言葉がすっぽ抜けてしまった。 ​ステラは、そんなルーラの様子を察して優しく微笑み、ルーラの髪をそっと撫でた。 ​

「いいのよ。タマが破ったんだもの。また何か困ったことがあったら、いつでもうちに来てね」 ​

「またね、おねーちゃん!」 ​

ミアが小さな手を振ると、ルーラは一瞬戸惑った後、ぎこちない笑顔で手を振り返した。ヴァルも豪快な笑顔で大きく頷いた。 ​夕暮れの空の下、ルーラは暖かな光を背に、自宅へと続く裏通りを歩き始めた。新しい服の少し厚手の生地が、肌に心地よい。 ​

(便利屋…仕立て屋…鍛冶職人で剣術講師…) ​心の中で、今日知った町の住人の肩書きを思い返す。人見知りのせいで気づかなかっただけで、この町にはたくさんの顔があり、たくさんの技術がある。

​(私…この町のこと、全然知らなかったんだ…)

​ほんの数時間前まで、仕事以外の交流を避けていたルーラだったが、今は胸の奥に、譲り受けた服と同じくらい温かい火が灯ったような感覚があった。 ​

「ねぇ、ルーラ。新しい友達と、新しい服ができたね!」 ​

ルクの弾むような声に、ルーラは照れ隠しのように

「うっさいわね」

と小さな声で呟きながら、少しだけ早足になった。次にこの町の人たちに会う時は、もっと堂々と胸を張れるように、「便利屋」としてしっかり頑張ろうと、心に誓うのだった。

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2026年1月16日 20:00
2026年1月20日 20:00
2026年1月23日 20:00

月の女神とドジな便利屋 桜井 サクラ @sakurai113

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