第14話 狂犬お市様の狂犬式リクルート ――人材は拾うものではない、集めるものじゃ――
狂犬記/作者:桃(お市様祐筆)
天文十六年(西暦1547年)四月下旬 春
清州城下・朝
「……よいか、藤吉郎」
「……はい」
「……よいか、桃」
「……はい(嫌な予感しかしません)」
朝の清州城。
空気は澄み、桜は散り、城下は平和――のはずだった。
お市様は、朝から異様にご機嫌である。
つまり、ろくなことを思いついていないということだ。
「これより――」
お市様は、どん、と机を叩いた。
「狂犬家臣団を作る」
藤吉郎「……はい?」
私(桃)「……はい?(二回目)」
お市様は、世界一の美貌で胸を張る。
「わらわ一人で、全部やるのは面倒じゃ」
藤吉郎「正直で助かります」
お市様「故に、人を集める」
私「……兵、ですか?」
お市様は、首を横に振った。
「女じゃ」
藤吉郎「……は?」
私「……え?」
■ 狂犬式リクルート宣言
お市様は、すでに書かれていた紙束を差し出した。
……いや、書かれているというより、殴り書きだ。
「これを、清州の町に貼ってこい」
藤吉郎殿が紙を読む。
【狂犬堂・人材募集】
化粧品に興味がある女性
和裁・洋裁ができる女性
料理に興味がある女性
年齢不問
身分不問
経験あれば尚良し、なくても気合で可
月給制
衣食住あり(たぶん)
※幹部職は激務
※やらわ基準(地獄)
きたれ!未来の若人!
――狂犬お市
藤吉郎「……最後の“やらわ基準”って何ですか」
お市様「わらわ基準じゃ」
藤吉郎「基準が狂犬すぎる!!」
私は紙を覗き込み、震えた。
「……“たぶん”って書いてあります……」
お市様「細かいことを気にするな」
私「雇用条件です!!」
■ なぜ“女性”なのか(お市様理論)
藤吉郎殿は、真剣な顔で尋ねた。
「……姫様、なぜ女性なのですか」
お市様は、一瞬だけ真面目な顔になる。
「女はな」
「生活を動かす」
藤吉郎「……」
私「……」
「肌を見る」
「布を見る」
「台所を見る」
「家族を見る」
「つまり、金の流れを最初に察知するのは女じゃ」
藤吉郎殿は、はっとした。
「……化粧品……服……食……」
お市様「そうじゃ」
お市様は、ニヤリと笑う。
「戦は、男がやる。
だが、国を回すのは女じゃ」
……この十歳児、たまに恐ろしい。
■ 清州の町へ、張り紙ミッション
こうして私と藤吉郎殿は、
張り紙係として清州の町へ放り出された。
藤吉郎「……なんで俺まで……」
私「弟子ですから……」
清州の町は、朝市の真っ最中。
魚売り、味噌屋、布屋、団子屋。
尾張名物、声がでかい。
藤吉郎殿が、張り紙を見せる。
「……ここに貼っていいですか?」
商人「ん? 狂犬お市?」
商人「……あの、美人の姫さんか?」
私(桃)「はい……」
商人「……貼っとけ貼っとけ!
あの姫さんなら、なんか起きる!」
信用が、謎方向に厚い。
■ 女たち、ざわつく
張り紙を見て、最初に反応したのは――
女性たちだった。
「化粧品……?」
「月給制?」
「和裁って書いてあるわ」
「料理好きでもいいって?」
噂は、火より早い。
「狂犬様のところ、給金ちゃんと出るらしい」
「団子も煎餅も作ってるらしい」
「何より……」
「お市様が、世界一の美人」
ここが一番強い。
藤吉郎「……すごい集客力だ……」
私「顔が国宝級ですから……」
■ その張り紙を、見つめる二人
人だかりの外。
張り紙を、じっと見つめる少女が二人いた。
一人は、落ち着いた雰囲気。
一人は、活発そうで、目がきらきらしている。
「……ねぇ、寧々」
「なに、まつ?」
「……これ……本気かな……」
「狂犬って書いてあるけど……」
寧々は、張り紙を読み返す。
「月給制……」
「和裁……洋裁……」
「幹部は激務……」
まつが、にっと笑う。
「面白そうじゃない?」
寧々「……そう、ね……」
二人は、顔を見合わせる。
「……行ってみる?」
「……行ってみよっか」
――この時、
清州の町はまだ知らない。
この二人が、
狂犬家臣団の中核になることを。
■ 帰城:報告
城へ戻ると、お市様は縁側でお茶を飲んでいた。
「貼ってきたか?」
藤吉郎「はい……町中に……」
私「……すでに人だかりが……」
お市様は、満足そうに頷く。
「よい。あとは――」
「選ぶだけじゃ」
藤吉郎「……選ぶ基準は?」
お市様「わらわが気に入るかどうかじゃ」
私「独裁です……」
お市様「当然じゃ」
◉桃の感想(祐筆)
お市様は、人材を“使う”前に“集める仕組み”を作る天才だと思う。
特に女性に目をつけた点は、ただの思いつきではない。
化粧品・服・食を軸に、町と金を回す気でいる。
張り紙一枚で清州の空気が変わった。
張り紙を見ていた寧々とまつ、ただ者ではない雰囲気だった。
藤吉郎殿は、意図を理解しようとしているが、理解が追いつく前に事態が進む。
◉桃の日記(狂犬記)
天文十六年(西暦1547年)四月下旬 春
本日、お市様より「狂犬家臣団を作る」と宣言あり。
兵ではなく、女性中心の人材募集である。
清州の町に張り紙を貼ったところ、予想以上の反響。
特に女性の食いつきが良い。
張り紙を真剣に読む二人の少女を確認。
名はまだ知らぬが、直感的に“縁がある”と感じた。
――以上。
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