彼女はトルネイド

うびぞお

彼女はトルネイド

 おおよそ真面目な女子大生であるカヌキさんこと香貫かぬき深弥みやは、無類の映画好きであり、特にホラー映画を好んで観ている。そんなカヌキさんは、大人っぽいけれどちょっとばかしワガママなミヤコダさんこと都田みやこだ架乃かのとお付き合いをしていて、古い一軒家で同棲生活を送っている。

 そんな二人のなり初めなどは、さておいて。





 __________





 それは土曜日の午後。


 カヌキさんとミヤコダさんは、時間が空いたのでいつものように映画を観て過ごすことにした。時間が空いていたというか、カヌキさんは普段から映画を観るためのスケジュール調整していて、ミヤコダさんは、朝にそれを知って、慌てて昼過ぎまでに用事を済ませてカヌキさんと過ごす時間を作った訳だけど、まあ、そんなことはどうでもいいか。


「わたしばっかり深弥の都合に合わせてる気がするー」

 ミヤコダさんが文句を言ってもカヌキさんは相手にせず、映画を観る準備をしている。

「いや、私は別に架乃あなたに都合を合わせて欲しいとは言っていませんから」

 カヌキさんはソファの前に小さな卓袱台を置いて、その上に紅茶を入れたカップを二つ並べる。

「そういう意味じゃなくて。たまには深弥そっちがわたしに合わせお出掛けとかしてくれたって……」

 ミヤコダさんがゴニョゴニョする。

「あの、どっちかと言えば、普段は私の方があなたに合わせてると思うんですけど」

 今度はカヌキさんが文句を言う。卓袱台の上に小鉢を置いて、袋に入っていたポップコーンをざらざらっと流し込む。これで準備万端のようだ。

 さて、どっちがどっちに合わせている方が多いのか、それは、二人をよく知っている人たちのジャッジに任せるしかない、が、ただ、こと映画に関してはミヤコダさんがカヌキさんに合わせるしかないのは事実。

「もぉ、いいわ。どうせ、深弥はわたしより映画の方が大事なんだから。で、今日は、どんな怖い映画を観るの?」

 ミヤコダさんは若干不貞腐れながら、どかっとソファに座り込み、口の中にポップコーンを放り込んだ。

「映画より架乃の方が大事です。で、今日は、ホラーじゃなくて、ディザスター映画です」

「わたしは深弥がいちばん大事だからね。で、Disaster? 悲惨な映画ってこと?」


「大災害の映画です」



 

 巨大な竜巻が発生するオクラホマ州。主人公は気象予報士の女性、5年前に巨大竜巻を追う研究をしていて超巨大竜巻に遭い、恋人や友人を失っている。そんな彼女は、オクラホマに危機が迫っていることを知り、竜巻を消滅させるために、新しい仲間やライバルと共に再び巨大竜巻を追う……


 竜巻の発生地を予測して、そこに装置を設置して、あえて竜巻に小型装置を巻き上げさせ、装置によって竜巻内部のデータを収集したり竜巻のパワーを低下させたりするのが見どころ。ど迫力の竜巻の映像、竜巻を追うストームチェイサーたちの無謀さと勇敢さ、装置や機材とそれらが設置された自動車のギミック。見どころ満載の派手な映画だった。




「……思ってたより面白くて安心しました」

 エンディングロールを見ながら、そう言って、カヌキさんはソファに改めて体を沈めた。

「これ、一応前日譚があって、30年近く前なんですよ。当時の最先端のCGで作られて、今観ても十分に面白いんです。それで、この映画は続編ではないんですが……」


 ずずっ、


「……ぅく…っ」


 

「なんで、泣いてんですかーぁ!?」

 

 蘊蓄を垂れるのをやめて慌てるカヌキさんだった。カヌキさんにしてみれば、竜巻の映像重視のエンタメ映画なので、どこにも泣くほどの感動要素はなかった、筈だ。

 しかし、隣に座るミヤコダさんは、顔をぐしゃぐしゃにして泣いている。ティッシュボックスを渡すとあっという間に何枚も涙と鼻水でびしょびしょになる。

 一体、何処が号泣ポイントなのか、カヌキさんにはさっぱり分からない。

 

