第6話 一行の重さ

ペンを置こうとして、

結局、置けなかった。


書く理由はなかった。

書かない理由なら、いくらでもあった。


もう若くない。

今さらだ。

完成させる場所も、聞いてくれる誰かもいない。


全部、正しい。


それでも、

紙の上の空白が、

やけにうるさかった。


——青は、まだ


そこで止まっている一行が、

未完成というより、

保留された感情みたいに見えた。


ペン先を、紙に戻す。


力は入れていない。

綺麗に書こうともしていない。


——青は、まだ

名前を失っていない


一行。

それだけ。


書き終えた瞬間、

胸の奥が、すっと静かになった。


高揚もしない。

涙も出ない。

世界が変わる感じもしない。


ただ、

書いてしまったな、

と思った。


紙を折る。

今度は、

捨てるためじゃない。

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