ドナルド

街道-1

街道-1




俺は町の外を歩いている。意気揚々と放火して家から出たはいいが、特に計画は無かった。ただ、流石に放火した家のある町に居るのは不味いんじゃないかと思い、町の外に出て街道らしき道を歩いている。

とりあえず別の町にでも行こうかと思っているのだが、場所も何もわからない。魔術師の家には地図が無かったのだ。

(とりあえず街道を歩いて行けばどこかに着くだろう)

腹が減らないのは分かっているので、とりあえず餓死は無い。と言うか死ななない。時間は文字通り腐るほどありそうなので、ダラダラ歩いて行けばいい。街道には俺以外にも歩いている人をたまに見かけるから、安全だろう。

そう思って歩いていたら、後ろからガラガラという音が聞こえて来た。その音が並走する。馬車だ。その馬車の御者が俺に声を掛けて来た。

「おい!お前さん、歩いて次の街まで行くのか?今からだと、夕方になっても着かんぞ!」

「あ、そうなんですか」

一言だけ答えた。俺としては道が合っているならそれで構わない。御者が心配そうに続ける。

「最近、夜中になると街道でも化け物が出る。それもキマイラだ」

「キマイラ?それってどんなのですか?」

歩きながら、俺は御者を見ながら聞く。御者が答える。

「獅子の身体に、蛇の尻尾。背中に山羊の生えた化け物だ」

心当たりしかない。

「乗ります。乗せて下さい!」

御者は安心したように言う。

「そうしな。途中からの乗車だから、料金は値引きしてやるよ」


馬車に乗ると、中には色々な人が居た。種族も色々のようだ。人らしき者以外にも、耳の尖った者、やたら身長の低い者、蜥蜴のような者などが居た。

(エルフ、ドワーフ、リザードマンかな?)

人見知りなので目を合わせないようにする。向こうもそのつもりのようなので助かった。腰を下ろして、膝を立てて座る。道がガタガタなので、振動が大きい。自動車よりも座り心地が悪く、少しお尻が痛い。足を崩して胡坐をかいて、背筋を伸ばした。その時に正面に居た少女と目が合った。多分、俺よりも年下の人間の少女だ。多分小学生くらい。その少女が俺に声を掛けて来た。

「ねえ、帝都に行くの?」

俺は困った。俺がどこに行くのか、俺も知らない。

「うん・・・」

適当に答えた。それを聞いて、少女が嬉しそうな顔をして言う。

「奇遇だね、私も帝都に行くの。お姉ちゃんがそこに住んでいて、会いに行くんだ!」

適当に言ったので、俺は気まずい。目を逸らしたいが、少女の目がキラキラしていて、逸らしにくい。少女が続けて聞いてくる。

「おじさんは、何をしに帝都に行くの?」

おじさん、という言葉に抗議したくなったが、小学生から見たらそんなもんかもしれないと思いなおす。そして、回答に困った。死ぬ方法を探すため、とは言えない。

「探し物が帝都にあるかもしれないから、それを探しに行くため・・・かな?」

適当に答えた。少女がそれを聞いて、俺に近づいて言う。

「そうなんだ。私のお姉ちゃんは、帝都の冒険者ギルドの受付だから、そう言うのに詳しいかも。私からも聞いてあげるね!」

少女の善意に満ちた提案に、どう答えたらいいのか悩んだ。そんな悩んでいる俺を知らず、少女は話を進めていく。

「私の名前はミリア!お姉ちゃんに、ミリアからの紹介って言えば話を聞いてくれると思うよ。そう言えば、おじさんは何て名前?」

俺はさらに悩んだ。本名だと違和感がありそうだし、何となく本当の自分の痕跡を残したくない。適当な偽名を使うことにした。

「・・・・・・ドナルド」

元の世界で最後に食べた物から、適当に連想した。ミリアがそれを聞いて、嬉しそうな顔をした。


ミリアはそれからも色々と喋った。俺は適当に相槌を打ちながらもっぱら聞き役をやっていた。

ミリアは、帝都の姉に実家の荷物を届ける途中らしい。

(小学生くらいなのに、凄いしっかりしてるな・・・)

そんなことを思いながら話を聞いていると、突然馬車が止まった。何事かと思っていると、御者が俺たちの方を見た。

「道に木が倒れている。スマンが、誰かどかすのを手伝ってくれないか?」


俺と、馬車の中に居た男数人が出て来て、倒木を退かすことになった。ミリアも馬車から降りて来て、少し離れたところからこちらを覗くように見ている。

森の中にある木が倒れて、道を塞いでしまったようだ。

「結構デカい木だな・・・」

御者も木を持ち上げながら、呟く。みんなで運んで、何とか脇に寄せることが出来た。

馬車の乗り心地の悪さや、重い物を持って疲れたのもあって、俺は背伸びをしている。その傍らで、リザードマンが膝を付きながら倒木を調べていた。俺が声を掛けてみる。

「どうかしたんですか?」

リザードマンが倒木の根本と回りを見渡しながら答える。

「倒木のはずなのに、根本が見つからない・・・意図的に運ばれてきたんだ。これは・・・罠だ!」

リザードマンが立ち上がったと同時に、何かが森から飛び出してきた。


獅子の身体に、蛇の尻尾に、背中に山羊。文字通り死ぬほど見た姿。キマイラだ!

リザードマンが剣を抜く。周りの人たちも持っている武器を持った。俺は、呆然としていた。

(また、保存食にされるのか・・・)

そればかりが頭を占めていて、戦うどころか、逃げるという発想すら湧かなかった。

獅子の頭と蛇の頭がこちらを見ている。倒木近くには武器を持っている男が多いからか、直ぐには飛び掛かってこない。山羊の頭だけが、周りを見渡すと、何かを呟いた。それに応じて蛇だけが頭を動かして、馬車の近くに頭を突っ込むと、何かを咥えた。その姿には、見おぼえがあった。

「ミリア!!!」

俺は叫んだ。その言葉を合図とするように、キマイラは後ろに下がると同時に踵を返し、一瞬で森の中に消えた。

「えっ!?」

余りにも一瞬の出来事に、俺は、そのまま棒立ちになっていた。

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