第21話
馬車の一行が夜遅くに城郭に戻ると、執事や女中たちは、すでに庭園の別邸の準備を整えて待っていた。その建物は小さな木造の家で、清潔で温かみがあり、ムーランの古い家の何倍も居心地が良さそうだった。
おじいさまとおばあさまが、安全で快適な新しい宿舎を目にすると、二人は自然と顔をほころばせ、感謝の気持ちでいっぱいになった。
それを見たムーランはすぐに駆け寄り、感極まって涙を流さずにはいられなかった。
「ありがとうございます、ご主人様…ありがとうございます、ご夫人様…今回のことで、私に何かお役に立てることがあれば…一生懸命に務めさせていただきます…私一人では到底務まりません…」
ご主人様とご夫人様は急いで皆を案内し、休むように促した。その光景に、周囲の子どもたちや家族の顔がほころび、二人の心は慈愛で満たされた。
「よしよし、もう儀式は必要ない」とご夫人様は言った。「皆、長旅で疲れているのだから、早く中に入って休みなさい。」
執事が祖父母を新しい宿舎に案内した後、ご夫人様はムーランに真剣な表情で近づき言った。
「ムーラン…まだ確認しておかねばならないことがある。」
二人は書斎に入り、執事は一つの木箱を取り出した。中には「霊晶(れいしょう)」と呼ばれるガラスの玉が入っていた。みかんほどの大きさで、白い霧のような光が内部でゆらめいていた。
「手をこの上に置きなさい」と執事が指示した。
ムーランは素直に従い、執事も自分の手を重ね、じっと力を注ぎ込む。最初は何も起こらなかった。しかし次の瞬間、不思議なことが起きた。
霊晶は、目に見える色の光を放つのではなく、純白の、まるで虚空のような光を放ち始めた。その光は暗さを持たず、同時に強大な力を内包していた。書物にも記されていないような不思議な力が、ゆっくりと浮かび上がり、霊晶の中心で渦巻いた。
ご夫人様は、震える声でその文字を読み上げた。
「発見…されし霊晶の線…その力は計り知れず…だが隠されてきた…双耳を持つ霊獣の力に匹敵する…光の力は、より純粋に増大するのみ…」
執事の声は続く。
「そして…もう一つの特徴…その霊晶の力と心を融合させた者は…自身の霊力を大きく前進させる…」
読み終えた後、部屋は静まり返った。
ご夫人様はムーランを見つめ、その瞳には以前にはない強い光が宿っていた。この少女はただの幸運な少女ではない。「生まれながらの特別な存在」だと、内なる直感が告げていた。
一方、執事はムーランの表情をじっと見つめたが、少女はまだこの言葉の意味を理解していなかった。彼の心はようやく、伝説の霊晶が、なぜ普通の少女に宿ったのかを理解した。
ムーランはまだ立ったままで、祖父母が安全であることを確認することが、彼女にとって最も重要なことだった。霊晶の力のことなど、頭の中には全くなかった。
執事は椅子に腰かけ、ムーランを交互に見つめた。
『霊晶の力を融合させた者は、前進せん…』
その言葉が脳裏に浮かび、しばし彼の心に欲望が芽生えた。
『もし…今日からこの少女と婚姻関係を結べば…私の血統と力の支配は間違いなく…我が家系に最強の後継者が現れる…』
その考えは甘美だった。
だが、冷たい声が頭の中に響いた。
『父上…婚姻のこと…ムーランの心を弄んではならぬ…さもなければ、私は許さぬ…』
執事は我に返り、自分の息を整え、欲望を振り払った。そして、優しい表情でムーランに言った。
「ムーラン…霊晶の力と、その線を見たことは、絶対に他人に言ってはいけない。さもなければ危険が及ぶ。」
「はい、ご主人様!」
「覚えておきなさい…君はもう、ただの普通の少女ではない…力は必ず目覚める。」
ムーランはその言葉を聞き、心が高鳴った。守護の任務、祖父母の安全、そして、もし…霊獣の双耳を見つければ、自身の夢を叶える資金を手に入れられる可能性もある、と。
ご夫人様は笑みを浮かべ、からかうように言った。
「もし、そうなったら…私に嫁ぐのはどうなるのかしら?」
ムーランは真っ赤になって言った。
「ご主人様! あなたはすでに与えてくださったのです! しかも、ご夫人様も完璧で…私は…私はどうすればいいのですか! 美しくないではありませんか!」
パチン!
ご夫人様は手を上げ、ムーランの顔を軽く叩いた。
「違う、私はあなたに嫁げと言っているのではない! それはまた別の話だ!」
ムーランは思わず後ずさりしてしまったが、再びご夫人様を見ると、その顔が近づき、さらに赤面してしまった。
「私…私は相応しくないでしょうか、ご主人様…! こんな…こんなに…早すぎます!」
ご夫人様はムーランの前に歩み寄り、指先で優しく額をなでた。
「父が言った通り、『お前が目覚めた時』、また話そう…ただし…その時お前が本当に結婚したいと思うなら、私はいつでも準備している。」
冗談めいた言葉に、ムーランは何もできず立ち尽くした。
「ご主人様! 何を言っているのですか!」ムーランは手を振り、慌てた。「私は…私にはやることがあります! あ、忘れていました! お風呂と夕食の準備です!」
そう言ってムーランは慌てて書斎を飛び出した。二人の男性は顔を見合わせ、笑いを堪えきれなかった。
ムーランが入浴と夕食の準備を終えると、こっそり庭園の別邸へ向かった。
祖父母は木の椅子に座り、満面の笑みでムーランを迎えた。ムーランは駆け寄り、今日出会ったすべての出来事を話し、祖父母の祝福と助言を受けた。そして二人を寝室に案内し、安らかな眠りにつかせた。
自分の宿舎に戻ると、ムーランは入浴と就寝の準備を整えたが、寝る前に窓を大きく開けた。
夜の空は星で輝き、ムーランは両手を胸の前で合わせ、目を閉じて感謝の言葉を心でつぶやいた。
「天の恵みに感謝します…ありがとうございます…私に良い人々との出会いを与えてくださったことに…ご主人様、ご夫人様…そして…執事様…」
その清らかな祈りの声は、夜風に乗って広がっていった。しかし、気づかぬうちに、執事は木陰に立って、その声を聞いていた。
肩には紫銀のマントを掛け、手のひらサイズに縮小されたドラゴンを乗せ、闇の中で静かに座っていた。彼はムーランの言葉をすべて聞き取りながら、心の中で思った。
『信じられない…この少女の霊晶の力が、ここまで高まるとは…間違いなく、これは“霊晶の線なき者”だ…』
そして、彼は冷静に付け加えた。
『だがご主人様、安心しなさい…この少女が“主人”となる日が来れば、ご主人様の力もまた、百万分の一のレベルにまで上昇するであろう…』
執事は深く息を吐き、心配していたのは力ではなく、ムーランそのものだと改めて確認した。世界が危険と争いに満ちていても、彼女が無事であることこそ、何よりも大切なのだった。
純粋な心を持つ少女を愛し、その力の美しさを恐れる…そして、いつかその純粋さが世界の残酷さに侵されるのではないかと、執事は密かに案じていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます