街道-2

街道-2




俺はヨタヨタと追いかけようとすると、リザードマンが肩を掴んで止めた。

「止めておけ。アイツは多人数相手だと手強いと見て、あの子だけを連れ去った。追いかけて来る連中を待ち伏せして、一人ずつ仕留めるつもりだろう」

リザードマンが馬車の方に向かいながら続ける。

「それに・・・あの子はもう助からん・・・」

「でも・・・」

俺の呟きに応じてリザードマンが振り返る。そして、言う。

「別に、お前が追う分には止めはしないがね。悪いが、俺は行かない。キマイラ相手は分が悪すぎる」

他の男たちも、気まずそうにしながら馬車に戻って行く。

(俺が、一人で、アイツを・・・さんざん俺を殺して、喰って、保存食にしたアイツを追う?)

無理だと分かっている。多少黒魔法が使えるようになったとはいえ、俺は別に強くなったわけではない。それに助からないというのも確かだろう。身に覚えしかない。

棒立ちになりながら、とっくに答えの出ている解答を何度頭の中で出していると、御者が肩を叩いてきた。そして、言う。

「残念だが・・・仕方ない。早く乗りな」

俺は、その言葉のままに馬車に乗り込んだ。そして壁にもたれ掛かってミリアの居た場所をぼうっとしながら眺めていた。近くに座っていたリザードマンが、俺を慰めるように言う。

「良くあることだ・・・」


良くあること・・・


確かに、その通りだった。




夕方になる前に、俺たちを乗せた馬車は都市の城門の前に着いた。城門で衛兵に通行料を払って、その先にある広場で全員が降りていく。各々が自分の荷物を運び出している。全員が降り終わってから、御者が馬車の中を覗いて言う。

「あれ?誰かの荷物が残ってる?」

それを聞いた俺は思い出して、御者の近くに寄って行って言う。

「それ、多分ミリアの荷物です。お姉さんに運ぶものがあるって言っていました」

それを聞いた御者が、悲しそうな顔をしている。その御者に俺が言う。

「確か冒険者ギルドの受付をしている、って言っていました。俺が、持っていきます」

せめて、それくらいはしてあげようと思った。



御者に預かった荷物を持って、俺は冒険者ギルドに向かう。場所は荷物を受け取った時に聞いた。

(会ったとして、何を言えばいいんだろうか・・・)

自分で言いだしておいて、気が重くなってきた。トボトボと歩いていく。そして、古びた大きな建物と、その建物の大きな扉の前に到着した。何となく威厳を感じて、入りにくい。

(今日は遅いし、明日にしようかな・・・)

逃げ腰になりつつある俺が、Uターンをしようとした、その時だった。その扉が開いて、一人の女性が出てくる。顔立ちは、何となくミリアに似ていた。その女性が俺に視線を合わせて言う。

「あれ?見ない顔だね。新人かな?」

そう言いながら、俺の持っている荷物を見る。心当たりがあるようんだ。そして、ゆっくりと俺に目線を合わせる。俺は、目線を合わせられなかった。



彼女の名は、エミリという。察しの通り、ミリアの姉だった。建物の中の一室に案内された俺は、ミリアの身に会ったことを、たどたどしく話した。

エミリは、号泣した。あまりの号泣だったので、ギルドの他の人が心配して顔を出しに来てしまった。どんどん人が集まってくる。ミリアは今までも数回ここに来ていたらしく、皆に愛されていたようだった。

「あの子がそんな惨いことに・・・」

「エミリ・・・」

「俺がその場に居たら、そんなことにはならなかったのに!」

中には、不甲斐なかった俺を睨みつけるような目線も含まれている。気まずくなった俺は、その場から立ち去ることにした。

部屋から出て行く俺を、エミリが泣きながら、声を掛けて来た。

「わざわざ、ここまで伝えに来てくださって、本当に・・・ありがとうございました・・・」

その後は、もう声にならずに、また泣き始めた。

「いえ・・・お役に立てずに申し訳ありませんでした・・・」

俺は、それだけを言って、ギルドから出て行った。


建物から出ると、もう暗くなっていた。俺は、夜の街を一人で歩くことにした。どうせ腹も減らない。そして、もう一つのことに気がついた。


眠らなくても、全然平気だという事に・・・


なので、どこにも泊まる必要もない。俺は、一人で歩き続ける。街灯もない夜の街に溶け込むように、一人で暗がりに向かって行った。

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