チート王子の暇つぶし 〜王子が有能すぎて、することのない執事の僕は、日記をつけることにした〜

まぎょう

第1話 僕のご主人様

アサノニア帝国歴526年今から500年前の話。アサノニア帝国のすぐ隣の国ヨルヴァスは、瘴気が漂い、空気が汚れていた。


そのため、“人間”は近づくことさえできなかった。しかし、そんな土地を開拓して住み、長い年月を経て、その環境に適応した“人間”や動物がいる。その者らをアサノニア帝国の人は、“魔族”や“魔物”と差別し呼んでいた。


初めは違いの文化や価値観の違いから、戦争が絶えなかったが、第14代皇帝エルク=レ=アサノニアが度重なる対話から友好関係を築き、ついに友好条約を締結した。


それ以降、500年に渡り、友好関係を保ち、現在は文化交流や特産品の貿易などアサノニア帝国の生活にとって、欠かせないパートナーとなった。


その後、隣国ヨルヴァスの血がアサノニア帝国の王族や国民と混ざると、魔法とは別の“特技”と呼ばれる異能を手にするようになっていった。



ー帝国アサノニアー

ー帝国立アサノニア学園内王族特別室ー



アサノニア帝国歴1026年春の月21日。天気晴れ。


アサノニア学園へ新しい生徒たちが入学してきて、早数週間がたった。


僕の主人、アサノニア帝国第一王子エルサムは、王太子特別室に用意された、生地も座り心地も一級品の椅子に腰掛けていた。


絹のような金髪を風に靡かせ、晴天を思わせる青い目を伏せがちにしながら、帝国文官から半ば強引に引き取った仕事の書類に目を通している。


確か交通路の整備計画資料だったような、、。文官の友人からは、交通系の仕事は速くて2-3年かかる一大事業で、負担はでかいが文官でも優秀なやつしかできないと言ってたな。


エルサム様は、二、三事さらさらと記入すると、演奏会で聴く重低音のバイオリンのような美しい声で私を呼んだ。


「エディ、この書類をあの文官まで、持っていってくれるかな?」


僕は2つ返事で受け取り、王宮に帰った時に渡そうと、その書類を大切にしまった。そうすると、エルサム様は「違う違う」と私に声をかける。


「エディ、君の特技はなんだ?」


「...はい。空間転移です。」


僕が素直に答えると、大天使がここに降臨したのか?という笑顔を私に向ける。


「そうだな。だからお前は俺の執事になれたんだ。だったら、俺の望みがわかるだろう?今すぐ、あの仕事がカタツムリより遅く、頭が洞窟より空っぽの文官にそれを渡せ。」


――そう。我が主人、エルサム様は容姿端麗、頭脳明晰、武力にも優れたアサノニア帝国第一王子だ。


1にも2にも秀でているエルサム様だが、神は、この方へ“道徳心”というものだけは、与えなかったらしい。



エルサム様からの指示で、空間転移をし文官に書類を渡した。その文官は中身を見るなり青ざめて「終わりだ、、、」と言いながら、僕に礼を言うとトボトボと文官長のいる部屋へ歩いていった。


僕はあの文官にはもう会うことはないだろうなと心の中でお別れを告げ、瞬間移動魔法で戻っていく。


座標はエルサム様だ。エルサム様の魔力をたどりながら、魔法を念ずるとフッと体が軽くなりエルサム様の元へ飛んでいく、、、はずだった。


ボインッという音とともに弾かれてしまい、僕は学園の入り口に、放り出される形で地面に倒れた。


「いてて、、、」


そう言いながら、いつものように身なりを整える。エルサム様の結界魔法に僕の特技が負けて、弾かれてしまったのだ。


学園全体を覆う結界魔法なんて、上級魔法師でも3日かかるのに、あの人はものの数分でやってのけてしまうんだもの。本当に恐ろしい人。


「この邪魔されたくない感じだと、エルサム様は王室専用サロンだな、、、」


そういう独り言を呟くと、いつものように王室専用サロンへ歩を進める。


僕は王室専用サロンへ到着すると、目の前は、季節を問わず一面の薔薇。100本きっかり揃えているらしい。


天井はガラス張りで太陽光を一心に浴びているが、ヨルヴァス国からの貿易で手に入れた素材のおかげで、夏でも快適な温度を保っている。


中央には綺麗に彫刻されている噴水。贅の限りを尽くした、その他の装飾にクラクラしながら目的地まで歩くと、一層華やかな場所に着いた。


そこには、高価な彫刻を施した美しいテーブル、その上には帝国1番のパティシエが腕によりをかけた至高のスイーツ。


そして、何時間でも座っていられる一級品のイス。そこに、100本の薔薇も霞むような美しく可憐な女性が座っていた。


ここまで言えば、わかるでしょう。そう、エルサム様の婚約者ーアリシア様ーである。


美しい満月の輝きを移したかのような美しい銀髪。アメジストの輝きが劣るほどの美しい紫の瞳。熟した桃のような血色の良い唇。


月から舞い降りた聖女と言われたら、誰もが信じるその美貌。


そんな美しいアリシア様は、もちろんエルサム様の婚約者として相応しいお家柄だ。公爵家の長女であり、アリシア様の叔父にあたる方は、この国の宰相を勤めている。


そんなアリシア様の目の前を陣取るように座るのは、我が主人エルサム様。


あ、目が合った。舌打ちしてないけど、アリシア様にわからないようにハンドサインで「死ね」って言うの辞めていただけますか?


アリシア様とのお茶会を邪魔されたくないのはわかりますけど、おそばにいるのが僕の仕事なので。


僕はエルサム様の態度を無視して、エルサム様の後ろにつく。アリシア様が僕と目が合うとニコッと上品にそして歓迎するように微笑んで挨拶してくれた。アリシア様のお優しさが沁みる。


そんないつものお茶会が、この後崩れてしまうとは思いもよらなかった。


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