第2話 おもしれぇ女

エルサム様とアリシア様のお茶会を見守る僕。この時間が、僕は好きなんだ。エルサム様が世界一穏やかだから。


僕は束の間の心の休息を楽しんでいると、僕たち以外誰も入って来ないはずの王室専用サロンの入り口の方からガサガサと音がする。僕たちは、訝しげに音の方を見る。


主人を守るため、エルサム様の方を見るとエルサム様はすでにアリシア様を守るため、アリシア様に魔法結界を貼ってる。個人に貼るにしても、常人なら2-3時間かかるものを最も簡単に、、、。


そうこうしていると、足音が止まったので視線をそこに向ける。


そこには帝国学園の制服を着た女性が立っていた。胸につけている位を示すマークとリボンの色的に、男爵令嬢の1年生だな。


歳にしては幼い印象を与える耳寄り高いツインテールに、勝気な吊り目。この国ではよくある栗色の髪をした女性だった。


ちなみに、一目で位を解るようにしているのは、いずれ社交界に出るためのマナー練習の意味も兼ねている。


というのは建前で、知らずにアリシア様に無礼をはたらかないようにするための、エルサム様が幼等部にお決めになったものである。


全員の視線が招いていない男爵令嬢の1年生に向いていると、彼女はエルサム様をみてニヤッと笑う。


「やったーー!!エルサムみっけ!探したんだから〜♡最初に出会うはずの中庭にはいないしさ〜」


え???は????この男爵令嬢は死にたいのか??エルサム様を呼び捨て??死ぬより辛い目に遭うぞ、、、??


僕がポカンとしていると、男爵令嬢はエルサム様の目の前までツカツカ歩いていった。


エルサム様は氷より冷たい視線を彼女に向けながら、睨みあげる。


「俺は気分が良い。即刻立ち去るなら、爵位剥奪で許してやる。」


その声は聞いたものであるなら、全員震え上がるほどのドスの効いた声であった。でも男爵令嬢は気にしていないようだ。


「やだ〜も〜!そんなに怒らないってば!私はルシィ♡でっす♡よろしくね!エルサム〜♡」


そういうと、彼女はエルサム様に抱きつこうとした。僕は咄嗟に空間転移魔法で、エルサム様を僕の後ろに転移させる。


エルサム様は、トッと華麗に着地した。他人を空間転移させると、転移した人は着地のタイミングがわかんないから、大体尻餅するんだけど、なんで綺麗に着地できるんだこの人。


エルサム様は僕の耳元で話しかける。


「よくやった。先ほどの猿女を止められなかった件は不問にしてやる。」


あぁ〜よかった!!この特技あってよかった!!!!僕が生きていることに感謝していると、ルシィが僕を睨んでくる。


「ちょっと!何すんのよ!!」


ルシィが僕に掴み掛かろうとしてきた時。


「おやめください。ルシィさん!」


月の聖女、、、いやアリシア様が椅子から立ち上がり、止めに入ってくださった。


呼び止めたルシィがアリシア様の方を見る。その顔は、淑女として見るに堪えないすごい顔で、アリシア様を睨んでいるのだった。


アリシア様は臆せず、ルシィに話しかける。


「ルシィさん、ここは王室専用のサロンです。招待されていないものは、入ることは許されません。新入生で迷ってしまったのですね?出口まで案内します。」


さすが、アリシア様。聖女のようだ。アリシア様はルシィが迷ったことにして、この場を収めようとしているのだ。


じゃないと後ろで怪物のような禍々しいオーラを発している悪魔じゃない、、。


エルサム様が何をしでかすかわからない。僕がアリシア様の優しさに感銘を受けていると、ルシィがアリシア様に近づく。


「ハァ!?なんであんたに、、、そっか、あんたがアリシアか、フーン。、、、ま!次のイベントもあるしここは帰るわ。」


公爵家の人間を呼び捨て、しかも婚約者の目の前で言い寄るって、侮辱しているのと同じだ。


公爵家の怒りを買ったら、一族郎党全員路頭に迷うぞ、、、。


僕がルシィのあまりの行動に恐れ慄いているとルシィは踵を返して、出口の方へ向かう。そしてエルサム様の方へ向いて、にぱっと笑う。


「じゃあね♡エルサム〜」


ルシィが王室専用サロンを出て行くと、エルサム様が僕にしか聞こえないドスの聞いた声で言う。


「俺のアリシアに侮辱の限りをあびせおって、、一族諸共晒し首にしてくれる、、、」


僕に言われているわけじゃないのに、寿命が縮んだ気がした。


それを聞いていたのか、長年の付き合いで察したのかアリシア様がエルサム様に「今回はどうか恩赦を」と掛け合っていた。



その夜。多くの人が眠りにつくころ。僕はエルサム様に呼び出され、エルサム様の執務室にいた。


エルサム様は広い豪華な長机に肘を置き、顔の前で手を組んでいた。


「エディ、君を呼んだのは他でもない。あの汚物女の元へ、今から向かい何が目的か探ってこい」


(んな無茶な。)


そう思ったけれど、主人の命令なのでやること前提で、疑問を投げかけた。


「エルサム様。僕ができるのは、空間転移だけです。どうやって目的を探るんですか?」


僕のその問いに、可哀想なものを見る目で、エルサム様が見てくる。


「ハァ、そっか、一般人は説明しないとわからないよな。」


(いつものことなので、ムカつかないぞ僕は。)


僕は、ムッとするのを我慢し、黙ってエルサム様の言葉を待っていると、エルサム様がパチンと指を鳴らす。


すると、物陰からヌッと人が出てきた。“影”だ。


王家直属の暗部を一手に率いるものたちだ。エルサム様付きの執事になる時に聞いてたけど、初めて見た。僕は少年心をくすぐられて感動しているとふと我に帰る。


(ん?なんで“影”がいるのに、僕が呼ばれたんだ?)


僕は、エルサム様の方を見る。エルサム様は美しい笑顔で、一般人にもわかるように、説明してくれた。


「エディ、お前は一度姿や形をみて、名前がわかるものの場所まで瞬間移動できる。だから、この“影”をあの汚女のところまで連れていけ」


(なーるほど、僕が呼ばれた理由はそれか〜。)


僕は、夜更けに”影”を送迎する係に任命された。ルシィのところに連れて行った影がした行動は、しばらく僕のトラウマになる出来事だった。



シュンっと、僕は“影”を連れて、ルシィの部屋まで瞬間移動した。


ドテッ


影は着地の瞬間がわからなかったのか、少しこけたが、盛大に尻餅まではいかなかった。


(さすが、影だ。身体力すごい、、)


影は恥ずかしがることもなく、そのまま、ルシィの元まで行くと、頭に手を乗せる。頭の指圧マッサージをするような格好だ。


影はそのまま、ルシィから目を離さず、集中しているようだった。


「俺の特技は相手の頭を弄るコト。やろうと思えバ、廃人確定だが、頭の中を本にして出せル。」


(え、、、何それ怖い)


「だけど、そこまで言われてないシ、今からやることで、俺は手は使えなくなル、これからすることをお前が書ケ」


あっさり怖いこと言われたけど、直前の不可思議な出来事に納得する。


だから事前に、白紙の冊子とペンを渡されたのか。僕は彼の機嫌を損ねないように、愛想笑いと納得しながら、書く準備をする。


僕の準備ができたと気配で影が思ったのか、特技を開始する。


(ウゲェ、、)


遠目からでもわかる。影の指が、ルシィの頭の中に入っていった。


僕がドン引きしていると、ルシィの目がゆっくり開き、瞳がどんどん頭の方向いて行く。


(うわぁ、、大丈夫なのコレ?)


僕の心配をよそに、影はルシィに質問する。


「君はドコの誰?目的ハ?」


その質問にルシィが答える。


「あぁへぁああ、、ルシィ、、違う、、、かとう、ちえみぃいい、、トウ、、キョォオオオ、、攻略ゥウウ!!」


カトウ、、?チエミ、、、?聞き慣れない名前をメモしながら疑問に思う。


そのまま続く影の質問に答えるルシィ(?)の発言に耳を疑いながら、僕は筆を走らせるのだった。



「ふぅん、、?ルシィではなく、異世界から転生してきたカトウチエミか。」


僕と影が夜鍋して聞いた情報の塊を読みながら、エルサム様が独り言を呟く。


ちなみに退散する時は影が、今夜のことを全て忘れる脳のツボがあるらしく、そこを特技で押したらしい。なんとも不安が残る説明だが、信じるしかない。


僕は眠たい目をなんとか開けて、エルサム様の言葉を待つ。


(時間は夜明けの前を指しているのに、なんでこの人は眠そうにならないの?)


ルシィ《カトウチエミ》が言ったことは、にわかに信じられなかった。


彼女は38歳独身、向こうの世界で、我々の世界に似た疑似恋愛を楽しむ遊戯を楽しんでいた。そして、階段から落ちた後、ルシィとして目覚めたと。


さらに彼女が、カトウだった時に好きだった登場人物がエルサム様であった。これ幸いと、彼女はエルサム様を籠絡し、皇帝の婚約者になろうとしている。


(もう、、、この時点で、国家転覆罪なんですけどぉ〜。)


異世界から来て、知らなかったとはいえ、あの馴れ馴れしさはいただけない。エルサム様は僕が書いた報告書を読み終わると、ポツリと呟いた。


「なるほど、“イベント”、、、やつが遊んでいた遊戯の世界観は確かに、我らの世界と酷似している、、。まぁ、いただけないのは、我が愛しのアリシアが、悪役となっていることぐらいだな」


(確かに、あんなにお優しいアリシア様が悪役なんてなんて世界だ!)


僕も怒りを覚えていると、エルサム様は朝日を眺めている。


僕は窓を見てあさが来たことを知る。


(あぁ、、、今日徹夜ジャン、、、。)


そんな僕の落胆の様子など、気にもしないエルサム様は、朝日に輝く美しい姿で、さらにつぶやいた。


「あの汚物ルシィ、、ただの無礼者だと思っていたが、転生者で俺を籠絡が目的か、、、面白い。お前の矜持に乗っ取り、お前の世界を壊してやろう、、。久々におもしろい女に出会った、、。」


白馬の王子様の皮を被った悪の帝王じゃん、、。そう思いながら、朝の時間が過ぎて行くのだった。


翌日、寝不足の僕にエルサム様が伝えてくれた、転生者の“特技”の強力さに目が覚めることになる。





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