第17話
馬車は大きな建物の前で停まった。建物は壮麗で、ムーランがこれまで見た中で最も豪華で威厳のある場所だった。大理石の看板には「十方幻術殿」と刻まれ、入口の上に掲げられていた。
ムーランが馬車から降りると、思わず目を見開いた。建物に入る人々は、皆華やかな衣装をまとい、ただならぬ家柄の雰囲気を漂わせていた。周囲の空気は、熟練の幻術師たちから放たれる強力な魔力で満ちていた。
「行こう…あの馬についてきて」と、プウ・フインが先に歩きながら声をかけた。
そして、二人が十方殿の扉をくぐった瞬間、ムーランは思わず声をあげた。
「わぁ…!どうして…どうして中は外よりこんなに広いのですか!?」
館内は巨大なホールで、千人以上の人々が立てるほどの広さだった。高い天井はほとんど見えず、何層にも重なる回廊が空間を縦横に走っていた。すべてが壮麗で、外観からは想像できないほど広大だった。
プウ・フインは微笑みながら説明した。「これは『幻術師』たちの技術の賜物です。彼らは魔力を用いて空間を拡張できるので、中は外観よりずっと広く作れるんです。原理としては、まるで魔力の袋のように、空間を無限に広げられるのです。」
ムーランの目は輝き、彼女は階段を駆け上がりながら叫んだ。「あれを見てください!木の鳥が飛び回っている!しかも小さな箱が宙に浮いていて、本物みたいです!」
その興奮で、ムーランは知らず知らずのうちに、前に進もうとしていた女性の一人にぶつかってしまった。
ガツン!
「わぁっ!」
ピンク色の絹の衣装をまとった若い女性――ムーランよりたった二歳年上のトンリー・リー・メイ――は、よろけそうになった。
「トンリー!」
彼女の付き人たちが急いで支えに入るが、その一人がムーランを押しのける勢いで言った。
「小娘!歩き方も見ないで!どうしてトンリー様にぶつかるのですか!」
ムーランは無意識に後ろに飛び退いたが、幸いプウ・フインが素早く腕で支えた。
「座りなさい!」付き人が怒りをあらわにした。だがトンリー・リー・メイはムーランの顔を見て、態度をすぐに和らげた。
「…大丈夫です」と、彼女は柔らかい声で答えた。「あの子は…気にしないでください…」
付き人たちは安心して後ろに下がった。プウ・フインはムーランに代わって謝罪した。「まだ幼い子ですし、事情を知りませんから」
トンリー・リー・メイは、プウ・フインの顔に見覚えがあった。やがて思い出したように、「あなた…あなたはあの騎馬隊の将軍様!」と、慌てて頭を下げた。
プウ・フインはムーランを見つめながら、顔の表情を少し柔らげた。「なるほど…この子がそうか、ずいぶん成長したな」
ムーランは少し恥ずかしそうに微笑んだ。しかし視線は自然とトンリー・リー・メイの方に向いてしまい、プウ・フインはすぐに呼びかけた。
「見てごらん…こちらがトンリー様の娘さんだ」
ムーランは頭を軽く下げ、微笑みながら礼をした。
しかし、トンリー・リー・メイはその瞬間、ムーランの顔を見て胸の内でこう思った。
「か…かっこいい…なんて美しいの!もしあの人のそばに寝泊まりできたら…絶対手に入れたい…!絶対に手に入れてやる!あの人を自分のものにしたい!」
その思いが、トンリー・リー・メイの顔の笑みを消し、冷たく整った表情に変えた。
だが、その冷たさが、ムーランには怒りとして伝わることはなかった。むしろ好奇心と挑戦心を刺激するだけだった。
今まで…上流階級の男性や名家の人々は、若い女性に会うと皆、跪き従った。しかしムーランは、これまでに出会った男性の中で、彼ほど冷たく、そして整った美貌の人を見たことがなかった。ムーランの心の中で、新たな“収集対象”として認識されてしまったのだ。
そのとき、トンリー・リー・メイが口を開こうとした瞬間、プウ・フインが先に言った。
「父上…ムーランを少し幻術の袋屋に連れて行きます」
ムーランは言われるがまま、プウ・フインの小さな手を握り、館内の店へと進んだ。
プウ・フインは後ろからその様子を見て、心の中で思った。『どうやら…あの息子は、この子に惹かれているに違いない…』
ムーランは、幻術袋の店の前で立ち止まった。「幻術袋千機」と書かれた看板が目に入る。
店内はシンプルだが美しく、上段には布袋や小さな革袋が色とりどりに並んでいた。中には動物の形の珍しい袋もあり、質の高い品が多かった。
店主の若い女性がムーランに気づき、笑顔で迎えた。「あら!この方はどの袋にご興味ですか?私がご案内しますわ…」
彼女の視線がムーランの腰の銀色の絹の袋に留まると、思わず驚いたように言った。「あら、もう袋をお持ちですね!しかも立派な袋…うちの店には、これ以上のものはございませんわ」
ムーランは淡々と答えた。「私は買いに来たのではなく、あなたのために来ました」
店主はムーランを一瞥し、微笑んだ。だが、ムーランの心の中では、純粋で無垢な思いだけが響き、嫉妬も虚勢もない。その誠実さが、店主の心を強く打った。
ムーランの目には、店のすべてが美しく映り、声に出さずとも心の中で賞賛していた。
『わぁ!美しい…あの袋もこの袋も…姉さんも本当に美しい…でも高そうだな…』
ムーランは自然に微笑みを浮かべた。その微笑みを見たのは、店主だけだった。
店内の人々の心は、長年の悪意や嫉妬に満ちていたが、ムーランの純粋な心の光だけが、その空間を明るく変えた。
その魔力は、この世界において最も美しい力であり、決して退屈にさせないものだった。
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