「……って、だって、 う、 これぇ、ひど、ひどく、ない?」








「つまり、要点をまとめると」


 テレビの前のソファに座って、そう言ったカヌキさんの膝に顔を埋めるようにして、ミヤコダさんはカヌキさんに肩や背中を優しく撫でられて、どうやら泣き止んで落ち着いたらしかった。


主人公ヒロインが5年前に竜巻で恋人や友人を亡くしているのに、再度、竜巻を追いかけて、あまつさえ、新しい恋人を見付けてハッピーエンドなのが、悲しいと言うことですね」

 まとめたカヌキさんの声から、カヌキさんが呆れているのが分かる。ホラー映画好きなカヌキさんにとって、ノンフィクションをうたってない映画は、全て非現実ファンタジーだ。ところがミヤコダさんと来たら、すぐに登場人物に肩入れして、可哀想だと言って泣き、怖いと言って怯え、時には一緒になって憤慨する。

 

「だって、もし、目の前で深弥が死んで、アライとかニトウも一緒に死んじゃったら、わたし耐えられないもん、しかも、それがたったの5年で他の恋人を作って、あんなに楽しそうにするなんて、無理! 絶対無理!!」


 カヌキさんはため息をついた。主人公は冒頭で超巨大竜巻に襲われて、恋人と仲間二人を失っているのだ。でも、所詮、そういう映画の設定に過ぎない。

 ちなみにアライさんとニトウさんはミヤコダさんと同じ専攻の親友。


「ただの映画の話ですよ。わたしはこうして架乃のそばにいます。ずっといますから。それに、アライさんもニトウさんも竜巻くらいじゃ死にません」

 ミヤコダさんのお友達はみんな逞しすぎるのだと、カヌキさんがさりげなくディスっていることにミヤコダさんは気付いてない。

「うー」

 カヌキさんの膝の上でミヤコダさんが唸り声を上げる。


「さ、もう泣き止んで。顔を洗って下さい。あ。どこかに夕飯を食べに行きませんか?」



 とカヌキさんが言った途端、ぴょこん、とミヤコダさんが顔を上げる。

「え、どこ行く? どこどこ? 何食べたい?」

 泣いていた筈が、もうケロリとしている。

 そして、あれよあれよという間に、カヌキさんは着替えさせられて、二人で夜の街に繰り出すことになった。カヌキさんには言い返す余地は全くなく、二人は夜のデートに出掛けていく。

 つまりは、ミヤコダさんの願ったとおりになったという訳だ。


 泣いたことなんかなかったように、ニコニコ笑って、楽しそうにカヌキさんの腕を引っ張っていくミヤコダさん。きょとんとした顔のまま、腕を引っ張られてミヤコダさんに付いて行くしかなくなったカヌキさん。

 どうやら、ミヤコダさんというお天気はコロコロと変わってしまうらしい。



「私、架乃っていう巨大竜巻に巻き込まれてばかりいる気がしてます」

「あら、わたしは深弥っていう竜巻を追い掛けてばかりいる気がするわ」


 


 どっちにしても人間はお天気には敵わないのだ。






 


 ☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★

 ネタにした映画

「ツイスターズ」(2024)


 天候系ディザスター映画は数が多くて選ぶのに悩み、どうやってイチャイチャさせるかにも悩み、悩みに悩んで書き始めたらあっさりこんなものになりました。いつもどおりのしょうもない話ですみません。


 さて、カクヨムコン11【短編】『お題フェス』参加4本目、お題『天気』でした。

 1本目お題『遭遇』:『彼女との遭遇」 https://kakuyomu.jp/works/822139841667177282

 2本目お題『卵』:『彼女が卵を、割ってしまった。」

https://kakuyomu.jp/works/822139842160211172

 3本目お題『祝い』:『彼女が祝うのであれば、それは。』

https://kakuyomu.jp/works/822139842535883079

 なお、これまでのところ、PVが多いのは『卵』ですが、どれも★や♡をいただいております。ありがとうございます♪

あと、カヌキさんとミヤコダさんシリーズ以外の短編でも参加しています。百合×アイドル 6000文字全6話のいかにもうびぞおっぽい話です。

『あなたの特別になりたいあたしは誰かの偶像』

 https://kakuyomu.jp/works/16818622172080977946

 

 うびぞお 

 

 

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