第6話 ガイアと大地
「記憶が無いって話、したじゃん?
あれ、正確じゃないんだよね。自分が何者か、過去の記憶がないだけ。
それ以外のこと──虫の名前、花の名前、木の種類──そういうのは、けっこう知ってる。」
ソルはふと、自分の中にある“知識”の存在に気づいていた。
人に関すること、家族、友達、そういった記憶はない。けれど、アルボルの根を撫でながら口にしたそれらは、どこか懐かしく、自然に浮かんでくるものだった。
「ま、いっか。悩んでもしょうがないし!悩むのやーめた!」
そんな調子でソルは、足元の“白い床”を蹴って笑う。
その瞬間、何かが引っかかった。
「……あれ?」
振り返る。
アルボル──あの不思議な木──は確かに立っている。根を張り、幹を伸ばし、天に向かって枝を広げている。
けれど──
「……なんで立ってるの?」
床は白く、硬く、限界のない空間に広がっている。そこに「根」はある。だが、どこに刺さっているのかがわからない。
「プラさー、さっきの木……地面が無くね? 木あるのに床しかないとか、変だろコレ」
プラは小さく頷いた。
──そう。ソルが「違和感」として感じたこと。
それは世界における、**“構造の欠落”**だった。
「じゃあ、つくろっか!」
思い立ったら早い。ソルは両腕を広げ、深呼吸しながらそのイメージを共有する。
「えっとー……ふかふかの土とー……少し湿った草。あと石ころも必要だよね。虫はまだいいかな。あ、でも歩いて痛くない程度がいい!」
ソルの頭の中にある“地面”のイメージが、プラの観測によって補助されていく。
観測が“意味”を付与し、存在の“輪郭”が浮かび上がる。
視界が一瞬、揺らいだ。
──ゴゴ……
「……おお!」
それは「生まれる音」ではなく、「あったことに気づく音」だった。
まるで最初からそこにあったかのように、大地は静かにソルの足元に広がっていた。
「できた! 出来たっつーかなにこの感覚……気がついたら大地!すげーっ!」
その驚きと喜びをそのまま声にして、ソルは飛び跳ねた。
足元に弾力がある。踏みしめると少しだけ沈む感覚。
風が吹き、アルボルの葉が揺れると、枝の影が地面に落ちた。
「これこれ、こういうのが欲しかったんだよなー!」
しばらく走り回ったソルは、ついに気づく。
「名前つけなきゃ! ……でもなー、“ガイア”とか壮大すぎて呼びにくいし」
プラが横で見ているのを気にしながら、ソルは笑った。
「ここでさ、“ガイアの丘にアルボルが生えた”って言うより、“この大地のここ”って言う方が自然じゃね?
だから、大地! これで決定〜!」
そして、大地にしゃがみ込み、ぽんぽんと手をつく。
その温もりに触れながら、ふと空を見上げた。
「俺、やっぱりすごいと思うよ。
考えただけで作れるんだもん。
……いや、ちがうか。俺だけじゃ、ダメなんだよな。」
ソルはちらりとプラを見た。
「前に試したんだ。1人で何か作ろうとして──できなかった。
でも、プラと一緒にイメージしたら、ちゃんと生まれた。
これってさ、たぶん“作る”っていうより……“見つける”に近いのかもな」
視線の先には、風に揺れるアルボルの姿。
その根は、大地にしっかりと根ざしていた。
それを見つめるソルの横顔に、プラは微かに微笑んだ。
世界はまだ白く、空も未定。
でもいま、確かに**“そこに在る”**ものが生まれた。
それは「木」であり、「場所」であり──
そして、2人が分かち合った、
**“始まりの実感”**だった。
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